性犯罪歴確認「日本版DBS」の課題 ~「内心の自由」と「実際の行動」の区別を厳密に 佐々木俊尚が言及

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ジャーナリストの佐々木俊尚が9月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。「日本版DBS」について解説した。

性犯罪歴確認「日本版DBS」の課題 ~「内心の自由」と「実際の行動」の区別を厳密に 佐々木俊尚が言及

※画像はイメージです

日本版DBS ~やりすぎると私権制限になりかねないので慎重にやらざるを得ない

こども家庭庁は9月5日、子どもと接する職業に就く人に性犯罪歴がないことを確認する制度「日本版DBS」に関する報告書案を有識者会議に示した。学校や保育所などに確認を義務付け、学習塾などには自主的に確認した場合に認定する制度を設ける。

飯田)「DBS(Disclosure and Barring Service)」はイギリスの制度であり、日本語に直すと「前歴開示・前歴者就業制限機構」となります。

佐々木)当然、やるべき政策だと思うのですが、やりすぎると私権制限になりかねません。相当慎重にやらざるを得ないでしょう。

飯田)慎重に。

佐々木)報道などで「不起訴の場合は対象にしない」と書いてありますが、それは当然のことです。有罪になった場合だけ対象にして、不起訴は対象にしない。性犯罪でも冤罪は当然あるわけで、痴漢などは冤罪の問題が以前から言われています。そういうものまで含んでしまう可能性があるから、慎重になるべきです。

民間の学習塾やスポーツジムなどは任意

佐々木)今回、対象になるのは学校などだけで、学習塾やスポーツジムなど民間の事業者は対象にしないということです。民間の事業者についても、やろうと思えばできるのですが、塾やスポーツジムなどは免許制度ではないので、監督官庁もなければ法律の要件も何もないのです。

飯田)民間の塾やスポーツジムなどは。

佐々木)任意的な民間企業ですから、縛りようがない。やり方はあるのかも知れませんが、立法して対応するほどの話なのかという問題はあります。

飯田)そうですね。

佐々木)今回は義務付けではなく、「うちはそういう者を雇いません。DBSを利用しています」と手を挙げた塾やスポーツジムなどに関しては、それを認定する方針です。妥当な判断なのではないでしょうか。

小児性愛をどこまで取り締まるか ~アニメーションや漫画であれば、内心の自由、表現の自由の一部なので擁護してもいいのではないかという議論も

飯田)この辺りがギリギリのラインでもあるのでしょうか。子どもを持つ親からすると、性犯罪は何度も繰り返されることがあるので心配です。

佐々木)再犯率が非常に高いと言われています。一種の障害や病気に近いものではある。ただ、内心の自由はあるわけです。

飯田)内心の自由。

佐々木)一方では、ペドフィリア・小児性愛のようなものをどこまで取り締まるかという議論もあります。例えばアニメや漫画などで、小児性愛的な表現はあるわけです。

飯田)あります。

佐々木)実際の子どもを使う場合は児童ポルノになるので許されませんが、アニメーションや漫画であれば、実在する子どもではありません。それを見ることに関しては内心の自由、表現の自由の一部なので、「擁護してもいいのではないか」という議論はあります。

小児性愛アニメや漫画を「不快だから許せない」のか「子どもに害があるから許せない」のかは分けなければならない ~「不快だから許せない」と言っているだけに見える人も多い

佐々木)ただ、「それさえも許せない」と言う人がたくさんいます。兼ね合いが非常に難しいのですが、「不快だから許せない」のか、実際に「子どもに害があるから許せない」のかは分けなければいけない。

飯田)なぜ許せないのか。

佐々木)批判している人の大半は、ただ「不快だから許せない」と言っているだけに見えるのです。

内心の欲望を解消するためのアニメや漫画のコンテンツは擁護するべきではないかという考え方も ~さまざまな議論を積み重ねた上で子どもに対する性被害の問題を考えなければならない

佐々木)小児性愛の思考を持っている人間は、必ず一定数いるのです。実際に子どもに害があるかと言うと、それを内心のなかで持っていても表には出さないけれど、欲望を何とか解消するために、アニメや漫画などのコンテンツで対応している。その代わり「実際の子どもには一切近寄らない」という場合もあるので、それは擁護すべきではないかという考え方もあるわけです。

飯田)内心で持っているだけのものについては。

佐々木)漫画やアニメまで禁止してしまうと、実在する子どもに手を出してしまう可能性が高まるかも知れない。そういう議論をしっかりと積み重ねた上で、子どもに対する性被害の問題を考えなければいけないと思います。そういう内容の漫画やアニメを観る人に対し、すべて「けしからん」で終わってしまうと、あまりにも雑駁な議論になってしまうのではないでしょうか。

飯田)ポスターなど「目につく場所にこんなものを置きやがって」となると、表現の弾圧にもつながっていきますね。

内心の自由とそれを実際に行動に移すことの区別を厳密に ~性悪説と性善説の間のどこでバランスを取るのかという区切りが大事

佐々木)内心の自由と、それを実際に行動に移すことの区別。さらには行動に移しても、それが本当に犯罪要件を満たしているのかどうか。不起訴になっているか有罪になっているかどうかも、厳密に分けていただきたいと思います。

飯田)事前に決めておき、それに従って裁いていく必要がありますね。

佐々木)こういうものは、放っておくと範囲が拡大していくのです。すべてが加罰的になることもあるので、なるべくそうならないように考える。完全に性善説に立ってしまうのはよくないけれど、完全に性悪説に立ってしまうのもよくない。

飯田)性悪説に立ってしまうのも。

佐々木)どちらもよくないから、性悪説と性善説の間のどこでバランスを取るのか、制度として区切りをつけるのが大事ではないでしょうか。

飯田)そういった漫画などのコンテンツも、「これを観ることでむしろ加速するのだ」と指摘する人もいますが、そこは学術的に精緻な議論が必要ですね。

佐々木)過去の研究では、少なくともそういうものが性被害を増やすことは実証されていない。それは間違いありませんが、さらにそういう研究を支援することも大事だと思います。

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