東京大学公共政策大学院教授・政治学者の鈴木一人が5月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。次期米大統領選に向けた共和党内の候補者指名争いについて解説した。
共和党のデサンティス氏が2024年秋のアメリカ大統領選に立候補を表明
2024年秋のアメリカ大統領選挙に向け、野党・共和党の有力候補の1人である南部フロリダ州のデサンティス知事が、ツイッターで立候補を表明した。デサンティス氏は現在2期目の44歳。「ミニ・トランプ」とあだ名が付く過激な言動でも知られており、リベラル派との対決姿勢を前面に打ち出す保守的な政策を進め、新型コロナへの対応では経済回復を優先させ、感染対策の規制をいち早く解除したことで、全米で注目された。
飯田)共和党内の候補者指名争いですが、トランプさんに次いで、デサンティスさんが手を挙げました。手を挙げるだろうとは言われていましたが、トランプさんの支持率は相当高いようですね。
早速、対抗するCMを打つトランプ氏
鈴木)これまでも共和党内でのトランプ独走状態の流れはあったのですが、デサンティス氏が出ることによって、2番手に付けるだろうと言われています。ミニ・トランプと言われていた人なので、トランプ的な支持者が、より若くより行動力のある候補者に移るのではないかという期待はあります。しかし、早速トランプさんは自分のSNSで「デサンティス・ディス」を打ち出し、「俺にしかできないことがある」というようなコマーシャルをつくっています。
飯田)トランプさんは。
鈴木)トランプさんは先手を打って相手を潰すのが得意技なので、対立する候補を自分のところからできるだけ押し下げていく戦術を取っています。デサンティス対トランプの争いは激しくなると思います。
飯田)トランプさんはあだ名を付けたりしますよね。
鈴木)自分に似ているので、あだ名を付けて馬鹿にしにくいところもあると思いますが、「こいつはものまねだ」「自分は本物だ」という売り込み方をしていくのだろうと思います。
「トランプ対デサンティス」という構図になることは必至
飯田)共和党はいま野党ですので、いろいろ出てきている候補から絞る形になると思いますが、他にどんな人が考えられますか?
鈴木)元国連大使を務めたニッキー・ヘイリーさんというインド系の方がいます。サウスカロライナ州の州知事も務めた人で、一定の人気はあるのですが、それでも(支持率は)10%に届きません。黒人候補の方や、過激なトランプ支持者のようなエキセントリックな人たちとは違い、「伝統的な共和党だ」という売り込みをしてくる人たちも何人か名前を挙げていますが、ほとんど無名の人が多い。最終的には「トランプ対デサンティス」という構図になるのは必至だと思います。
「バイデン対トランプ」であればバイデン氏が勝つが、「バイデン対デサンティス」ではデサンティス氏が勝つという見立ても
飯田)極端に振れたところで、党内は大丈夫だけれども、本戦になるとそうもいかないという話がありますよね。
鈴木)意外にデサンティス氏はそれなりに幅広い支持、人気があって、トランプ氏とバイデン氏であれば多分バイデン氏が勝つ。でもバイデン氏とデサンティス氏であれば、デサンティス氏が勝つかも知れないという見立てもあります。まだ予断を許さない。やはり若いということは大きいのです。
飯田)なるほど。
鈴木)バイデン氏はこのままいくと、82歳で選挙を行うことになります。そうなるとやはり高齢問題が出てくる。デサンティス氏は44歳なので、そういう意味では、手強い相手になるのではないでしょうか。
リベラルな綺麗事を言う人たちを「WOKE(ウォーク)」と呼ぶ、共和党の保守派
飯田)トランプさんが最初に出てきたときも言われていましたが、アメリカの一部では、「リベラルの人たちが綺麗ごとばかり言って、結局は俺たちのことを見ていないではないか」という不満のようなものがある。その傾向は続いているのですか?
鈴木)続いているどころか、より増しているのではないでしょうか。いまはリベラルな綺麗事を言う人たちを「WOKE(ウォーク)」と呼んでいます。
飯田)WOKE。
鈴木)WAKEの過去分詞で、「目覚めた人」という意味です。もともとは黒人の公民権運動などを行う人たちを、保守派から揶揄する言葉だったのですが、いまやリベラルな綺麗事を言う人全般に当てはまる言葉になっています。
フロリダ州で「ゲイと言ってはいけない」法案を成立させたデサンティス氏 ~批判するディズニーに対し「ディズニー・ワールドの隣に刑務所を建設する」
鈴木)特にLGBTQなど、マイノリティの権利擁護を主張する人たちに、「そんなものはWOKEだ」とレッテルを貼ってしまう。デサンティスさんはフロリダ州知事なのですが、フロリダで「ゲイと言うなかれ」という法律をつくったのです。
飯田)ゲイと言ってはいけない法案。
鈴木)「自分たちがゲイである」という性自認、自分が性的マイノリティであるということを言わせない、カミングアウトさせないような法律をつくった。しかし、フロリダにはディズニー・ワールドというディズニーの施設があるのです。
飯田)ありますね。
鈴木)デサンティスさんの保守的な政策に対してディズニーが批判したところ、デサンティスさんはディズニーを総攻撃し、「ディズニー・ワールドの隣に刑務所をつくってやる」というような内容を示唆しました。
飯田)夢の国の隣に刑務所。
鈴木)攻撃的なことをやるタイプの人なので、トランプさんとは少し違いますが、アグレッシブに極端な行動をする人だとは思います。
「これだけやれば世界がどうなってもいい」というような雰囲気が漂うアメリカ ~お互いがお互いのアンチになり、それが自身のアイデンティティに
鈴木)アメリカでは債務上限の問題が議論されていますが、極端な保守派の人たちは「世界経済が破綻してもかまわないから、とにかく歳出を削減しろ」と。「リベラルなバイデン政権のやっていることを止める方が、世界経済がまともに動くことよりも正しいのだ」と、極端なことを言っています。
飯田)世界経済がまともに動くことよりも、バイデン政権を止める方が正しいと。
鈴木)アメリカは極端な「一点突破主義」と言うか、「これだけやれば世界がどうなってもいい」というような雰囲気が漂う世界になっています。
飯田)各々が信じる正義がぶつかり合って、妥協点が見出せない状態ですか?
鈴木)「相手を攻撃している」というのが自分のアイデンティティになっています。つまり、自分は「WOKEではない反WOKEである」という意識が自分のアイデンティティになっていて、リベラルな人たちは「そういう保守派ではない自分」がアイデンティティになっている。
飯田)なるほど。
鈴木)要するに、お互いがお互いのアンチであり、それが自分のアイデンティティになってしまっているから、交わりようがないのです。
「敵の敵だから自分」という共依存のような状態のアメリカ
飯田)皮肉なもので、相手の存在が自分の存在の前提になっている。共依存のような状態ですね。
鈴木)まさにそうです。冷戦時代もそうだったのですが、アメリカはどちらかと言うと、「敵の敵だから自分」というようなところがあるのです。共依存で、相手がいるから自分がいる、相手と反発するから自分の考えがまとまるようなところがある。
飯田)相手と反発するから自分の考えがまとまる。
鈴木)極端な発想なのですけれど、妥協点を見出しにくいという意味では、すごく調整しづらい結果です。いまの債務上限の問題も、何度か歩み寄ったと思ったら結局「ダメ」となってしまうところがあるのだと思います。
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