トヨタ……自動車産業“巨艦”の行方(後編)

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「報道部畑中デスクの独り言」(第330回)

ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、トヨタの自動車産業について---

佐藤恒治社長(中央)、中嶋裕樹副社長(右)、宮崎洋一副社長(左)。いわゆる「トロイカ体制」だ

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今年(2023年)1月、トヨタ自動車のトップが交代するという衝撃のニュースが飛び込んできました。豊田章男社長は会長に、新社長には佐藤恒治氏が就任しました。

これからトヨタがどこへ向かおうとしているのか、小欄では前回に続き、トヨタの現状、今後について、自動車専門誌『マガジンX』の編集長、神領貢さんと考えてみました。

4月7日に開かれた新体制方針説明会

4月7日に開かれた新体制方針説明会

■トヨタのライバルはVW? それとも?

(畑中)あえていま、トヨタに必要なものがあるとしたら、何でしょうか?

(神領)難しい質問ですよね。これからの市場に対応して成長を続けるためには、やはり自分たちとは違う発想力を持った人たちとの行動力ですね。トヨタは「石橋を叩いても渡らない」というフレーズが昔あったけれど、ある程度、冒険心をもってやっていく。そういう態度を持たないといけないでしょうし、それはトヨタでできるのでなければ、手をつなぐ相手を探していくという方向を模索しないと、トヨタだけでこれまでのやり方で、世界に勝つというのは難しい。

(畑中)私はトヨタに必要なものは、本当の意味でのライバルではないかと思うんですね。かつての日本市場って、トヨタと日産の二大巨頭があって、そこで切磋琢磨し、活気があったような気がするんです。本当の意味でがっぷり四つに組むようなライバルが必要ではないかと。

(神領)足元、国内には残念ながらいないですよね。日本のなかでのライバルというのは、トヨタに何か刺激を与えられるという意味ですけれど、なかなか出てこない。おのずと外のワーゲン(VW)であったり、ステランティスであったり、GM、フォードであったりと、そういうところで勝負すると。こういうところが何をするかというと、モーター車にガンガン行っているわけですよ。その点でいうと、世界で戦っているのに“井の中の蛙”になりがちなところがあると。

日本にいるとトヨタのすごさが目立つけれど、世界で見ると、もちろん、世界でも一、二を争っているからすごいのですが、日本で感じるほどの2位、3位の差はない。それを多分(豊田)章男現会長はすごく感じているんでしょうね。だからこそ自分では間に合わないと、新しい体制で失敗を恐れずチャレンジしてよ、ということが今回の佐藤トロイカ体制に向けてのメッセージなんだろうと思いますね。

電気自動車の方針も明らかにされた

電気自動車の方針も明らかにされた

(畑中)あえてライバルが世界にあるとしたら、いちばんの好敵手は何になりますか?

(神領)一着は間違いなくワーゲンなんでしょうね。ただ、そのなかでヒュンダイ(ヒョンデ/韓国・現代)もモーター車ではいいものをどんどん出していますし、中国ブランド、BYDがいちばんですけれど、もっぱら内需と言いつつも、内需で蓄えたお金をまさしくこれから外でやろうとしているわけで、やはり中国ブランドも侮れない……。

(畑中)となると、トヨタ vs VW vs BYDという構図はどうですか?

(神領)ああ、それはなきにしもあらず、十分にあるのかなと思いますよ。

(畑中)BYD、トヨタはパートナーとして、確か……。

(神領)中国はそうね、bZ3がBYDと組んでいる。ライバルなのか、協業相手なのかというと、両方だということですね。分野ごとに組むべきところは組むし……。

(畑中)ガチンコのライバルというよりは、ちょっと形が違うという感じ……。

(神領)それぞれ得意分野で戦って、まだ最終的な形まできていないと。でも、すごい先に「BYDがトヨタを食う」なんてことがニュースになったら大変ですけれどね。この5年ぐらいですごくモーター車が伸びている。この成長までは、さすがにトヨタも予測していなかったのではないかと思いますね。

世界の市場を見渡しますと、電気自動車の販売台数は、ある最新のデータでほぼ10台に1台に達し、トップはアメリカのテスラ、2位は中国のBYD、この2社で電気自動車の3割近くを占めているとされています。

中国BYDは将来、トヨタのライバルとなるのか

中国BYDは将来、トヨタのライバルとなるのか

■したたかであり、謙虚であれ……トヨタの今後

(畑中)最後に、「いま、トヨタにいちばん言いたいこと」でまとめていきたいと思います。

(神領)厳しいですね(笑)。まず、トヨタはこれまでやってきたことを全否定する必要はないんですけれど、ちょっとわきに置いて、いまこの瞬間にやらなきゃいけないことを目いっぱいやってくれと。今日の栄光は明日も続くわけではないんだということですね。いたずらに危機感をあおる必要はないんだけれど。マイルストーンをしっかりひいて、いまちょっと二番手グループにいる分野もあるということを自覚して欲しいと。ただ、その自覚はトヨタの人にはあるので、敵を知る能力が高いのでね。期待を込めて、いま立ち位置をしっかりと見極めて戦術・戦略を立てて欲しいなと思っています。

(畑中)いい意味でのしたたかさを……。

(神領)持ってくれと。そう、そこでトヨタは伝統があるわけではないですか。一喜一憂はしないと、いろいろなことに対してしっかり目配りしているんだけれども。「私たちは目配りしていますよ」と言わない会社なわけですよ。最近のトヨタは、「私たちはこんなに目配りしているではないか、こんなに稼いで税金を納めているではないか」と言い過ぎですよね。日本人はトヨタがそういうことをやっているのは知っているではないですか。すごい人が「俺はすごいんだぞ」と言わない方がいい。そこは奥ゆかしく、頭を垂れるべくは頭を垂れて、しっかりとケアしていくと。

韓国・現代(ヒョンデ)のEVも評価が高い

韓国・現代(ヒョンデ)のEVも評価が高い

トヨタは「トヨタイムズ」という自社メディアで積極的な情報発信に努めています。トヨタからは「誤解されている」「誹謗中傷」あるいは「コミュニケーション不足」と、時にメディアに対する批判にもとれる発言も聞かれますが、内から見た姿と外から見た姿、角度によって景色が違うことは当然で、その多様性は絶対に必要なことです。トヨタに関しては日本を代表する巨大企業、世界的な企業だけに、立場によって、さまざまな見方があるのです。

ただ、クルマがこれからも人々に幸せをもたらすものであって欲しいという思いは、メーカーもメディアも同じ方向を向いていると信じています。「大きなお世話」と言われようが、今後も巨大企業トヨタの姿を見つめていきます。(了)

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