トヨタ……自動車産業“巨艦”の行方(前編)

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「報道部畑中デスクの独り言」(第329回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、トヨタの自動車産業について---

トヨタ自動車トップ交代を発表する豊田章男・現会長(「トヨタイムズ」の画面から)

画像を見る(全6枚) トヨタ自動車トップ交代を発表する豊田章男・現会長(「トヨタイムズ」の画面から)

今年(2023年)もはや5ヵ月が過ぎましたが、この間に自動車業界もさまざまなニュースがありました。特にインパクトが大きかったのは、トヨタ自動車のトップが交代したことでしょう。

1月26日のトヨタ自社のメディア「トヨタイムズ」による緊急生放送という形で、豊田章男社長の会長就任、佐藤恒治社長の起用が発表されました。

「トヨタのトップに就く人はトヨタの思想、技や所作を現場で体現する人。そういう意味では適任だと思う」

トヨタイムズでは、豊田会長が佐藤新社長起用の理由を明かしました。さらに「私はクルマ屋、クルマ屋としての域を超えない。私はもう、ちょっと旧い人間だと思う。未来のモビリティとはどうあるべきか、新しい章に入ってもらうためには、私自身が一歩引くことがいま必要ではないか」とも述べました。

新体制になったトヨタ自動車の今後は?

新体制になったトヨタ自動車の今後は?

その後、2月、4月と佐藤恒治社長による新体制発表の記者会見、説明会、そして5月の年度決算の発表が相次いで開かれます。これは実際にメディアの前で行われました。

「クルマづくりにおいては、エネルギーの未来と地域ごとの現実に寄り添って、マルチパスウェイを軸に今後も多様な選択肢を追求していく」

説明会ではこの「マルチパスウェイ」というフレーズが何度も登場しました。日本語に訳すと「全方位戦略」ということになりますか。さらにEV=電気自動車については「2026年に150万台」を基準としてペースを定め、10車種の投入を計画していることも明かされました。

そして、佐藤社長は「トヨタ自動車がモノづくりの会社であるということを絶対忘れないためにも、クルマをつくり続ける社長でありたい」と意気込みを語りました。

さらに半月ほど前、5月30日には、トヨタとドイツのダイムラートラックが商用車の分野で提携し、トヨタ傘下の日野自動車とダイムラー傘下の三菱ふそうトラック・バスを2024年末に経営統合することが発表され、業界を驚かせました。ここでも佐藤社長が出席していました。

2月13日には佐藤恒治新社長による記者会見が開かれた

2月13日には佐藤恒治新社長による記者会見が開かれた

トヨタ自動車の昨年(2022年)度の世界販売はダイハツ、日野を含めたグループではおよそ1038万台で、3年連続の世界一。トヨタ単体でもおよそ961万台で過去最高。数字の上では盤石に見えます。一方で、世界的な潮流となっている電動化、特にEVにおいては後れを取っているのではないかという指摘があります。

佐藤社長は、「半分ぐらいコミュニケーションの問題があろうかと思う」と反論。「マルチパスウェイ」の名のもとに、EVだけでなく、水素エンジン、燃料電池、ハイブリッド……地域地域の需要に応えていく。そして「敵は内燃機関ではなく、炭素である」という考え方を崩していません。

日本を代表する巨大企業であり、世界的な企業でもあるだけに注目度も高く、さまざまな見方があります。小欄ではトヨタの現状、今後について、自動車専門誌『マガジンX』の編集長、神領貢さんと考えてみました(ちなみに電気自動車は一般にEVと略されますが、動力源がバッテリーのみという意味でBEV→「バッテリー・イー・ブイ」「ビー・イー・ブイ」「ベブ」とも呼ばれます。また、EVはエンジンを載せていない「モーター車」の一種でもあります。インタビューではこうした用語が出てまいります)。

佐藤新社長率いる新体制(中央が佐藤社長)

佐藤新社長率いる新体制(中央が佐藤社長)

■トヨタもしんどい? マルチパスウェイの持つ意味とは?

(畑中)トヨタの電動化戦略、特に電気自動車の取り組み……マルチパスウェイという言葉を使っていますが、いまどのように感じていますか?

(神領)しんどいと思うんですね。マルチパスウェイ、全方位というのが、いかにトヨタが世界一、二を争うメーカーだとしても、人とカネ、モノ、態勢を含めて、なかなか全部やるには人も足りない、お金もならない状況だと思う。BEVもやる、水素もやる、ハイブリッドももちろん強化する、ガソリン車もやめないと、それは本当に全部できるのかと。全方位でやるというのは、どこかが手薄になりはしないかという心配はあるということでしょうね。

(畑中)世界的にみて、ここまでの全方位戦略ができるところって、トヨタぐらいしかないのかなという気がしますが。

(神領)同感ですね。トヨタだってしんどいと思っているんですよ。

(畑中)本来ならば、どちらかにもっていきたいというのが本音なんだろうと思いますね。

(神領)やはり、(EV競争に)立ち遅れた結果、モーター車に経営資源を大きく振り向けるというのはうまくないだろう、という経営判断があるんだろうなと。例えば、プリウスという車はエンジンとモーターが両方くっついている、それを高いレベルで制御して、燃費最適化する……パイオニアと言われる部分、それをトヨタはやってきた会社です。ガソリン車について言うと、先にライバルが行っているところに、あとから自分たちのより良い改善が進んだ車を出す、それでシェアを取っていくということをやってきていますが。

マルチパスウェイというのは、動力がマルチパスなだけではなく、これから求められているのは自動化とシェア化ですよね。で……電動化なわけですよ。そういうのを見ていると、マルチパスというのは三次元で考えなくてはいけないんです。縦・横・斜めにあるわけですよね。単に動力だけに話を絞るのなら、もしかしたらトヨタはできるかも知れないんだけど。まあ、やらにゃいかんことはいっぱいあると。そういうところで言うと、大丈夫? という不安は若干あるということですね。

ハイブリッド車の草分け的存在のプリウスも5代目を数えた

ハイブリッド車の草分け的存在のプリウスも5代目を数えた

■「トヨタ商法」はこれからも通用するか?

(畑中)いままで出たものよりも、よいものを出してマーケットを押さえていくというような手法が、これからは通用するのか? 正解があるかどうかもわからない……。

(神領)世界で前年は新車が7000万台後半ぐらい売れた。このあと、2050年に1年間で新車が売れるのかと言えば、1億台までいくのは大変だろうと言われているわけですよ。成長がこれまで程はないなかで、あとから言ってマラソンでいえば、まだ42キロのうちの5キロ~10キロの世界だから、逆転は可能だと思いますけれど。その逆転のための推進力を見せてくれないと、簡単ではないよねと。

それから、テスラが好例だけれど、どんどんユーザーの囲い込みに入っている。値段を下げにかかっていますよね。モーター車を買おうという人の結構な割合を、テスラが全部握ろうとしているわけですよ。陣取り合戦が終わったところにいくと、なかなかしんどいので、やはり早くいったらどうですかという人は多いよね。

ではトヨタは何もしていないんですかというと、出していないだけでちゃんと研究開発はやっているんですよ。電池でもがんばっているし、モーターも、グループで強みがたくさんあるのでね。そういうところで言うと、グループ力はこれから発揮されていくと思うんですけれど、サプライヤーたちも売っている相手はトヨタグループだけではなくて、外資に売っているところも多いんですね。トヨタが本当にそういうときに、グループ力を結集してトヨタブランド車を、どんどん世に出していけるのか……がんばってね、ということなんでしょうね。

(後編に続く)

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