「LGBT理解増進法」の何が「問題」なのか
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元国会議員の松浦大悟氏が3月3日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。LGBT理解増進法について語った。
LGBT理解増進法
「LGBT理解増進法」は、自民党の性的指向・性自認に関する特命委員会が法制化を進めている法案で、正式名称は「性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律」。差別禁止ありきではなく、あくまでもLGBTに関する基礎知識を全国津々浦々に広めることで国民全体の理解を促すボトムアップ、底上げ型の法案になっている。
新行)LGBT理解増進法が今国会の争点の1つになっています。松浦さんはご自身がゲイであることをカミングアウトされ、著書『LGBTの不都合な真実』も出版されています。当事者の方々のなかでも、さまざまな意見や考え方があると思いますが、松浦さんはどのように捉えていらっしゃいますか?
国会にある3つのLGBT法案 ~「元祖LGBT理解増進法」「LGBT平等法」(野党案)、「修正LGBT理解増進法」(与野党協議によって修正)
松浦)国会には、3つのLGBT法案があります。1つ目は、もともとの自民党案である「元祖LGBT理解増進法」。2つ目は、野党案である「LGBT平等法」……これは以前「LGBT差別解消法」と呼ばれていたものです。3つ目は、与野党協議によって手直しされた「修正LGBT理解増進法」。この3つがあります。
よくできていた「元祖LGBT理解増進法」 ~当事者がカミングアウトしてもしなくても問題なく受け入れられるような社会を築いていく
松浦)私は、1つ目の元祖LGBT理解増進法については、なかなかよくできたものだと思いました。社会側が変わることによって、当事者に過度な負担をかけない。当事者がカミングアウトしてもしなくても、問題なく受け入れられるような社会を築いていくという内容だったのです。
新行)なるほど。
松浦)ところが、LGBT活動家の人たちは「理解増進は生ぬるい」と。「差別禁止でなければダメなのだ」と言っているわけです。その結果、与野党協議で「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」という文言が入ることになりました。皆さんは「差別が許されないという文言の何がいけないのか」と思われるかも知れませんが、LGBT問題は大変複雑で難解な問題なのです。だから『マイケル・サンデルの白熱教室』でも度々取り上げられるテーマなのです。「差別は許されない」という言葉が入ることによって、さまざまなコンフリクトが生じてしまうと思います。
与野党協議によって「性的指向および性自認を理由とする差別は許されない」という文言が入ることに ~アメリカで起きているトランス女性の水泳選手の問題
新行)「差別は許されない」という言葉は、「何を差別とするか」が書かれていないところが問題だという意見もあると思いますが、いかがでしょうか?
松浦)おっしゃる通りですね。アメリカの水泳界には、トランス女性であるリア・トーマス選手がいますが、彼女はアメリカの大学の水泳選手権で金メダルを獲りまくっているのです。身長は190センチあり、身体はまったくの男性です。手術はしておらず、その上から女性用の水着を着ているのですね。そして女子更衣室でも男性器を隠さずに歩いているそうです。他の女子選手が「何とかして欲しい」とコーチに頼んだのですが、「我慢するしかない」と言われてしまった。裁判で訴えられたらコーチ側が負けてしまうからです。
新行)それが差別だと。
「性自認を理由とする差別は許されない」というLGBT理解増進法ができれば、中学総体や高校総体はどうするのか
松浦)そうなのです。「性自認を理由とする差別は許されない」というLGBT理解増進法ができれば、直ちに、高校総体や中学総体はどうするのかという問題が出てきます。
新行)そうですよね。
松浦)日本でも、女子大は「トランス女性を女性として受け入れる」と表明していますが、レズビアンを公表している同志社大学の教授は、「部活動のお風呂なども、他の女子学生と一緒にしなくてはならない」と言っています。でも内閣府の調査によると、日本では14人に1人の女性が性暴力被害に遭っているのです。彼女たちは男性の身体を見ただけで恐怖を覚えてしまう。「男性の身体は見たくないという意見を表明することも差別になるのか」ということです。
多くの人は「LGBTが何か」を深く理解していないのでは ~LGBTの「T」はトランスジェンダーのことで「性同一性障害」のことだけではない
弁護士・野村修也)法案の話が出てきた背景には、首相秘書官の発言もあったと思います。あれは論外な発言でしたが、それをきっかけとして、法案自体が政争の具になっているという見方はできませんか?
松浦)LGBT問題は腰を据えて、落ち着いて議論しなければならない話なのに、何か拙速に物事を進めているような雰囲気を感じます。「岸田首相が火消しをしようとしているのではないか」と、一般の当事者の皆さんは感じていると思います。
野村)野党側の意見を丸のみするような形の議論になると、「平等」という言葉が独り歩きしていくような傾向が、いま見えているのでしょうか?
松浦)そうだと思います。多くの人は、「LGBTとは何なのか」をわかっていないと思うのです。「LGB」に関しては性的指向の問題として、何となく男性が男性を好きだったり、女性が女性を好きだったりというイメージを掴んでいると思います。しかし、「T」はトランスジェンダーの意味ですが、これは性同一性障害のことではないのです。
身体に違和感がないのに性別移行をしたい人や、女性下着愛好家もトランスジェンダーに含まれる ~すべてのトランスジェンダーに自己申告だけで戸籍の性別変更ができるよう、政府に要望書を提出した日本学術会議
松浦)性同一性障害の人も含まれるけれど、それよりももっと広い概念なのです。
新行)もっと広い概念。
松浦)性同一性障害の人は「身体の性と性自認」が一致しないので、苦しくて仕方がない。だから手術して、身体の性を性自認に近付けていこうとするわけです。しかし、「身体に違和感がないのに性別移行をしたい」という人もいます。先ほどのリア・トーマス選手のような人です。
新行)身体に違和感がないのに性別移行をしたい。
松浦)これを「トランス女性」と言います。その逆で、トランス男性もいます。さらには異性愛者の女装家の皆さんもトランスジェンダーなのです。つまりは子どもがいて、週末だけお店に行って女装を楽しむ人がいますが、彼らも国連の定義ではトランスジェンダーなのです。
新行)そうなりますね。
松浦)さらには「オートガイネフィリア」と呼ばれる方々もいますが、これは女性用下着を着けている自分自身に欲情する人たちです。国連の定義では、こうした人たちもすべてまとめて「トランスジェンダーだ」としています。日本学術会議は、こうしたすべてのトランスジェンダーに関し、自己申告だけで戸籍の性別変更ができるよう政府に要望書を出していて、野党もそれに乗っかっているのです。
スペインでは16歳から自己申告で性別変更が可能 ~この欧米基準に日本も合わせるのか
松浦)スコットランドでは4歳から、スペインでは16歳から自己申告で性別が変更できるようになりました。これが欧米基準で、日本でもそれをやるのかどうかという話です。
野村)更衣室やトイレの問題など、いろいろなことがすぐにでも大きな争点になりますね。
松浦)海外では、こうした事件が毎日のように起こっているのに、なぜか日本にはあまり伝わる機会がないのも不自然に感じています。
野村)悪用する人も出てくるわけですよね。自己申告すれば認めてもらえるなら、本来はそうではないのに、あたかもそうであるように主張することで、女子更衣室に入ってしまうかも知れない。それがいまの「平等」という言葉のなかで防止しにくくなる、という理解でいいのでしょうか?
松浦)そうだと思います。
カリフォルニアの韓国風スパで起きた事件
松浦)カリフォルニア州では、韓国風スパにトランス女性の方が入って大問題になったことがありました。半勃起をしていたので、6歳の少女を連れていたお母さんがカウンターに文句を言いにいったのですが、「対応することはできません」と言われたそうです。
新行)対応できない。
松浦)カリフォルニア州では、「すべての差別を禁止する」という州法をつくっており、それによって「彼女がその場にいることは合法である」と説明を受けたそうです。そして、お母さんの方が逆に差別主義者だとして世間から批判を受けてしまった。ところが1ヵ月後、そのトランス女性が警察に捕まりました。何度も性犯罪を繰り返していた人物だったのです。
「LGBTとはどういう方たちのことを言うのか」をまず理解するべき
野村)冒頭に法律のタイプが3つあると言われたなかで、松浦さん自身は最初の自民党案だった「元祖LGBT理解増進法」が望ましいというお考えですか?
松浦)そう思います。差別禁止を盛り込むことによって、さまざまな問題が生じることは海外の事例でもうわかっていますので、その前に「LGBTとはどういう方たちのことを言うのか」をまず理解する。そこから始めるしかないと思います。
野村)たくさんのトラブルが起こると、逆にLGBTの方々の肩身が狭くなってしまう可能性もありますよね。
松浦)LGBT活動家の皆さんは、「トランス女性が女湯に入ったり、女子トイレに入ったりすることはないのだ」と説明するわけです。しかし、それはトランスジェンダーの方々の善意に基づいた話であり、世の中には、いい人もいれば悪い人もいる。それは異性愛者においても、トランスジェンダーにおいても同じです。
新行)異性愛者やトランスジェンダーにおいても。
松浦)これはコロナ禍の飲食店と同じだと思います。東京都がお願いベースで時間制限をしました。日本人はそれを素直に聞いたわけですが、そこには何の法的根拠もないわけです。だから裁判で訴えられ、最高裁では東京都が負けました。私は同じようなことがLGBTの問題においても起こるだろうと思います。
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