「内戦に向かう国」の条件を満たす「アメリカの現状」
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地政学・戦略学者の奥山真司が5月16日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。内戦に向かいつつあるアメリカの現状について解説した。
衆議院の解散について、岸田総理大臣が情勢を見極めて判断する考えを示す
岸田総理大臣は5月15日に行われた各社共同のインタビューで、衆議院の解散・総選挙の時期に関し、政治状況を見極めて決断する考えを示した。防衛力強化や少子化対策といった政策に優先的に取り組んでいると説明。「課題に次々挑戦していくなかで、どのタイミングで国民の審判を仰ぐのかは、まさに今後の情勢を踏まえ、時の首相の専権事項として適切に判断する」と述べた。
飯田)これまでは「いまのところそういう考えはない」と述べていましたが、「適切に情勢を見極めて判断する」としたため、踏み込んだのではないかということで、5月15日にこのニュースが永田町を駆け巡りました。その後、官邸で記者団に対し「衆議院の解散は考えていない」と。「一般論についていろいろ話したが、終わりに重ねて解散は考えていないと申し上げた。それに尽きている」と言明しています。ハレーションが起きたので「火消しに回った」という一連の流れですね。
「やることをやっている」とアメリカなどから評価の高い岸田総理
奥山)G7広島サミットが注目されていますし、岸田総理はタイム誌の表紙も飾りました。見出しの件で問題になりましたが、内容的には「日本の選択」ということで、「世界の国際秩序を担っている」と好意的な形になっています。
飯田)そうですね。
奥山)安倍さんのときもそうでしたが、アメリカ側の戦略界隈でも、岸田さんの評価は高いですね。やることをやっていると。
飯田)やることをやっている。
奥山)世界の民主主義国には、政治的に安定していない国が多くあります。そのなかで日本は安定経営しているという安心感を、同盟国たちに与えている印象があるようです。
飯田)タイム誌の表紙も、最初は「パシフィズムを捨てて」と書いてあり、「平和主義を捨てて軍国主義になる」というような見出しでしたけれど、「パシフィズムってそういうニュアンスでしたっけ」と思いました。
奥山)インタビューの記事を読むと、「国際的な役割を果たしていこう」という内容なので、タイム側のつけた見出しには恣意的なものがあったのではないでしょうか。
飯田)かなり角度をつけていますよね。
アメリカは内戦に向かっているのか
奥山)サミットが行われるなかで、日本は安定しているからいいのですが、背後にいる国際秩序を担う役割を果たさなければならないアメリカ自身が、「内戦に向かっているのではないか」という議論が起きています。
飯田)内戦に向かっている。
奥山)内戦と言っても南北戦争のようなものではなく、もう少し違う意味で、政治的分断が過激化した状況ではないかと見ています。
飯田)政治的分断が過激化した状況。
奥山)3月に、『アメリカは内戦に向かうのか』という本が出ました。カリフォルニア大学の先生で、バーバラ・ウォルターさんという女性の方が筆者です。「内戦研究」という分野に従事しており、世界の内戦を調べて共通項を探っています。
飯田)バーバラ・ウォルターさん。
奥山)この方はCIAとも共同研究されていて、アイルランドやゴラン高原、アフリカなど、世界各地の内戦が起こった国を訪れています。現地調査を踏まえた本格的な内戦研究の権威です。この方によると、内戦には2つの共通項があると言われています。
内戦が起こりやすい国の2つの条件 ~成熟した民主主義と完全な独裁制の中間にある国
奥山)内戦が起こりやすい国には、2つの条件があると言うのです。1つ目は、成熟した民主主義と完全な独裁制の中間にあること。
飯田)成熟した民主主義と完全な独裁制の中間。
奥山)成熟した民主主義国の例は、北欧のデンマークやノルウェーやスウェーデン、スカンジナビアなど。この国々はしっかりと民主主義が根付いていますし、安定しています。
飯田)民主主義が根付いている。
奥山)反対に独裁制の国、北朝鮮などは内戦が起こらないではないですか。あまりにも独裁すぎて動きがないのです。不満がうまく回らずに安定してしまう。
飯田)なるほど。
奥山)このように安定している国は内戦が起こらないのですが、ちょうど中間にあたる国、特にこれから民主化しようとしている国は、内戦が起こると言われています。成熟した民主主義と完全な独裁制の中間で内戦が起こりやすいというのが1点目です。
国民の間に人種や文化で分断がある国 ~政治文化が激しく分断するアメリカ
奥山)2つ目の条件は、国民の間に人種や文化で分断があることです。アメリカはいままさに成熟した民主主義から、やや微妙に外れてきています。その点では1つ目の条件に合うし、2つ目の条件である、国民の間に人種や文化で分断があるという条件にも当てはまる。メディアを見ると、いま民主党と共和党の間で政治的な議論が分かれています。
飯田)分断されていますね。
奥山)政治的分断がアメリカのなかで起きている。そういうことを象徴する出来事が先日ありました。CNNが報じていますが、5月10日にトランプ前大統領がニューハンプシャー州でタウンホールミーティングを行いました。そのとき、トランプ前大統領は言いたい放題だったそうです。
飯田)言いたい放題。
奥山)タウンホールミーティングは、公民館ぐらいのところに100人~200人ほど集めて、支持者と1対1で会話するというようなものです。CNNは司会者を入れて1時間くらい放送しましたが、その生中継のなかで、トランプ前大統領は「選挙は盗まれたのだ」というようなことを未だに言っているのです。
飯田)大統領選挙には不正があったと。
奥山)トランプさんは性的暴行疑惑で訴えられていますが、訴えている側の女性を卑下するような内容を言うなど、言いたい放題でした。しまいにはCNNの女性司会者に対して、「あなたは汚らしい人間ですね」と面と向かって言うのです。
飯田)番組の司会者に向かって。
奥山)それでも、トランプ前大統領のそういう発言が出ると、会場内の半分くらいの人間から拍手喝采が起こるのです。
まさに内戦へ向かっているアメリカ
奥山)アメリカの有権者のなかで、世界観がまったく違ってしまっている。政治文化がこれだけ違って分断が起こっているという点は、バーバラ・ウォルターさんの『アメリカは内戦に向かうのか』で書かれた、内戦が起こる条件に当てはまります。
飯田)国民の間での分断。
奥山)いままでアメリカは世界の内戦を単に見るだけで、「うちは関係ないよ」と言っていたのですが、バーバラ・ウォルターさんは世界各国を見て、「アメリカでも同じことが起こっている」と気付いてしまったのです。
飯田)アメリカでも起こっているではないかと。
奥山)先ほど「南北戦争のような形ではない」と言いましたが、小規模だけれど、白人至上主義の人たちが銃乱射事件を起こすような事態は度々起きています。そういう意味では、バーバラ・ウォルターさんが言っている内戦とは別のタイプの内戦なのですが、そういうところに向かいつつあるのかと心配ですね。
対立相手に妥協できない状況になってしまっている
飯田)一方で、右派的なところで極端な行動もあります。左派的なところでも、自分たちが気に入らない意見を言うような人たちに対して「人種差別主義者だ」などといろいろなレッテルを貼り、社会的に抹殺しようとする動きもあります。
奥山)ありますね。
飯田)左右両方が「気に入らないものに対しては実力を行使してもいいのだ」という考えになっていき、そこで衝突が起これば内戦になってしまう。
奥山)実際に、LGBTQのパレードに対して銃を持った白人至上主義者が並ぶなど、お互いに対する嫌がらせが低いレベルで起こっています。
飯田)LGBTQのパレードに対して。
奥山)昔であればお互いに妥協するような傾向があったのですけれど、それができないような状況になっているのが恐ろしいですね。
飯田)そこと岸田さんは向き合わなければならない。
奥山)そうですね。どうなってしまうのでしょうか。
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