外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が5月8日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。トルコの大統領選挙について解説した。
トルコ大統領選挙
5月14日に投票されるトルコ大統領選挙まで1週間を切った。選挙には4人が立候補しており、現職のエルドアン大統領(69)と、野党6党の統一候補であるクルチダルオール氏(74)=「共和人民党」党首=の事実上の一騎打ちとなっている。
飯田)ウクライナ情勢においても、トルコは一定の存在感があります。
体はムスリムなのだけれど、頭は西欧を向いているトルコ
宮家)仕事柄、トルコへは何度も行きました。とても親日的な国ですし、旧オスマン朝の大国で素晴らしい国だと思います。ただ、政治的に見ると、エルドアンさんが過去20年間頑張ってきてはいるのだけれど、トルコが置かれた立場は日本と少し似ていて、西欧でもなく東洋でもない中途半端な存在なのです。人間に例えれば、体はムスリムなのだけれど、頭は西欧を向いているわけです。
NATOには入れてもEUの正式メンバーにはなれない
宮家)最大の悲劇は、トルコの人たちがトルコをヨーロッパの国だと思っているのだけれど、ヨーロッパの国々はトルコをヨーロッパとは思っていないのですよ。
飯田)ヨーロッパの国は。
宮家)この悲劇がずっと続いている。トルコは北大西洋条約機構(NATO)には入れるけれど、欧州連合(EU)に入れるかと言うと、オブザーバーにはなっても正式メンバーにはなれないでしょう。
飯田)EUへは。
宮家)トルコ人からすれば「話が違うではないか」ということです。もともとはケマル・アタチュルクの革命があって、イスラム国家ではあるけれども、西欧の世俗主義を目指して頑張った。しかし、何度トライしてもEUには入れない。そのうち「話が違うではないか」と言って、内政がおかしくなってくると、軍がクーデターでまた元の政教分離制に戻す。これが何度かあったのですが、最近はもう元に戻らなくなりました。体がムスリムだからでしょう。
飯田)なるほど。
宮家)エルドアンさんの時代になると、いままでとは少し違い、イスラムというものを前面に出してきた。エルドアンさんは強力な政治家ですし、選挙もうまいので20年勝っているわけですよ。
大きな転機にいるトルコ
宮家)でも権力は長ければいいというものではないから、その意味では、そろそろ潮時だと思うのです。トルコが民主主義であることを考えると、当然のことながら、いつかは政権交代があって然るべきです。それから、イスラム的な政策のなかでも特に気になるのは金利の問題です。
飯田)金利。
宮家)イスラムだと本来、金利はダメでしょう?
飯田)そうですよね。直接お金がお金を生むのはまずいという考え方です。
宮家)金利を上げるべきときに下げたのではないかと言う人もいます。大統領選の野党対立候補は「金融政策を正常に戻すのだ」という言い方をしていますよね。
飯田)インフレで引き締めをしなかったということですよね。
宮家)そうです。そういう意味ではトルコの民主主義にとって、1つの時代が終わり、新しい時代が始まるのか、それともこのまま進むのか。トルコは大きな転機にいるのだと思います。
ヨーロッパと中東に挟まれたトルコがどちらに向かっていくのか ~エルドアン氏が残るか残らないか
飯田)かつてケマル・アタチュルクが世俗主義、ある意味で政教を分離したのが1つの肝でした。イスラム主義的な政策を取ろうとすると、ある程度の人気は出るけれども、行き過ぎたところで軍が正すという状況が繰り返されていた。エルドアンさんが首相になる前まではそういう形でした。
宮家)そうです。エルドアンさんが首相になってからは、軍のクーデターがあったと言われているけれども、それを見事に潰した。
飯田)2016年。
宮家)それ以来、軍はほとんど力をなくしたと言われています。それがいいのか悪いのか。軍が政治に口を出すのはよくないから、それはそれでいいのですが、トルコ全体のことを考えると、ヨーロッパの南方にいて中東との間に挟まれているトルコは、どちらの方向に向かっていくのか。
飯田)ヨーロッパと中東に挟まれて。
宮家)トルコにも潜在的には優秀な人材がいて、以前は経済もよかったわけですからね。それがエルドアン政権の後期になって、あまりよくなくなったのはなぜか。さらに大地震の問題もあります。今回の地震で国民の不満が高まっていると言われています。
飯田)対応に関して。
宮家)意外と日本では注目されていないかも知れませんが、あの地域の政治にとって、エルドアンさんが残るか変わるかということは、地域国際政治にとって非常に大きな転機になる可能性があり、重要だと思います。
飯田)この1週間で変わるかも知れない。
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