日本は「対中東政策」を見直す時期にきている
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外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が6月23日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。イスラエルについて解説した。
劇的に変わった日本とイスラエルの関係
飯田)宮家さんはイスラエル・パレスチナなどへの出張から帰国されたばかりとのことですが。
宮家)12年ぶりでした。もっと頻繁に行かなければならないのですが、久しぶりに行って驚いたのは、イスラエルと日本の関係が劇的に変わってしまったことです。
飯田)そうですか。
宮家)12年前は「起業国家(スタートアップ・ネーション)」と呼ばれ始めた頃、ものすごく教育熱心で、軍のなかでも起業を奨励していました。
飯田)軍のなかでも?
宮家)軍のなかでも。何が変わったかと言うと、歴史的にはイスラエルが建国されたころは、ヨーロッパにいたユダヤ系の人たちが入ってきて、新しい国をつくったのです。当時のリーダーたちはみんな社会主義者だった。
飯田)リーダーは。
宮家)労働党が主流だったのです。どちらかと言うと中道、左派ではないけれども、非常に穏健だった。パレスチナ問題についても、占領はしたものの、独立国家を与える形で二国論の議論がありました。
飯田)パレスチナ問題に関しても。
宮家)ネタニヤフさんは、昔は「極右ではないか」と思ったのだけれど、いまは真ん中くらいに見えてきています。もっと強烈な右派の人たちが次々と政界に入り、ずいぶん変わってしまったのです。
進展のないパレスチナ問題 ~2006年以来、大統領選のないパレスチナ
宮家)その結果、最近はパレスチナ問題について進展がありません。日本ではJICAを中心にいろいろなプロジェクトが立ち上がっているので、対パレスチナ支援はいいのですけれども、実はパレスチナでは2006年以来、大統領選挙がないのです。
飯田)そうですよね。
宮家)議会選挙もない。選挙をやっていないから、10年以上も同じ人が務めているわけです。
飯田)アッバスさんがずっと議長を務めています。
宮家)周囲の人がアッバスさんに「そろそろ選挙をやりましょう」と言っても、負ける可能性があるから行わないらしいのです。
パレスチナの自己統治能力の限界 ~湾岸諸国はイスラエルとアブラハム合意を行い、イスラエルとの関係を改善
宮家)それに対して、イスラエルは「代表がいなければ交渉などできない」と居直っているのです。その意味では、残念ですけれども、パレスチナの自己統治能力の限界が見えてしまったなと思います。
飯田)パレスチナの自己統治能力の限界が。
宮家)だから一部湾岸諸国などは嫌になって、イスラエルとアブラハム合意を結び、イスラエルとの関係を改善しているわけです。そういう意味では、時代が大きく変わりつつあるなと思います。
アラブ諸国もイスラエル、イランも「アメリカが中東から離れていくのではないか」と思っている
宮家)問題はこのあとです。日本がイスラエルとの関係を維持するのももちろん大事ですけれど、中東が大きく変わりつつあるなかで国益を維持するために、日本はいろいろなことをいまやらなければならない。
飯田)いまやらなければならない。
宮家)特に中東に行って思ったのは、感覚的にですが、各国が「アメリカは中東から離れていくのではないか」と感じ始めているということです。それはアラブ諸国やイスラエル、イランもみんな思っていることです。
サウジアラビアとイランの関係改善をはじめ、いろいろな変化が起きている ~日本は対中東政策を見直す時期にきている
宮家)実際には、戦争をやっても勝てないアフガニスタンやイラク、シリアなどから出ていくだけだと思います。湾岸地域には駐留米軍が残っているわけですからね。
飯田)湾岸地域には。
宮家)その意味でも、米軍が大挙して逃げていくわけではなく、まだプレゼンスはあります。しかし、アメリカにはもう見捨てられたと考えているのでしょう。「アメリカは中国に関心があり、インド太平洋地域に行ってしまう。それならば、我々は自分たちで生き延びなければならない」と、各国がいろいろな動きをしているわけです。
飯田)生き延びるために。
宮家)サウジアラビアとイランが関係を改善してみたり、イエメンで戦争をやめてみたり、シリアがアラブ連盟に戻ってきたり。それから、アブラハム合意でイスラエルと湾岸諸国の関係がよくなったりしている。一連の動きのなかで、地殻変動が起きている部分があるのです。日本はより政治的な役割を果たすことも含め、対中東政策を見直す時期にきているのではないでしょうか。
どの国もイスラエルを信用していない ~そこは変わらない中東
飯田)アブラハム合意はイランを念頭に置きながら、ある意味の仮想敵のような感じで、「湾岸諸国とイスラエルがまとまろう」というイメージで報じられていました。その辺りもいまや変わってきているのですか?
宮家)イスラエルが湾岸のためにどこまで骨を折るかは知りませんけれども、イスラエルが嫌なのは、イランが核兵器を持つことです。そこについては、イスラエルは何かせざるを得ない。しかし、「誰がイスラエルを信用しているか」と言うと、誰も信用していません。そこに関しては、中東は変わらないと思います。
イスラエルがイランを攻撃する可能性も
飯田)イランはウラン濃縮を行っているではないですか。それがある程度のところまでいくと、イスラエルは自分たちで解決するために越境するだろうという話もありますが。
宮家)報道によると、いままで2回ほど「攻撃の可能性があった」と言われています。1回目は国内の事情で、2回目はアメリカが止めたとされています。でも、それは現在より濃度が低いときの話ですから、いまのように濃度が高くなった場合はどうでしょうか。
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