G7声明を毎回「無視」するロシアと「反発」する中国 広島サミットですべき「細かな」対応

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学習院大学特別客員教授で元駐インドネシア大使の石井正文が5月11日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。5月19日から開催されるG7広島サミットについて解説した。

G7声明を毎回「無視」するロシアと「反発」する中国 広島サミットですべき「細かな」対応

2023年2月24日、冒頭に発言する岸田総理~出典:首相官邸HPより(https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202302/24kaiken.html)

G7広島サミットまで1週間、招待国との討議拡充へ

5月19日~21日に広島で開催される先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)の主な討議日程案が判明した。世界経済やウクライナ情勢など合計9セッションのうち、新興国のインドやベトナム、韓国といった招待国首脳が参加する拡大会合を3回行う。サミット初日の19日には、岸田総理が平和記念公園で各国首脳を出迎え、原爆慰霊碑への献花や原爆資料館の視察を行うことで調整を進めている。

飯田)広島サミットの意義について、どうご覧になりますか?

石井)私は広島出身ですので、非常に楽しみです。

注目の3つのポイント

石井)個別のことは別にして、注目する点は3つほどあります。1つ目は、どういう国を招待したかということです。2つ目は、やはり広島ですので、核軍縮についてどこまで何が言えるのか。3つ目は、おそらくロシアと中国の対応は微妙に異なるのではないかと思うので、その辺りをどうするのかということです。もちろん他にも、いろいろあると思いますが。

招待国は議長国が4ヵ国と、それ以外4ヵ国の計8ヵ国

飯田)招待国の部分では、日本としてアジアの国々へ重点的に対応していくことが大事でしょうか?

石井)招待国は8ヵ国ですよね。(それぞれの組織の)議長国が4ヵ国で、それ以外が4ヵ国です。議長国に関しては理由がつくわけです。20ヵ国・地域(G20)議長国のインド、アフリカ連合の議長国コモロ、ASEAN議長国のインドネシア。それから今回、面白いのは、太平洋諸島フォーラム(PIF)議長国のクック諸島を呼んでいることです。最近のいろいろな状況を踏まえた、かなり戦略的な決断ではないかと思います。

飯田)なるほど。

石井)ちょうど議長国にインドとインドネシアが入っていたので、大事な2つの国を議長という理由付けで呼べたことはよかったと思います。

広島サミットのキーワードは、「法の支配に基づく国際秩序」 ~民主主義ではなくてもベトナムが招待されていることは重要

石井)でも本当に面白いのは、それ以外の4ヵ国です。

飯田)それ以外の国ですか。

石井)豪州、韓国、ベトナム、ブラジル。豪州はクアッドの一角であり、いちばん大事な国です。韓国は最近の関係改善の流れで、「韓国を重視している」というメッセージとして大きいと思います。

飯田)そうですね。

石井)ベトナムについては「どうして?」と思うかも知れませんが、これは「民主主義ではなくとも大事な国がある」というメッセージだと思うのです。今回の広島サミットのキーワードは、「法の支配に基づく国際秩序」と言われています。

飯田)法の支配に基づく国際秩序。

石井)「民主主義」とは言っていません。ですから民主主義ではなくても、「法の支配に基づく国際秩序」の定義を支持する国とは協力するということです。そういう意味でベトナムが入っているのは非常に重要ですし、南シナ海との関係においても重要です。

中国寄りの発言をするも親日であるブラジル・ルーラ大統領 ~ブラジルにターゲットを絞ることは議長国の戦略的考慮が色濃く反映され、重要な決断

石井)最後のブラジルがなかなか難しいです。もちろん南米重視ということもあると思いますが、「BRICS(ブリックス)」という組織がありますよね。

飯田)ありますね。

石井)ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ。この5ヵ国が徒党を組むと難しいところがあるのですが、インドはクアッドもあり、だいぶこちら側に近付いてきました。次のターゲットはブラジルかな、ということです。

飯田)ブラジル。

石井)そういう意味でも、ブラジルをできるだけこちらに引き込むよう努力することは大事だと思います。新しいルーラ大統領からは、「ブラジルを重視してくれ」という感じが強く出ています。

飯田)そうなのですね。

石井)逆に言うと、「アメリカの言う通りにはならない」、「G7の言う通りにはならない」という感じが強くありますので、少し不確定要素もあります。でも、彼は親日ですので。

飯田)そうなのですか?

石井)親日の人です。そういう意味では、日本で行われる機会を上手く使いながら、こちらへ近付いてもらえるよう努力する。今回だけでは難しいと思いますが、ブラジルにターゲットを絞ることは、議長国の戦略的考慮が色濃く反映され、重要な決断だったと思います。

飯田)ブラジルのルーラ大統領は左派系から出た大統領で、返り咲いたという形です。左派系と言うと反米で、中国に近付いてしまうようなイメージですが、むしろ親日なのですね。

石井)親日ですが、ごく最近にルーラ大統領は中国を訪問し、中国に近い発言をしています。しかし、それで「親中か」と言うと、ルーラ大統領が大事なのはブラジルなのです。

飯田)なるほど。

石井)「ブラジルをきちんと見てくれ」という意識が、彼にとってはいちばん大事なことだと思います。

G7声明を毎回「無視」するロシアと「反発」する中国 広島サミットですべき「細かな」対応

2023年2月24日、総理大臣公邸でg首脳テレビ会議に出席する岸田総理  ~首相官邸HP https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202302/24tv_kaigi.html

抑止力の部分が注目されるなかでの「核廃絶」は逆のメッセージになってしまうのではないか

飯田)先ほど挙げられたポイントで、2つ目の核軍縮についてですが、ロシアはウクライナに対して核の脅しもチラつかせながら侵攻しています。抑止力の部分が注目されるなかで、「核廃絶は逆のメッセージになってしまうのではないか」と懸念を示す方もいます。その辺りはいかがでしょうか?

石井)そういう面もあると思います。結論から言うと、こういう状況ですので、具体的に「前向きに核軍縮へ」ということは、いまは難しいと思います。ロシアの核使用の恫喝があり、一方では中国が積極的に核を増やしている。同時に韓国のようなアメリカの同盟国が「もっと核抑止をしてくれ」と、アメリカに頼み込んでいるという状況ですから。

再び核が増えてしまうかも知れない瀬戸際の状況 ~「核は決して使ってはならない」「究極的には核廃絶なのだ」と再確認する

石井)80年代後半から核は減ってきたわけですが、それがもしかしたら増えるかも知れないという瀬戸際にあるのではないか、というくらい厳しい状況だと思います。

飯田)瀬戸際。

石井)アメリカ国内でも同盟国のことを考えて、これからは核の方に舵を切るという話もあります。逆に、ロシアと握って核軍縮を行い、中国には、そのあと対応するという意見もあります。その辺りの意見が、いまぶつかっている時期なのではないでしょうか。

飯田)アメリカ国内で。

石井)結果的に「核は決して使ってはならない」という話は、広島で行う以上、非常に重要なメッセージです。ウクライナとの関係もあります。それを出すことと、「究極的には核廃絶なのだ」ということを再確認する。この辺りが重要になるのではないかと思います。

ロシアに対してはG7が一丸となって強く批判するべき

飯田)もう1つ、ロシア・中国に対して、ここでグラデーションを付けていくという話ですが。

石井)ロシアによるウクライナ侵攻は決して許されることではありません。台湾への波及を考えても、一丸となって強く当たらなければならない。その点では、G7は合致しています。

中国には「法の支配に基づく国際秩序」を支持するのなら「一緒にできる」と ~ロシアと中国の対応に差をつける

石井)ただ、中国については、ここで正面衝突するかと言うと、それは違うのではないかと思います。フランスのマクロン大統領のように、日和見的なことを言うのはやめて欲しいです。中国に対して最低限の調整はするにしても、出口は閉じないようにしておく。「法の支配に基づく国際秩序」を支持するのなら「一緒にできますよ」ということです。

飯田)中国については。

石井)「あなた次第だ」という格好に持っていくことが大切です。そこはロシアと若干ニュアンスの差が出てくるべきだと思います。

飯田)ロシアとの差が。

石井)G7が声明を出すと、毎回、ロシアは基本的に無視します。しかし、中国はものすごい勢いで反発します。それだけ気にはしているのでしょう。そういう意味でも、中国に対してきめ細やかに対応することは大事ですし、終わったあとも、きちんと説明するべきだと思います。

中国に対しては出口を用意する必要がある ~台湾有事は避けなければならない

飯田)一部報道では共同声明のなかで、「中国に対しても強く対応する」というニュアンスの報道もありますが、その辺りの強さのバランスが必要ですか?

石井)彼らが行っていることで、おかしいことに対しては明確に言う必要があります。でも、出口は必要です。逃げ口を残しておく必要があるのではないかと思います。

飯田)まだ正面衝突するようなフェーズでもない。

石井)紛争を起こさないことが最も重要です。台湾有事などが起きてはいけないので、そういった意味では、中国とコミュニケーションを取っておく必要があります。

飯田)そのために「何かあったら俺たちは団結して動くぞ」というメッセージはもちろん必要ですね。

石井)その通りです。でも、一方で「こういうことであれば一緒にできるよ」という場合もあるでしょうし、その辺りが見どころだと思います。

「グローバルサウス」と十把一絡げにするのではなく、それぞれに対して異なるきめ細やかな対応をすることが重要

飯田)その辺りも含めてアメリカが進めようとすると、やはり大義名分が先立ってしまい、「民主主義が大事だ」となってしまいます。対して日本は、昔は優柔不断で「ノーと言えない日本」と言われましたが、むしろ、いまはその対応がいいのかも知れませんね。

石井)日本的なやり方が、これからは重要になってきます。「グローバルサウス」と言いますが、「グローバルサウス」という塊や、「グローバルサウス」という国はないのです。それぞれの国が置かれた事情で、いろいろな国の顔を見ながら立ち位置を決めています。

飯田)それぞれの新興国や途上国が。

石井)それぞれの国の必要性や悩みに応じて違う対応をしていく、テーラーメイドの対応をしていくことが重要です。それがいままで東南アジアで日本がしてきたことですし、今後ますます重要になります。「グローバルサウス」という言葉は使いやすいですし、使ってもいいのですが、本質的には違います。本質は、それぞれに対して異なるきめ細やかな対応をすることだ、ということを忘れてはいけません。

飯田)「グローバルサウス」という言葉自体も、人によって定義が変わりますよね。かつての「第三世界」のようなイメージがありますが。

石井)もともとは「グローバルサウス」があり、「グローバルノース」があって、それに属さない中国のような国があった。「グローバルサウス」は「グローバルノース」と対立しているけれど、「中国とは仲がいいのだ」という構図をつくるような感覚があったのだと思います。そういう議論に乗ってはいけません。「グローバルサウス」全体の十把一絡げではなく、1つひとつが別なのだと考えるべきだと思います。

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