中央大学法科大学院教授で弁護士の野村修也と元経産省官僚で政策アナリストの石川和男が8月30日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。前月より0.2ポイント悪化し、2.7%となった7月の完全失業率について解説した。
7月の完全失業率2.7%、6月より0.2ポイント悪化
総務省によると、7月の全国の完全失業率は2.7%で、6月より0.2ポイント悪化した。悪化するのは2023年3月以来で、総務省は、物価高などを背景に仕事を求める女性が増え、失業者数の増加につながった可能性があると分析している。
飯田)求職者数が増えているのですか?
野村)分析するのは難しいと思います。数字を見ると、確かに求職者数は増えています。問題は「なぜ増えたのか」ということです。総務省の分析によると「物価高だから働きに出なければいけない」という理由ですが、それは少し短絡的な説明だと思います。
飯田)物価高だからというのは。
野村)1つには、これまで女性が働く場合、「何とかの壁」がたくさんあったでしょう。それを撤廃していこうという動きがあるので、これまで抑制的に働いていた人がそこを辞めて、自分たちに有利な職場を求め始めた可能性もあります。その辺りをきちんと分析できるかどうかが1つのポイントだと思います。
根底にある人手不足 ~万博の建築の場に女性を活用するなど、政府が労働需給をマッチングさせる
石川)失業率も株価や為替と同じで、日々の数字が上がったり下がったりするものです。直近の日本の雇用をめぐる情勢を考えると、根底にあるのは人手不足です。
飯田)人手不足。
石川)これは厚労省の発表で記事にもなっていますが、製造業や建設業で人手不足だということは当局も認めています。かつて、建設業には税金もずいぶん払われ、「公共事業で道路をつくりすぎだ」と言われた時代がありました。政府としては経済対策、景気対策として、建設業にいろいろとお金を投じた時代があったのです。しかし、いまは本当に人がいません。2025年に大阪万博が開催されますよね。
飯田)パビリオン建築の遅れが報道されていますが。
石川)基本的には、建てる土地は用意されているのです。お金も一応あるのですが、人手不足が問題で、人がいなければお金を使ってもダメです。
飯田)そうなりますね。
石川)日本は失業率が2.7%と低いのですが、それでも失業している人がいる。例えばある程度、女性を建築の場に活用するなど、政府が万博などの国策的なもので労働需給をマッチングさせるようなことをやらないと、修正できませんよ。
「2024年問題」をどう乗り切るか ~これからの「日本の行く道」を考えなければならない
野村)一方、労働環境を改善するという形で、超過勤務が制限されています。運送や建築の場面では、そういう方向になっているので、人がいても働く時間が短くなれば、それだけ生産性が落ちてしまう問題があるわけです。
飯田)超過勤務を制限することで。
野村)万博の場合、そこだけ特区のような形にして超過勤務を認めないと、間に合わないのではないでしょうか。
飯田)「2024年問題」と呼ばれるものもありますね。
野村)そういったことも含めて、働き方そのものを考える側面が一方にあるとすれば、いろいろな人たちが労働市場のなかに入ってこないといけない。そうすると、もう1つ出てくるのが「外国人をどうするのか」という問題です。それが移民問題のようなものになると、フランスの暴動のような形になってしまうわけです。
飯田)「社会が変わってしまうのではないか」というところに。
野村)他国の動きも全部含めて、「これからの日本の行く道」を考えなければいけません。労働人口が減っていけば当然、分母が小さくなる分だけ失業率が上がっていくわけです。そういうことも含めて、考えなければいけないことがあります。
人が集まらないところでは特区という形で規制を変えるなど柔軟に対応するべき
飯田)人手不足ということは、逆にイノベーションの源泉でもあるのではないでしょうか?
石川)図らずもオフィスワークを中心に、コロナ禍で「リモートワーク」があっという間に浸透しました。それまでは「働き方改革」として「リモートワークをしよう」と言っても全然、進まなかったのに。
飯田)そうですよね。
石川)世の中の動きを逆手にとってリモートが定着したのだと思います。今回の人材不足も逆手にとって、ITやAIなど、いわゆる生身の人間以外のものを使うきっかけになると思います。
飯田)AIなどを使うきっかけに。
石川)ただ、それは徐々に移行していくものであって、急に2025年の万博を目指して「今年からやろう」と言っても難しい。映画『ターミネーター2』のように、簡単に機械が人間の役割を代替できる世界にはならないので、きっかけに過ぎません。
飯田)AIを使おうという。
石川)目の前の問題として、労働需給の過不足がありますよね。「ここには行き過ぎているから賃金が安い。ここは少ないけれど賃金が高い」というところ。
飯田)労働力の過不足。
石川)こういうときはある程度、国や公的セクターが規制し、予算を付けて誘導する。臨機応変に解決していくということを、いままでやってきたのです。
飯田)国や公的セクターが。
石川)万博を例に取りましたけれど、目の前に人がおらず困っているところがあるなら、予算を手厚く付ける。あるいは特区という形で規制を変えるなど、柔軟に対応するべきだと思います。
規制緩和も重要 ~隙間時間を使った働き方も考えるべき
野村)規制強化もありますが、規制緩和も重要です。例えば過疎地でタクシーがないとなれば、カーシェアを行う。あるいは一般の人が隙間時間を使って運転手の代わりに働く。そのような隙間時間を使った働き方なども考えなければいけないと思います。
飯田)いままでであれば「白タク」と言われて、規制の対象だったけれども。
野村)道路運送法自体を改正して、そういうことをみんながシェアしていけるような、シェアビジネスを発展させていく。雇用統計には反映されないかも知れませんが、「私たちの働き方そのものを変えていく」という意識は重要だと思います。
飯田)それで可処分所得が増えれば、経済は回りますものね。
野村)そういうことです。
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