「最低賃金1000円台」は象徴的 「人手不足倒産」増加の過程で起こること

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双日総合研究所チーフエコノミストの吉崎達彦が7月28日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。時給1000円台にする方向で最終調整に入った最低賃金について解説した。

「最低賃金1000円台」は象徴的 「人手不足倒産」増加の過程で起こること

※画像はイメージです

最低賃金、全国平均で初の1000円台で最終調整 ~厚労省審議会で再協議へ

2023年度の最低賃金の引き上げ幅について、全国平均を現在の961円から1000円台に引き上げる方向で最終調整に入ったことがわかった。物価高騰や春闘での賃上げの結果を重視したとみられ、正式に決まれば、最低賃金が初めて1000円台に到達する。厚生労働省の中央最低賃金審議会は7月28日、小委員会を開き、2023年度の最低賃金の引き上げ額を巡る詰めの協議を再開した。

飯田)最低賃金を引き上げるということですが。

吉崎)とうとうここまできたか、という感じです。少し前まで、地方によっては700円台などという地域もありました。

飯田)私が学生のころは、その時給でアルバイトをしていました。

人口減により、生産性の低い部門から高い部門への労働移動が欠かせない状態になっている ~労働移動と同時に賃上げが起きる

吉崎)日本経済全体として、生産性の低い部門から高い部門への労働移動が欠かせない状態になっていると思います。去年(2022年)、出生数が80万人を割り、77万人だったことはみんな知っているのですが、死亡者数は158万人だったのです。

飯田)亡くなった人は。

吉崎)日本全体として、差し引き約80万人減です。80万人という数字は福井県の人口よりも多いのです。そして、福井県より人口が少ない県は4つもある。徳島県、高知県、島根県、鳥取県です。去年の数値がある意味、異常値だったのかも知れませんが、日本の人口減少は止まらなくなっているので、今後はどうしても労働移動が欠かせない。そして、それと同時に賃上げが起きます。

生産性が上がり、成長力が上がり、賃金が上がり、消費も伸びる ~その過程で起こる「人手不足倒産」は無理に止めない

吉崎)これはマクロで見るといい話で、日本全体として生産性が上がり、成長力が上がり、賃金が上がり、消費も伸びる。ただし、その過程で「人手不足倒産」のようなことが起こるのです。

飯田)人手不足倒産。

吉崎)大事なことは、こう言うと語弊があるかも知れませんが、それを無理に止めないことです。全体として考えていかないと、そのあとの対応が難しくなってきます。ですので、「最低賃金を1000円台に」という方針は、とても象徴的な動きだと思います。

コロナ禍での「ゼロゼロ融資」の返済も始まり、2023年上半期の倒産件数は3割増 ~経済が戻るなかで前向きに捉えた方がいい

飯田)よく景気が悪いときは「ゾンビ企業が生き残っているからだ」などと、いろいろ言われました。しかし、これから景気がよくなっていく段階で、それでも倒れてしまう会社は、残念ながら大変申し訳ないけれど、それはそれとして受け止める。「働きたい人は次の会社が必ず待っているよ」という環境をつくっていく。

吉崎)そうなのです。今年(2023年)の上半期の倒産件数は、前年同期で見ると3割ぐらい増えています。コロナ禍の最中に、いろいろなやり方で支えてきた部分がなくなってきたことも関係します。実質無利子・無担保のゼロゼロ融資も返済が始まっていますし。

飯田)そうですね。

吉崎)いままでのつっかえ棒が外され、「世の中が落ち着いてきたから、いろいろな再建策も可能でしょう」という時期に入ってきたので、むしろ前向きに捉えた方がいいと思います。

飯田)ここから先は1人で歩かなければならない。その代わり、稼げる人はどんどん稼いでいい、というような世界になっていく。

賃金の高いベテランが滞留し、若い優秀な人材が辞めてしまう ~官民ともにある問題

吉崎)少し気になっているのが、私の周りを見ると、ある年齢より上はまだメンバーシップ型の意識を引きずっていて、ある年代より下の人たちはかなりジョブ型になっていることです。

飯田)若い人たちは。

吉崎)「転職するのが当たり前」というライフスタイルになっているのですが、「本来は逆だろう」と思います。若いうちは1つの会社でスキルを身に付け、ある一定の段階に達したら、「独立するなり転職するなり好きにしていい」と。しかし、いまの日本は少し過渡的な状態であり、それが逆になっているので、少しずつ変わっていくのが自然な姿かなと思います。

飯田)比較的賃金の高い人たちが会社に滞留しつづけてしまい、本来、生産性を高めてくれるような若い人たちが「育ったと思ったら、いなくなってしまう」という現象を繰り返す。これは企業経営者にとっても頭が痛い問題ですよね。

吉崎)「若い人が辞めてしまうので、どうしたらいいのか」という話はよく聞きます。それも、期待していた若い人が辞めてしまう。

飯田)官民問わず、ですよね。

吉崎)官もですね。

若い人の希少価値が高く、年齢の高い人が余るといういびつな構造に

飯田)そうなると、次を担うような中堅がなかなか育たない。かつては、氷河期世代をそもそも採用してこなかったところから始まり、いまは中間管理職以外、なり手がいないという話も出ています。

吉崎)いまはどこの職場でも若い人の希少価値が高く、私と同じ年代の人間はむしろ余っているという、少しいびつな構図があると思います。

コロナ禍を経て人生観が変わった人が多い ~働き方の変化も

飯田)この構造は、仕組みで変えていくべきなのでしょうか?

吉崎)何がいいのか、判断が難しいですね。昔は60歳で定年だったから、60歳で農業を始めるような人がかなりいたのだそうです。

飯田)60歳から。

吉崎)ところが、いまは65歳まで働けるようになったので、農業をやろうという人が激減しています。60歳であれば、初めてのトラクター運転もできるけれど、65歳になると難しい。でも、本人にとってどちらがいいのかというのは、難しい問題だと思います。

飯田)60歳から再雇用だと安定はするけれど、というところでしょうか?

吉崎)気が楽なのです。いまと同じ仕事を「あと5年していい」と言われたら、やはりそちらを選んでしまう。でも、もしかすると違うチャレンジを選んだ方が、本人にとっても農業にとっても、新しい血が入ってきていいのかも知れません。

飯田)新たな分野に挑戦していく気持ちに関しては、社会全体の雰囲気もあるし、あるいは景気動向もありますが、ようやくそういうことも考えられるようになってきたのでしょうか?

吉崎)そうですね。「コロナ禍を経験して人生観が変わった」と言う方が多いですから、そういうポジティブな変化がこれから増えてくれたらいいと思います。

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