フィンランドの「NATO正式加盟」で気になるロシアの「今後の動き」

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二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強氏が4月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。フィンランドのNATO正式加盟について解説した。

フィンランドの「NATO正式加盟」で気になるロシアの「今後の動き」

記者会見するバイデン米大統領とフィンランドのニーニスト大統領(左)、スウェーデンのアンデション首相(右)=2022年5月19日、ホワイトハウス(UPI=共同) 写真提供:共同通信社

フィンランドがNATO正式加盟

北欧のフィンランドは4月4日、ベルギー・ブリュッセルのNATO本部で加盟の最終的な手続きを行い、北大西洋条約機構(NATO)に正式に加盟した。フィンランドはロシアによるウクライナ侵略を受けてこれまでの軍事的中立の方針を転換し、世界最大の軍事同盟NATOの31番目の加盟国となる。

飯田)まずNATO正式加盟をどうご覧になりましたか?

合六)ヨーロッパの安全保障秩序において、歴史的な転換点の象徴になるのかなと捉えています。4月4日はNATOの条約である「北大西洋条約」が1949年に締結されて、ちょうど74年目という節目の記念日でした。

飯田)そうだったのですね。

合六)ご存知の通り、フィンランドは長らく軍事的中立・非同盟の立場を取っており、この約70年間はフィンランドがNATOに正式に加盟するのは考えにくい状態でした。ですからロシアのウクライナ全面侵攻が、それだけ大きなインパクトをフィンランドやヨーロッパにもたらしたのだと思います。

「北大西洋の安全に貢献できる国」という要件を満たしていたフィンランド ~申請から1年で加盟

飯田)申請から約1年で加盟することになりました。手続きは早いものだったのでしょうか?

合六)フィンランドやNATOの多くの国からすれば、もう少し早く正式加盟させたかったのだと思いますが、これまでのケースに比べれば早い方だと思います。なぜここまで早かったかと言うと、NATO加盟には要件があり、「北大西洋の安全に貢献できる国」という内容が書かれています。その意味では、フィンランドは長らく「正式なメンバーではないメンバー」と言われるほど、NATOとの間に協力関係があったので、その要件は既に満たしていたということです。

飯田)演習などのさまざまなプログラムには、既に一緒に参加していた。

合六)そうですね。特に2014年のロシアによる一方的なクリミア併合以降、実体的な協力はより強化されてきたので、能力や素地は既にあったということです。

飯田)素地は既にあった。

合六)もう1つは、現在ロシアの攻撃がまだ続いているなかで、申請から正式加盟まで宙ぶらりんのような、脆弱な状況が続いてはいけない。そのため、既にメンバーだった国々も批准手続きを急いだという側面もあると思います。

同時申請したスウェーデンよりもフィンランドが先行して加盟 ~そのリスクはあるのか

飯田)申請にあたってはスウェーデンと同時という形でした。同時申請に関しては「どちらかが先に入ると狙われるから」と言われていました。結果的にフィンランドが先行する形になりましたが、リスクはあるのでしょうか?

合六)安全保障的に考えると、その地域の脆弱性が高まることにはならないと思います。

飯田)脆弱性が高まることにはならない。

合六)ただし、一緒に入ることでリスクを減らしたい意図はあったと思います。また、実際には優位に進められませんでしたが、「加盟できるかどうか」という不確実性が、特にトルコによってもたらされていました。そのため「一緒に入る」と宣言し続けることで、トルコとの交渉を優位に進めようとしたところもあると思います。

加盟後にフィンランド領域にNATOの部隊が配備されるのか、アメリカの核が配備されるのかによってロシアの反応が変わる

ジャーナリスト・佐々木俊尚)フィンランドとロシアとの国境は約1300キロメートルもあり、日本の本州と同じくらいの長大な国境線だと思います。この長い国境線がNATOとロシアの間にできたことは、軍事的にはどういう意味があると思われますか?

合六)一見すると「緊張感が高まるのではないか」という懸念があると思いますが、同時に緊張している状況のなかで、ある種の安定が生まれる可能性もあると思います。

飯田)安定も。

合六)もう1つ考えなければならないのは、加盟したあとにフィンランド領域にNATOの部隊が配備されるのか。また、実際にはなかなか考えにくいのですが、アメリカの核が配備されるのかどうか。こういった細かい条件がどうなるかによっても大きく左右されると思いますし、それによってロシア側の反応も変わってくると思います。

「フィンランド領土にNATO部隊が配備されるのか」が「ロシアがどう動くか」の1つの基準点に

佐々木)現状、ロシア側はどういう反応になりそうですか?

合六)やはり「NATOが拡大した」という事実そのものは嫌なのだと思います。ですから、実際に進められるかどうかはわかりませんが、フィンランドとの国境近辺の軍事強化を進めたいのでしょう。いまは多くの兵力をウクライナに投入しているので、手薄になっているという話もありますが、希望としては軍事強化したいのだと思います。

飯田)できれば軍事強化したい。

合六)ただ、軍事的な行動を起こすことはなかなか考えにくいですし、昨年(2022年)、加盟を表明した段階でのプーチン大統領の発言を見ても抑制的でした。ですから今後、「フィンランドの領土にNATO部隊が配備されるのか」ということが、「次にロシアがどう動くか」の1つの基準点になると思います。

核軍縮を訴えてきた北欧の国々

飯田)アメリカの核の配備がどうなるのかという話もありましたが、フィンランドも含めて北欧の国々は、核軍縮を訴えてきた国々でもあります。その辺りの方針変更もありそうですか?

合六)その点はまだわからないですが、いまご指摘があったように、他のNATOの北欧の国々は自らの領域に核を配備することを禁止しています。

飯田)自国に配備することは。

合六)NATOの一員として軍備管理や軍縮を求めていく可能性はあると思いますが、今後の状況次第によっては、国内で核についての議論が高まる可能性はあると思いますね。

7月のNATO首脳会議までにスウェーデンのNATO加盟はあるのか ~トルコ次第に

飯田)スウェーデンの加盟の見通しはいかがですか?

合六)なかなかこじれています。トルコが反対する理由は、「トルコ側がテロリストと見なすクルド系の武装組織に関わる人間を匿っている」というものでした。それにはスウェーデンなりに対応してきたわけですが、今年(2023年)に入って、極右活動家がコーランを焼却するという事件もあり、スウェーデン・トルコの2国間の関係がこじれた状態が続いています。

飯田)ありましたね。

合六)トルコでは5月に大統領選挙があります。それを見越して「7月のNATO首脳会議までにスウェーデン加盟が決定されればいいよね」というのが、多くの加盟国のなかで共有されている見方だと思います。しかし、トルコ次第になってしまうかなという感じです。

ウクライナ戦争で再認識されるヨーロッパでのNATO、アメリカの存在

飯田)ヨーロッパではある意味、集団的自衛権の価値が再認識されていると思いますが、こういった動きが全世界的、あるいはアジアにも波及しそうですか?

合六)「アジアへの波及が何を意味するのか」ということはあると思いますが、少なくとも、ヨーロッパでNATOに加盟していなかった国のなかでは、NATOあるいはアメリカの存在感の再認識はあると思います。

飯田)ヨーロッパのNATO非加盟国には。

合六)ウクライナでの戦争を見ても、いちばん多くの武器を供与しているのはアメリカです。これまでだと「ヨーロッパが平和であれば、アメリカは必要なのか」という議論があったと思いますが、ここまでの状況になると「やはりアメリカやNATOが必要だ」と、加盟国も加盟していなかった国も再認識しています。

アメリカを必要とするヨーロッパ、アジアの同盟国 ~お互いに競争しては意味がない

合六)それがフィンランドやスウェーデンの加盟申請にもつながっていると思います。当事者であるウクライナの国内世論を見ても、86%の人がNATO加盟を希望しており、かつてないほど支持が高まっている状況だと思います。

飯田)それにアメリカが応えられるかと言うと、「国内に目が向きがちではないか」という指摘もありますが。

合六)まさにその点です。ヨーロッパの同盟国、日本を含めたアジアの同盟国は、両方ともアメリカの存在感を必要としているわけです。

飯田)ヨーロッパ、アジアの同盟国が。

重要な次期大統領選 ~アメリカがどう関わるかということに影響

合六)まず、ヨーロッパとアジアの同盟国がアメリカを自分たちの地域に引き込むために、相互で競争してしまっては意味がありません。

飯田)そうですね。

合六)日本とNATO、あるいは日本と欧州連合(EU)が協力を進めることも必要だと思います。アメリカ自身がどこまで対外的な関与に積極的であり続けられるかも重要です。その意味では、来年(2024年)のアメリカ大統領選挙は重要です。もしかしたら不透明性をもたらす可能性もあります。

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