バイデン政権の「アジア外交への軽視」が、G7広島サミット「予定通り訪日へ」から見える

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キヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司が5月12日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。当初の予定通りG7広島サミットに参加することになったバイデン大統領について解説した。

バイデン政権の「アジア外交への軽視」が、G7広島サミット「予定通り訪日へ」から見える

【クアッド日米豪印首脳会合】日米豪印首脳会合に臨む(左から)オーストラリアのアルバニージー首相、バイデン米大統領、インドのモディ首相=2022年5月24日午前10時31分、首相官邸 写真提供:産経新聞社

G7広島サミット、米バイデン大統領は予定通り訪日へ ~債務上限問題によってオンラインでの出席の可能性もあったが

アメリカのバイデン大統領が、5月19日に広島で開幕される先進7ヵ国首脳会議(G7サミット)にオンラインで参加する可能性に言及したことについて、米国務省のパテル副報道官は「現時点で計画に変更はない」と述べ、予定通り訪日する方針を明らかにした。

飯田)債務上限問題をめぐって、アメリカを離れられないと言われていましたが。

アメリカの影響力が落ちる要因の1つにもなりかねない

峯村)おそらく岸田政権の人たちも一瞬、「大丈夫か?」となったと思います。ウクライナ侵攻があり、台湾有事の可能性についても言われているときに、国内の債務問題でG7に来ないなどということになったら、と冷や汗をかいたと思います。アメリカのいないG7は、まったく意味のない会合になりますからね。

飯田)「よりにもよってこのタイミングか」という話ですよね。

峯村)これも台湾で言われている「疑美論(ぎべいろん)=アメリカを疑う」に近いものがあって、この話はアメリカの影響力が落ちる要因の1つにもなりかねないですよね。

オバマ政権のときから始まっている債務問題 ~アメリカの力が落ちていることと内向きなところがセット

峯村)債務問題はバイデン政権で初めて起きている話ではなく、私がワシントンにいた2010年代のオバマ政権時代から始まっています。2013年にオバマさんは、債務問題でアジア歴訪をキャンセルしました。

飯田)アジア太平洋経済協力会議(APEC)に来なかった。

峯村)あのトラウマが日本をはじめ、アジアの国々には根強いのです。あのようなことをすると「アメリカにはもう頼れないのではないか」という世論が出てきてしまいます。つまり、疑美論ですね。そこに中国などがどんどん入り込んでくるという状況が、いま加速しているような感じがします。

飯田)オバマ政権の2期目で議会がねじれ、債務上限問題が政治問題化した。あのときは政府閉鎖までいきましたからね。

峯村)いきました。ある意味、アメリカの力が落ちているところもありますし、内向きになっているところとセットですね。先日インドに行ったときも、インドの方々と話していると「アメリカの時代は終わった」と言う方がかなりいらっしゃいました。

アジア軽視がときどき出てしまうアメリカ

峯村)2017年のトランプ政権時代、アジア歴訪に私が同行したときも、フィリピンにいたのですが、最後にドタキャンして「国際会議には出ない」と言って帰ってしまった。

飯田)ありましたね。

峯村)あのあとに出席した東南アジア諸国連合(ASEAN)の国々の人は、「ほら見ろ。だからアメリカは信用できないのだ」と言っていました。この辺りはアメリカの人たちに対し、ことあるごとに「アジアの人たちの信頼を失うようなことをしたらダメですよ」と言っているのですが、「アジア軽視」とも受け取れられる行動は、共和・民主の政権を問わず、出てくることがあります。

G7出席後、クアッド首脳会議に向かう途中でパプアニューギニアに立ち寄るバイデン大統領 ~アジア歴訪を共和党に対しての取引材料に

飯田)今回、バイデン大統領はG7に出席したあと、オーストラリアで開催されるクアッドの首脳会議に向かう途中で、パプアニューギニアに立ち寄る予定です。こちらとしては、かなりセットされているのに、「それを人質に取るような交渉をするな」と思いますね。

峯村)最初の文言を見たとき、おそらく共和党に対する取引材料として言っているのだなと思いました。

飯田)共和党に「これをぶち壊しにする覚悟があるのか?」と。

アジア軽視がアメリカの国益を害していることを同盟国が教える必要がある

峯村)逆に言うと、それは重要な外遊をある意味、軽視しているとも取れますよね。

飯田)そうですよね。「カードの1枚ぐらい」としか思っていないのだと。

峯村)「こんなに重要なアジア歴訪があるのだから待っていろ」と言うのが普通ですよね。それを取引材料として持ってきてしまうところを見ると、「バイデン政権のアジア政策は本当に大丈夫か?」と思いますね。

飯田)そうですね。

峯村)それが「どれだけアメリカの国益を害しているのか」については、しっかりと日本も含め、同盟国が教えなければなりません。

内向きでそのことに関心がないアメリカ

峯村)私がワシントンにいたときも、アメリカは本当に内向きだと感じました。外のことにあまり関心がないし、見ていないし、知らないのです。

飯田)見ていないし、知らない。

峯村)同盟国としてしっかりと国際問題に関心を持ってもらう必要があります。そうしないと、疑美論がアジアに広がる事態になりかねない。そうなると、日本の安全保障にもダイレクトに影響してきます。

飯田)そうですよね。アジアの国々はASEAN各国やクアッドで進めようとしているけれど、背骨になるのはどうしても日米同盟です。

峯村)そうですね。

飯田)そこが「本当に……」ということになると、日本国内でも疑美論が広がってしまう。

1つの失策や失言が力の空白を生んでしまう ~朝鮮戦争での歴史を学んでいない

峯村)そうなってしまいます。まだそこまでには至っていませんが、1つひとつの失策や失言が力の空白を生んでしまうのは恐いですよね。過去を振り返っても、いろいろなアメリカ高官の失言などがありました。例えば朝鮮戦争もそうですね。

飯田)朝鮮戦争。

峯村)当時のアチソン国務長官が「俺たちが守るのは日本までだ」というようなことを言ってしまい、それを見た金正恩(キム・ジョンウン)氏のおじいさんである金日成(キム・イルソン)氏が、「アメリカは来ないではないか。では攻めてしまえ」と判断して韓国に侵攻したわけです。大国の高官の一言は、本当に戦争を引き起こすことにもつながりかねません。それをしっかりとアメリカにも自覚してもらうことは重要です。

飯田)ある意味、バイデン大統領が「ウクライナには兵隊を送らない」と先に言ってしまったことが、いまのウクライナ情勢に影響しています。

峯村)それと同じです。

飯田)似たような感じですよね。

峯村)本当に似たような形ですし、構図は同じです。まったく歴史を学んでいないことになりますね。

債務上限問題を引き起こしたのはデッドラインを言ってしまったイエレン財務長官のミス

飯田)債務上限問題に関しては、米現地時間12日に予定されていたマッカーシー下院議長とバイデン大統領の会談が、来週に延期になりました。ますますサミットが近付いてしまう。

峯村)本当ですね。いまのバイデン政権のやり方を見ていると、非常に不安ですよね。前回ワシントンに行ったときも、イエレン財務長官の影響力が政権内で増えていると聞きました。財務の分野だけでなく、経済安全保障の分野や対中国政策に関しても存在感が出てきているそうです。今回も結局、イエレンさんのある意味、ハンドリングの問題があります。ミスと言ってしまっていいと思うのですが、それが債務上限問題を引き起こしている。

飯田)「6月1日までに枯渇する」というデッドラインを言ってしまいました。

峯村)言ってしまったのです。外遊の予定まで出ていて、わかっている話なのに、それを言う必要があったのかという判断も軽率ですよね。

外遊がセットされているなかでの発言はアメリカがアジア外交を軽視しているからか

飯田)そういう報道が出ると、政治闘争的には「ギリギリまで追い込んでやろう」となりますよね。

峯村)「そこを考えているのか」ということは疑わしくなってきます。

飯田)本来であれば、外遊がセットされているのだから、ホワイトハウスとして「そこまでは言うな」とコントロールされるはずですか?

峯村)されないとダメですよね。本来ならば。閣内で一致されるはずですが、それができていないということは、やはり外交、特にアジア外交を軽視しているのではないかという疑義が生じてきます。

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