LGBT法案 必要な「視点」 抜け落ちた「視点」

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元参議院議員の松浦大悟氏が5月17日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。LGBT法案について解説した。

LGBT法案 必要な「視点」 抜け落ちた「視点」

自民、公明両党は与党政策責任者会議を開き、LGBTなど性的少数者への理解増進法案の自民修正案を正式に了承した。中央は挨拶する自民党の萩生田光一政調会長=2023年5月16日午後、国会内 写真提供:産経新聞社

LGBT法案

LGBTなど性的少数者への理解を増進するための議員立法をめぐり、自民・公明両党は超党派の議員連盟がまとめていた法案の差別に関する文言を変更した修正案を正式に了承し、今週中の国会提出を目指す方針。自民党総務会は5月16日午前、「差別は許されない」という文言を「不当な差別はあってはならない」などと変更する修正案を了承し、党内手続きを終えた。

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自民党・遠藤総務会長)満場一致で了承いただきました。少なくとも、いままでなかった法律を皆さんの合意のもとで進めてきたわけですから、大きな進歩だと思っております。100%みんなが納得するものをつくるのは難しい話であって、少しでも前進している。そうしたことの努力を積み重ねてきたわけですから、そういう意味では大変評価していいものだろうと思っております。

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自民党において、LGBT理解増進法案がつくられた経緯

飯田)松浦さんは、この法案について以前から何度も言及されていますが、どうご覧になりますか?

松浦)なぜ自民党において、LGBT理解増進法案がつくられたかと言うと、いま全国の自治体ではさまざまなLGBT活動家が学校に招かれ、講演を行っています。

飯田)学校に招かれて。

松浦)そのなかには、トランスジェンダーの団体の集まりに行くのに、親に嘘をついて家から出るためのテクニックを教える活動家もいるわけです。そうした人が多様性条例の推進委員に名を連ねているのです。

飯田)嘘をついて家を出るテクニックを教えるような人が。

松浦)そこで、こうした動きに歯止めを掛け、「国として一定の基準を設けましょう」ということで始まったのが、理解増進法案です。その意味において、野党案に近かった与野党合意案を原案に近い形に引き戻したことは評価できますが、それでもなお心配すべき点が残っていると思います。

広島県安芸高田市が「子どもを持てないLGBTへの配慮を欠いているから」と婚活イベントを廃止 ~トイレの問題に発展する可能性も

飯田)具体的に心配する点はどこでしょうか?

松浦)差別の定義が不明瞭なことです。例えば全国の自治体では、少子化対策の一環として婚活イベントを行っています。ところが、広島県安芸高田市は2021年に婚活イベントを廃止しました。

飯田)理由は何でしょうか?

松浦)子どもを持てないLGBTへの配慮を欠いているからだと言うのです。でも、それは本当に差別なのでしょうか。もしこれが差別なのだとすると、税金を使って行われている婚活イベントなどは、すべてやめなければなりません。

飯田)確かにそうですよね。それどころか、これが差別だということになると、トイレの話など、いろいろなところに発展する可能性があります。

松浦)(修正案では)「性自認」を「性同一性」に置き換えましたが、どちらも“Gender Identity”を和訳したもので、主観を前提にしていることに違いはないのです。

飯田)主観を前提にしている。

松浦)現在、経産省のトランスジェンダーの職員が「女子トイレを使わせて欲しい」と裁判を起こしていて、最高裁で審理が行われています。その方は性同一性障害の診断書を医者からもらっているのですが、健康上の理由から男性器を切除することができないのです。もし、こうした方を女性専用のスペースに入れなければ、LGBT団体は不当な差別だと主張すると思います。

「性自認」と「性同一性」 ~「性自認」に「自称した性別が自分の性別なのである」というニュアンスが付いてきたことが自民党の部会で問題に

ジャーナリスト・佐々木俊尚)性自認と性同一性に関して、元の英語が同じだということに気付かなかったのですが、もう少し詳しく教えていただけますか?

松浦)“Gender Identity”という言葉を翻訳したときに、「性自認」と「性同一性」という2つの言葉ができたのです。学術用語としては「性同一性」を使っていたのですが、一般的にもう少し柔らかい表現がいいということで、「性自認」という言葉をマスコミなどが使い始めました。

飯田)柔らかい表現ということで。

松浦)ところが、日本語に訳したときに、違うニュアンスが付いてくるようになってしまったのです。つまり、自分が「女性と言えば女性、男性と言えば男性」という、「自称した性別が自分の性別なのである」というニュアンスが付いてきた。これが自民党の部会で問題になったのです。

何を差別とするのか、何を性同一性とするのかという定義をもう少し盛りこんで欲しい

佐々木)「性同一性」という場合には、自称だけでなく、プラスアルファしたようなニュアンスがありますよね。

松浦)社会性や時間性が大事で、自分だけの主観ではなく、「第三者からどのように見えているか」、「どれくらいの期間、その性で生活しているのか」というところも加味されます。しかし、精神科医に言わせると、それも主観ベースで判断するしかないそうです。

佐々木)「性自認」、「性同一性」の表現について、もしくは「差別」、「不当な差別」という表現にしても、何を差別とするのか、何を性同一性とするのかという定義をもう少し盛りこんで欲しい感じもしますよね。

イギリスでは適用除外規定によって女性専用スペースが守られている ~別途、女性保護法をつくって欲しいという要求も

松浦)G7のなかには、LGBTに特化した差別禁止法というものはなく、包括的な平等法のなかにLGBTも組み込まれている構造なのです。例えばイギリスの平等法は大変よくできており、LGBTへの差別禁止も謳ってはいるのですが、それと同時に適用除外規定が設けられているのです。

飯田)適用除外規定。

松浦)これによって女性専用スペースが守られています。また、保護すべき性的指向について、同性愛、異性愛、両性愛と定義がしっかり書かれているのです。つまり「保護すべき性的指向のなかには、動物性愛やペドフィリアは含まれない」ということが謳われているわけです。残念ながら、LGBT理解増進法案にはこの視点が抜け落ちているので、別途、女性保護法をつくって欲しいという要求も出ています。

同性愛者やトランスジェンダーも守られなければいけないが、異性愛者の生存権も守らなければならない

飯田)確かにイギリスなどは、むしろ女性専用トイレはつくらなければいけないというような通達が出されています。バランスの部分で、いまの法律だけだと「違うぞ」という事態になるのでしょうか?

松浦)おっしゃる通りだと思います。同性愛者やトランスジェンダーも当然、守られなければいけないのですが、異性愛者の皆さんの生存権も守らなければならないと思います。

佐々木)お風呂の問題やトイレの問題など、女性の権利とトランスジェンダーの権利などが、どこかで衝突してしまうことがどうしても起きてくる。衝突が予想される部分をどう調整するのかという思想も、もう少し盛り込んで欲しいですよね。

松浦)そうですね。国会審議のなかで明らかにしていくと言われていますけれども、各政党でしっかり議論を積んでもらいたいと思います。

飯田)この法律だけでは、その調整機能は欠いていますか?

松浦)そうですね。さまざまな疑問点には答えられていないと思います。

飯田)「これは理念法なのだから」というような話もありますが、理解増進のための施設など、具体的なことも書かれているようですね。

松浦)そこにどのような方が講師として派遣されていくのか、そしてどのようなLGBT団体に教材の発注をしていくのか。その辺りも不明瞭なのです。

LGBT法案 必要な「視点」 抜け落ちた「視点」

※画像はイメージです

日本においてLGBT法案に「関心がない」当事者がほとんどである理由

飯田)この法案について、当事者の方々の捉え方などはいかがですか?

松浦)賛成の方や反対の方、さまざまいらっしゃるのですが、「関心がない」という方がほとんどだと思います。

飯田)関心がない人がほとんど。

松浦)2022年に殺されたトランスジェンダーの数を見たときに、アメリカは51人、EUは14人、日本は0人です。

飯田)日本は0人。

松浦)欧米各国から「日本はLGBT後進国だ」と言われるのですが、法律はあるけれども年間100人近くが殺される国と、法律はないけれどもほとんど殺されない国のどちらが先進国なのか、一概には言えないと思います。こうした日本の状況においては、「法律そのものがいらない」という当事者は大変多いです。

飯田)トランスジェンダーであることなどを理由に、ある意味のヘイトクライムが起こっているかどうかも、日本と状況は違いますからね。

佐々木)キリスト教的な価値観が強い国に対して、日本はそうではないですからね。

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