デジタル化、政権に欠けているもの
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「報道部畑中デスクの独り言」(第335回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、デジタル化において「政権に欠けているもの」について---
「マイナンバーの紐付け誤りをめぐって、国民の不安を招いていることにおわび申し上げる」
マイナンバーカードをめぐるトラブルが相次ぐなか、岸田文雄首相の記者会見が8月4日夕方に開かれました。マイナ問題に入る際には冒頭のおわびから始まり、「信頼を取り戻した上で、わが国にとって必要不可欠であるデジタル改革を本格的に進めていく」と述べました。
「なぜ、デジタル化を急いで進めるのか、政調会長時代にコロナとの戦いの最前線にいたとき、デジタル化の遅れを痛感した。“デジタル敗戦”を二度と繰り返してはならない」
「世界に伍するデジタル先進国を実現する。公的基盤を一刻も早く整えたい」
首相からデジタル化、マイナカードの普及における“決意”が縷々示されたあと、国民の不安払拭のため、健康保険証廃止の際に、マイナ保険証を保有していない人全員に資格確認書を発行することも明らかにされました。有効期間やカードの形状も、現行の健康保険証を踏まえたものとするということです。
そして、最大の焦点であった現行の健康保険証とマイナカードを一本化する時期については、首相は来年(2024年)秋の健康保険証の廃止方針を維持する考えを示しました。そして、今年秋にもまとめる一連のトラブルの「総点検」の結果を踏まえた上で、「廃止時期の見直しを含め、適切に対応する」と述べました。
どっちつかずの方針に当然、記者からは「状況によっては延期もあり得るのか」という質問が出ます。回答は改めて次のようなものでした。
「現時点では、健康保険証の廃止の時期見直しありきではない。ただし、総点検のその後の修正作業を見極めた上で、さらなる期間が必要と判断される場合には、資格確認書の円滑な交付、マイナ保険証の利便性向上、健康保険証廃止の時期の見直しも含め、適切に対応する」
???……延期すべきだ、いや、廃止すればデジタル化が止まってしまう……両方の声に“配慮”したのでしょう。何とも岸田首相らしい物言いです。
さらに、健康保険証の“デザイン”を踏まえた資格確認書ならば、変える必要があるのか……私も出席した会見はツッコミどころ多き、残念な内容でした。
「(来年秋の一本化の方針については)特に変更ない。厚労省、総務省との相談の上、総理の了解を得て決めたこと」
一方、こう話したのは河野太郎デジタル担当大臣です(2023年8月1日閣議後記者会見)。
確かにマイナカードは行政の効率化には欠かせないものでしょう。しかし、今回の問題では、政府に決定的に欠けている視点があると感じます。それは「これまでやったことがないことに挑戦している」ということです。
COCOAの件もそうでしたが、新しいことには不具合やデメリットもあり得ます。決してそれを容認するわけではありませんが、政府はそうしたことを覆い隠し、導入することで「さまざまなメリットがある」と、あたかも「万能」「完全無欠」のようにアピールしてきました。首相の会見でも「利便性を理解」「メリットを実感」「デジタル社会のパスポート」……美辞麗句が並んでいました。
私はいっそ、発想を転換してみてはどうかと思います。新しいことには不具合やトラブルがつきもの。そうした点も前もって説明し、よりよくしていくために「国民に協力をお願いする。ぜひ、育てていきましょう」……このように言えないものか。
こう言うと、不完全なものを世に放つのかという声も出るかも知れません。しかし、日本には「カイゼン」という世界に誇る言葉があります。卑近な例では、日本のアイドルは「未完成な存在からファンが育てていく」という文化もあります。政府も国民もそんな目で来たるデジタル社会を迎えられないものかと思います。
民間では、完全がごとく美辞麗句で飾られた宣伝にのせられて商品を買ったら、不具合や料金のカラクリで「こんなはずではなかった」というトラブルがしばしば見受けられます。マイナカードをめぐる問題は、まさにこんな状況に近い。
そんなことが続けば、民間では信用を失い、淘汰されるでしょう。しかし、国は淘汰されるわけにはいかないのです(国は淘汰されないから好き勝手やっていい……そのように政府が思っているのだとしたら、それこそ言語道断ですが)。
「国民が国に対して信頼を持つことが、マイナンバーカードが拡がる絶対に必要な条件だ。国に対する信頼は簡単に形成できるものではない。国民が“国は悪いことをしない”という信頼を持てるかどうか……いちばん基本的な問題だ」
こう話していたのは、一橋大学名誉教授で経済学者の野口悠紀雄さんです。信頼回復、信頼回復と言いますが、そもそも回復するだけの信頼度があるのか……むしろ、信頼をゼロから構築するつもりで、政府にはいま一度、謙虚な姿勢が求められるのではないでしょうか。(了)
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