アメリカとインドの首脳会談 それぞれの「思惑」

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近畿大学教授で元NHKニューデリー支局長の広瀬公巳氏が6月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。ホワイトハウスで行われたアメリカとインドの首脳会談について解説した。

アメリカとインドの首脳会談 それぞれの「思惑」

インド太平洋経済枠組み(IPEF)の発足会合の冒頭、記念撮影に臨む(左から)岸田文雄首相、バイデン米大統領、インドのモディ首相=2022年5月23日午後4時41分、東京都港区 写真提供:産経新聞社

アメリカとインドの首脳会談における両国の狙い

アメリカのバイデン大統領は6月22日、ホワイトハウスでインドのモディ首相と会談を行った。会談後、インドのモディ首相は両国が「未来に向けた強力な協力関係を築いている」と述べた。

アメリカは中露を牽制することができ、インドはロシアから滞り始めている武器をアメリカから調達できる

飯田)アメリカとインドの首脳会談ですが、どうご覧になりますか?

広瀬)アメリカとしてはインドの首相を迎え、インドとの関係強化を見せつけることで、中国やロシアを牽制することができます。その見返りに、インド側は手堅く技術や資金を得るという関係だと思います。

飯田)なるほど。

広瀬)例えば今回、焦点になっている防衛協力では、インドはご存知のように国連のロシア非難決議に加わりませんでしたが、これはインドの武器の調達元が主にロシアであることが大きな理由だったわけです。

飯田)そうですね。

広瀬)アメリカから防衛協力を得られるのであれば、ロシアから滞り始めている武器の調達を補うことができるのです。

クリーンエネルギーの分野でもアメリカの協力で中国に追いつくことができるインド ~テスラの投資で「メイク・イン・インディア」も3つ達成できる

広瀬)クリーンエネルギーの分野でも、インドとアメリカは途上国と先進国という形で対立することがありました。同じ途上国として、インドと中国が共同戦線を張ることさえあった。

飯田)途上国同士で。

広瀬)クリーンエネルギーの分野では、インドは中国に水を開けられていますけれど、脱炭素化に向けてアメリカの協力が得られれば、中国に追いついていくことができます。

飯田)アメリカの協力で。

広瀬)今回、モディ首相はテスラのイーロン・マスクさんとも会談しました。テスラは電気自動車など、インドでの事業を拡大する方針ですが、インドにとっては大型の投資を受け入れ、クリーンエネルギーも推進できる。しかも国内の製造業の力を上げる、いわゆる「メイク・イン・インディア」も3つ一気に達成できるので、インド側としては願ったりかなったりという話です。

ディール外交によって武器やエネルギーなど、欲しいものを着実に手に入れるインド

飯田)インドの非同盟外交も変わりつつあると指摘されていますが、広瀬さんはどうご覧になりますか?

広瀬)インドは中国との間に国境紛争を抱えていますので、アメリカとの関係は重要になります。もう少し深く見ると、インドは外交とビジネスをミックスさせる、いわゆるディール外交によって、武器やエネルギーなど欲しいものを着実に、強(したた)かに手に入れています。

飯田)ディール外交によって。

広瀬)2020年にトランプ大統領がインドを訪問した際、アメリカはインド海軍に潜水艦をレーダー探知する哨戒ヘリを提供しています。これはインド洋で活動を活発化させる中国に対し、睨みを利かせることにもなりますので、強かな外交をしている感じがありますね。

軍事部門のハイテク分野で米印と緊密な関係を取るイスラエルの存在

外交評論家・宮家邦彦)アメリカとインドのハイテク議論を行うとき、私が注目するのはイスラエルです。イスラエルとインドの関係はかなり進んでいると思います。ハイテク分野では、アメリカとイスラエルは一体とまでは言いませんが、非常に近い。この辺りの動きをどうご覧になっていますか?

広瀬)ハイテク、ITやAIの話をするときに、必ずインドの名前が出ますが、もう1つはイスラエルです。そういう意味で言うと、ハイテク分野ではアメリカを軸にイスラエル、インドが特に軍事部門での技術において進んでいます。国と国との信頼関係がなければ情報共有も進まないので、重要な視点だと思います。

アメリカでの存在感が高まるインド系の人々

飯田)確かにアメリカの大手IT企業の経営者には、インド系の方々が多いですね。

広瀬)Googleトップのスンダル・ピチャイさんをはじめ、マイクロソフトやIBMなどの経営陣にもインド出身者は多いです。民間ベースでも、アメリカがデータ社会でのイノベーション分野で世界をリードする現状には、インド系の人々の頭脳が大きく貢献しています。

飯田)そうですね。

広瀬)インド系という意味では、バイデンさんとコンビを組んでいる副大統領のカマラ・ハリスさんも、母親がインドから移り住んだインド系移民です。アメリカではインド系の人々の存在感が高まっています。

今年はインドとの関係強化が要になる ~一方で思うように進まないインドへの日本の投資

宮家)日本はもっとインドとの関係を深めないといけないし、インドにもっと投資する必要があると思うのですが、なかなか進みません。何が理由だと考えられますか?

広瀬)今年(2023年)はそういう意味でも、インドとの関係強化が要になる年だと思います。

飯田)インドとの関係強化が。

広瀬)G7議長国が日本であり、G20議長国がインドということで、日印関係も外交上はかつてないほど進展を見せています。ビジネス面では新幹線を輸出するという話もありました。

飯田)日本の新幹線を。

広瀬)しかし、いざ始めようとすると、土地の買収が進まない。また、インドは治安面も十分ではありませんので、高速で多くの人が乗るような新幹線を日本と同じようにつくろうと思っても難しいのです。先日もオディシャ州で大きな列車事故があったばかりです。

飯田)ありましたね。

広瀬)日本国内の「投資したい」という気持ちと、インドの現状は上手く進んでいかないところがあります。ただ、長い目で見ると、インドに対する個別の民間企業の進出については、頑張って進んできているのではないでしょうか。

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