米債務上限問題が長引いたのは民主党・共和党「それぞれの党内調整」のため

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ジャーナリストの須田慎一郎が5月29日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アメリカの債務上限問題について解説した。

米債務上限問題が長引いたのは民主党・共和党「それぞれの党内調整」のため

※画像はイメージです

米債務上限問題、バイデン大統領と下院議長が原則合意

6月5日に時間切れが迫っていたアメリカの債務上限問題で、バイデン大統領と野党・共和党のマッカーシー下院議長が債務上限の引き上げで原則合意に達した。今後は31日の下院での承認を目指して調整を急ぐことになる。

ここまで長引いたのは共和党内の事情 ~歳出削減を強く要求するフリーダム・コーカス

飯田)行方が注目されていた問題ですが、原則合意に至りました。

須田)最近ではイエレン財務長官が「6月5日まで持つ」というようなことを言っていましたが、どちらにしろ6月1日までにはどこかのタイミングで決着がつくのだろうとみていました。

飯田)6月1日までには。

須田)デフォルトと言っても、お金がなくて返せないわけではなく、あるのだけれど返せない「テクニカル・デフォルト」の形になるわけですから、そうなったとしても市場で大混乱が起こる状況ではなかったでしょう。

飯田)テクニカル・デフォルト。

須田)では何が起こるかと言うと、共和党内での事情なのです。共和党のなかには4つのグループがあります。派閥とは趣きが違うのですけれど、4つの議員グループがあって、最大勢力が「フリーダム・コーカス(自由議連)」です。トランプ前大統領に忠誠を誓っている最右派が、強く歳出削減を要求した。マッカーシー議長には、彼らをどうなだめるかの手腕が問われていたのです。

飯田)なだめ方に対して、ある程度メドがついたということですか?

須田)原則としてはついたのですが、最終合意には至っていません。

自由議連の議員、1人ひとりと個別折衝しなければならない ~「あともう一歩」が読めている状況

飯田)中身の部分は妥協だとして、一定の歳出削減を条件に2年間、債務上限を引き上げることで合意したのですが、どこまで予算を削ってどこまでOKしたのかが見えてこないですよね?

須田)自由議連は「議連」と名乗っていても、一枚岩ではないのですよ。議員それぞれの思惑で動いています。ですので、それぞれ個別で折衝しなければなりません。

飯田)個別に。

須田)リーダー役の誰かと着地すれば、すべて着地するわけではない。個別折衝した上で票読みを行い、過半数以上を獲れるような状況になれば、「原則合意から合意」という形になるのだと思います。

飯田)アメリカの場合は、党議拘束などがあるわけではないですからね。

須田)1人ひとりを説得し、「あなたはどういう条件をつけるのか」というところで、「あと一歩」が読めている状況だと思います。

G7のあと、バイデン大統領がオーストラリアに行かずに帰ったのは、民主党内で話し合いをするため

飯田)共和党はそういう状況ですけれど、一方で民主党の方も、あまり歳出削減をしようとすると怒ってしまう人たちがいるのではないですか?

須田)バイデンさんが大統領になるとき、原動力になった党内左派ですね。二酸化炭素の排出量の削減などを求めているグループは、そこに手を突っ込んでこられると、バイデン大統領に対して反旗を翻しかねないような状況にあります。

飯田)党内左派。

須田)ですので、マッカーシー下院議長とバイデン大統領の間で交渉の窓口が決裂していたわけではなく、スタッフ同士でのすり合わせがG7前からずっと行われていたのです。それが決着に進みそうだったので、バイデン大統領はG7サミット直後にAUKUS(オーカス)に参加することなく帰ったのです。

飯田)オーストラリアへ行かずに。

須田)バイデン大統領が帰ったのは、マッカーシー下院議長と話すためではなく、民主党内で話すためです。

飯田)自分のところの内部を治めないことには話ができない。

須田)その条件闘争になっていますから。

バイデン大統領が落としどころをどこに持ってくるか

飯田)玉虫色と言うか、解釈が分かれるような文書になるかも知れないのですか?

須田)バイデン大統領は、ワシントンではタフネゴシエーターとして知られています。歳を取って、その辺りが鈍ってきた部分はあるけれど、交渉に関しては絶大な自信を持っているし、力も持っている。そういった意味で、どこに落としどころを持ってくるのかという見方をしていました。

予想より景気が失速せず、むしろ経済成長率が高くなってきているアメリカ

飯田)これに対するマーケットの反応ですが、最近はダウ平均があまり冴えない状態が続いていました。週末に合意が報じられたので、まだ動いていませんが、どういう展開になりそうですか?

須田)一方で、景気が思ったほど失速せず、むしろ経済成長率が高くなってきている状況があります。我々が注目しなければいけないのは、FRBによる再度の利上げがあるのではないかということです。そこを見越し、ここへ来て円安の流れになってきているのです。

飯田)そこを見越しての円安に。

須田)マーケットには2つあって、1つはよもやデフォルトになることはないだろうという読み。もう1つは、なったところでテクニカル・デフォルトだから、債務が返済できなくなることはない。つまり「アメリカ国債が紙くずになるわけではない」という、ある種の共有された意識のなかで動いていたので、混乱は起こっていません。

さらなる利上げの可能性も ~消費熱を冷ましてインフレ率を抑える必要がある

飯田)中央銀行にあたるFRBの会合では、利上げも利下げもしないのではないかと言われていましたが、その先でまた利上げがあるかも知れない。いままでは「利下げはいつ?」と言っていたけれど、変わってきましたね。

須田)それだけ消費が旺盛なため、経済成長率が高いのです。それを抑え込まなければ、さらにインフレになっていきますから、利上げという観測が出てきているのだと思います。

飯田)既にここまでかなり利上げをしてきて、利率が5%くらいになっていますが、またさらに上がっていくとなると、住宅関連などは厳しいですよね。

須田)そうですね。アメリカ経済の牽引役と言われている住宅建設には、ブレーキが掛かりかねない。でも、とにかくインフレ率が高いのです。

飯田)インフレ率が高い。

須田)消費が拡大しているものですから、そこを少し冷まさなければならない。このインフレは、経済にとって大きなマイナスになるということです。

マンハッタンの日本食の定食チェーンの「サバ焼き定食」が5000円 ~物価高騰するアメリカ

飯田)悩みも深いのですが、IMFが出したアメリカの成長率予測が引き上げられましたものね。

須田)これだけ金利を上げても、消費の過熱が収まらない状況が根底にあるのだと思います。

飯田)考えようによっては景気がよく、雇用もよく、インフレは高いけれども賃金がその分上がる。もう少し冷やせば、ちょうどいいくらいになるという好景気が持続しています。

須田)例えばニューヨークのマンハッタンに「大戸屋」という、日本でも有名な定食チェーンがありますが、そこのサバ焼き定食が約5000円するらしいのです。いくら何でも物価上昇しすぎです。

飯田)日本では1000円しないで食べられます。そんなに差が開いてしまっているのですね。

須田)アメリカは二極化していて、貧富の差が拡大しています。貧困層、低所得層に物価高騰が直撃しているわけです。

飯田)何とかしないと、社会不安につながってしまいます。

須田)そうですね。社会不安や社会の分断につながりかねません。

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