ロシアがベラルーシへ戦術核を配備する「2つの狙い」
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日本経済新聞コメンテーターの秋田浩之が4月3日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ロシアによるベラルーシへの戦術核兵器配備について解説した。
ロシアがベラルーシに戦術核の配備を表明 ~国連安保理が緊急会合
ロシアが隣国ベラルーシに戦術核兵器を配備する方針を表明したことを受け、3月31日に国連安全保障理事会で緊急会合が開かれた。会合ではアメリカが核による脅しをやめるようロシアに求めたのに対し、ロシアはアメリカこそが同盟国に核兵器を配備していると反論するなど、非難の応酬となった。
アメリカがNATOに核兵器を置いているのはロシアを侵略する意図のためではない ~NPTにおいてはともにグレーゾーンかも知れない
飯田)ロシアは「同盟国に核を置いているではないか」とアメリカを非難していましたが、「自分も同じことをやっているではないか」と思います。
秋田)ロシアの言い分は、おかしい面が多いと思います。未だにアメリカがNATOに核兵器を置いているのは事実です。だからロシア側は、我々も同盟国のベラルーシに核を置いて「何がいけないのだ」と言っているわけです。
飯田)ロシアとしては。
秋田)法律的に見ると、核拡散防止条約(NPT)に基づけば、アメリカが欧州に置いている核も、ロシアがやっていることも、どちらもグレーゾーンかも知れないという解釈はあると思います。
飯田)グレーゾーンであると。
秋田)ただ、アメリカはロシアを侵略する意図があって核を置いているわけではありません。自分たちを守ろうと思って置いているだけです。しかし、ロシアは侵略しているわけです。ウクライナへ侵略し、いまも民間人を殺戮している。侵略国であるロシアが、その延長線上でさらに核をベラルーシに配備するという行為は、アメリカがNATOに核を置いていることとはまったく意味合いが違います。
核の脅しをより強めるためにベラルーシに核を置く ~既にロシアに核は配備済みだが
飯田)いま戦況が膠着していますが、打開するためにこういうことをやるのでしょうか?
秋田)まず、ロシアはアメリカ全土も含めて全部に届く核ミサイルがありますから、ベラルーシに核を置くことで、新たに射程が増えるわけではまったくないわけです。
飯田)ベラルーシに置かなくても。
秋田)では、なぜそんなことをやるかと言えば、「核の脅しを強める」という意味があるのではないでしょうか。具体的に言うと、ウクライナや欧州から見れば、いまはロシアから飛んでくる大砲がずらりと並んでいて、「ちょっと怖いね」という感じです。それに加えて、今度はもっと手前にライフルを100丁置こうとしている。
飯田)もっと手前に。
秋田)ライフルがあってもなくても大砲は届くわけですから、危険は変わらないのだけれど、見えるところにライフルがあれば脅威を感じますよね。
飯田)そうですね。
秋田)射程は短いけれど、ライフルがずらりと並ぶ。「いざとなったら核の戦争になってしまう」という脅しに、より凄みを利かせたいがために置いている、ということが1つ。
ベラルーシに核を置くことでロシアが反撃されるリスクを分散させる狙いも
秋田)また、もしもベラルーシから核を使用すれば、おそらくNATOはまずベラルーシに報復すると思います。ベラルーシを巻き込むことで、ロシアが反撃されるリスクを多少分散させる狙いもあるのではないでしょうか。
飯田)ベラルーシからすれば、たまったものではないですよね?
秋田)ですから、いままでベラルーシは核を置かせなかったわけです。もっと言ってしまえば、旧ソ連時代にベラルーシはソ連の一部であり、核を置いていたので、そういう時代を生き抜いてきたとも言えます。
ベラルーシのルカシェンコ大統領にとってロシアの核を導入することはプラスでもある
飯田)「お前たちも参戦しろよ。しなければ巻き込まれるぞ」と、ベラルーシを脅しているようにも見えますが。
秋田)ベラルーシ国民にしてみたら、核の標的になるリスクが高まるのですから、「冗談ではない」という話だと思います。ただ、ルカシェンコ政権は独裁政権であり、ロシアの核を導入することについて、ルカシェンコ大統領自身は「マイナスもあればプラスもある」と思っているのではないでしょうか。
飯田)プラスもあると。
秋田)核放棄して崩壊したリビアのカダフィ政権や、核を持てなかったために死刑となったイラクのサダム・フセイン元大統領のことを考えると、核を抱えこむことで、自分の政権の命を強めたいという思いがあるのかも知れません。
飯田)同盟国ロシアの核だとしても、持っておくことでメリットを見出してしまう指導者がいるのですね。
秋田)通常戦力の兵器によって政治ゲームをしているならまだましですが、これは核の脅しになりますので、リスクが高いと思います。
通常戦力では止められないと思ったときに、ロシアが核を使う可能性は排除できない ~実行されれば核のタブーが崩壊
秋田)2月にミュンヘン安全保障会議があって、たまたま行く機会がありました。そこでは、ウクライナの戦況がさらに膠着もしくは激しくなった場合、最終的にロシアが小型核を使うリスクについて深刻に議論されていました。
飯田)開戦当初は、そういう議論が日本国内にもありました。いまはリスクが高まってきているという認識がヨーロッパにもありますか?
秋田)下がってはいません。しかも今回のベラルーシへの配備は、繰り返しになりますが、核の脅迫をより強めるという意味があります。プーチン氏は「核の脅しを行えば武器の供与が止まる」と思ったのに、戦車に加えて戦闘機までウクライナに供与されるのではないかと言われている。それは「核の脅しが足りないからだ」と思っているのです。ですから、今後も核の脅しを強めると思います。
飯田)今後も。
秋田)仮にクリミアまでロシアが奪われかねなくなり、「通常戦力では止められないと考えたときは、核を使う可能性が排除できない」というのがミュンヘンでの議論でした。
戦術小型核の配備に動く北朝鮮 ~台湾海峡における中国などにも波及する恐れ
秋田)そうなったときには広島・長崎以来、世界の平和をかろうじて保っていた核のタブーが崩壊することになります。北朝鮮はいま、小型の戦術核を大量に配備しようとしています。さすがにニューヨークに落とす核ミサイルは脅しだと思いますが、戦争になったときに使えるかも知れないと思うから、戦術小型核の配備に動いているのです。
飯田)北朝鮮は。
秋田)核のタブーが崩壊して、「小型核であれば使っても大丈夫だ」となれば、北朝鮮だけでなく、台湾海峡における中国やインド、パキスタンなどにも波及しかねないリスクはあると思います。
ロシアが核を使用した場合の「2つの報復の議論」 ~通常兵器での報復と、核ミサイルを発射した基地に対して小型核で報復する意見がある
飯田)抑止の議論になると、核に対しては核という選択肢になってしまうのですか?
秋田)インドでライシナ会議というものが3月に開かれました。欧州やNATO、アメリカの安全保障専門家が来ていたので、オフレコで「どのような報復を検討しているのか」を取材しました。
飯田)どのような報復をするのか。
秋田)もちろん機密に属するので明確な答えは返ってきませんが、私の受けた印象を2つ言います。まずロシアが核を使ったら核のタブーが崩壊するので、1回きりの出来事だと見せしめなければいけないから、徹底的に報復すると。
飯田)徹底的に報復する。
秋田)「核を使ったらこういうことになるのだ」と、ロシア軍に対して徹底的に報復する。ただ、その場合は通常戦力だと思います。なぜならウクライナが放射能で汚染されてしまうからです。
飯田)だから通常兵器で行う。
秋田)ただ、一部には「核ミサイルを発射した基地に対して、小型核で報復するべきではないか」という意見もあります。そうしないと核のタブーが再建されないということです。いずれにしても、報復しなければ核のタブーが崩壊する。報復すると欧州大戦になってしまうという瀬戸際にあります。
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