トランプ前大統領「起訴」が示す アメリカの政治の「深刻な対立」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が4月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ニューヨーク州の大陪審に起訴されたトランプ前大統領について解説した。

トランプ前大統領「起訴」が示す アメリカの政治の「深刻な対立」

G20大阪サミット 記者会見するトランプ米大統領=2019年6月29日午後、大阪市北区 写真提供:産経新聞社

トランプ前大統領、全34件の罪状を否認 ~無罪主張

ニューヨーク州の大陪審に起訴されたアメリカのトランプ前大統領は現地4月4日午後(日本時間5日未明)、裁判所で罪状認否に臨んだ。トランプ氏は不倫関係にあったと主張する女性に支払った口止め料を不正に会計処理したことなど、起訴された罪状34件すべてについて否認した。

飯田)口止め料の支払いそのものではなく、会計処理の部分ということで、細かいですね。

起訴を検察に勧告した大陪審は選ばれたニューヨーク市民 ~ニューヨークはリベラルな民主党支持基盤

佐々木)見出しだけを見て「トランプけしからん!」と言えば済む話ではなく、今後の影響を考えるとかなり深刻です。

飯田)深刻な話。

佐々木)まず「なぜ起訴されたのか?」という部分ですが、日本と同じように検察が起訴するわけです。検察が起訴するかどうかを決めるのに、まず「大陪審」という裁判員制度のようなものがあって、大陪審が「起訴してください」と検察に勧告できるのです。

飯田)大陪審が検察に。

佐々木)大陪審とは裁判官ではなく、日本の裁判員制度と同じように、無作為に選ばれた市民です。起訴したのはニューヨーク州の大陪審ですが、ニューヨークはリベラルな民主党支持基盤ですから、民主党が圧倒的に強いところです。

検察官は民主党から出た候補として選ばれた検事

佐々木)その無作為抽出の市民が検察に対して「トランプ氏を起訴せよ」と勧告した。さらにトランプ氏を起訴した検察官も、日本だと検察官は司法試験に受かった専門家の方々というイメージがありますが、アメリカでは検察官は選挙で選ばれるのです。

飯田)検察官も選挙なのですね。

佐々木)捜査を指揮している人はアルビン・ブラッグさんという、ニューヨーク州マンハッタン地区の有名な検事です。選挙で選ばれていて、しかも民主党候補なのです。

飯田)民主党から出た候補。

民主党支持基盤のニューヨークの大陪審が、民主党候補として選ばれた検事に「トランプ氏を起訴せよ」と勧告 ~トランプ支持者から見れば「明らかな政治的誘導」

佐々木)民主党が強いニューヨークの大陪審が、民主党候補として選ばれた検事に対して「トランプ氏を起訴せよ」と言って、いま捜査している。

飯田)なるほど。

佐々木)トランプ支持者から見ると、「明らかに政治的な誘導だ」ということになります。

飯田)トランプ支持者からすればそうですね。

佐々木)この辺りは日本とは感覚が違うと思います。日本でも一応、検察官……よく言われる東京地検特捜部なども出てきますけれど、政権との距離が近かったり遠かったり、いろいろと問題があって、ときには田中元首相の逮捕のような問題も起きるわけです。

飯田)かつてありました。

佐々木)ただ、少なくとも「イデオロギー的にどちらかに寄っている」という印象は、日本においてはないですよね。

飯田)確かにそうですね。

検察官が政治に近いアメリカ ~共和党支持者のなかで「トランプ支持率」が8ポイント急増

佐々木)検察官がネット右翼だとか左翼だとか、そんなことは誰も思っていません。一応、政治的には中立だけれど、そのときどきの政権との距離感によって大物を逮捕したりしなかったりすることはある、という印象だと思います。

飯田)日本では。

佐々木)しかし日本とは全然違って、アメリカは政治と近い関係にあります。その結果、トランプ氏の起訴に「明らかに政治的誘導だろう」と共和党側が怒っている。世論調査では、全体で言うと6割ぐらいの人たちが「起訴は当然だ」としているのだけれど、共和党支持者だけを見ると、トランプさんの支持率が急に上がっています。

飯田)5割を超えてきている。

佐々木)52%で、起訴前より8ポイント増えているのです。

共和党内での支持率ではデサンティス氏を大きく上回る ~大統領予備選の追い風となる

佐々木)現状ではトランプ氏以外だと、共和党支持者からはフロリダ州知事のデサンティス氏の人気が非常に高く、「デサンティス氏になるのではないか」と言われていました。「さすがにトランプ氏はないだろう」と。ところが現状を見ると、トランプ支持が52%でデサンティス支持が21%です。

飯田)ダブルスコア以上ですね。

佐々木)しかも大統領選は来年(2024年)ですからね。

飯田)予備選はもっと早いですよね。

大統領選に出馬する可能性が高いトランプ氏 ~「相手を攻撃するだけでは問題は解決しない」ということに

佐々木)トランプ氏は当然、「起訴されようが有罪になろうが出る」と言っています。有罪になったら出てはいけないという法律はないので、「これは冤罪だ」と言い続けて出馬する可能性は高いと思います。

飯田)むしろ「この腐った司法を正すのだ!」と。

佐々木)結果的に今回の起訴によって、ただ分断が進んでいるだけであり、問題解決になっていないのです。多分、「トランプ氏を何とかして終わらせたい」という意思の表れだと思いますが、終わるどころか、ますます共和党側の結束が高まって、トランプ氏の人気を高める結果になった。「ではどうすればいいのか?」という非常に難しい話です。

飯田)そうですね。

佐々木)「相手を攻撃するだけでは問題は解決しない」という典型的なパターンだと思います。

対立が深刻化する政治 ~かつては手を握りながら議論し、ある程度の信頼度があった

飯田)敵味方に分けて白黒はっきりさせると、すっきりはするかも知れないけれど、問題は解決しない。

佐々木)日本の政治も同じで、相手を攻撃して弱みを見つけ、そこを追及すれば何とかなるだろうという形の政治が、最近多くなってきています。

飯田)多いですね。

佐々木)かつて日本が55年体制のころは「与野党激突!」と言いながら、裏では国対委員長同士が手を握り合って、「今回はこのくらいにしておきましょう」というようなことをしていたのです。ところが「そういうことはよくない。何でも公の場で堂々と議論しましょう」となった。

飯田)ガチンコで。

佐々木)それはよかったのですが、やりすぎると結局は対立が深刻化してしまって、「分断が深まるだけだよね」とわかってきたのも、この20~30年の新しい発見だったと思います。

中道の共通部分がなくなり対立関係になってしまっている

佐々木)それを究極までやっているのがアメリカなのでしょう。かつてアメリカでは共和党と民主党は対立しているけれど、議論できるところは議論できる。「手を握りながらも議論はきちんとしようという、ある程度の互いの信頼度があった」とアメリカの政治学者の間でも言われています。しかし、「それが年々なくなってきている」と。

飯田)かつては中道の部分で、共通の軸のようなものがあった。

佐々木)共通の軸、政治認識で「ここだけはみんなで譲り合いましょう。でもここは譲れません」という遊びの部分が減ってきている感じは、確かにあるのではないでしょうか。

飯田)政策ごとの対立から、敵対関係のようになってしまっている。

佐々木)そうですね。憎しみ合うぐらいの感じになっている。なかなか難しい時代だと思います。

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