外交評論家で内閣官房参与の宮家邦彦が9月18日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。9月21日に行われるバイデン大統領とゼレンスキー大統領の会談について解説した。
バイデン大統領が9月21日にゼレンスキー大統領と会談
アメリカのサリバン大統領補佐官は9月15日、バイデン大統領が21日にウクライナのゼレンスキー大統領とホワイトハウスで会談すると発表した。ゼレンスキー氏は米連邦議会の与野党指導者とも会談し、支援継続を求める見通し。
飯田)ゼレンスキーさんは、19日から始まる国連総会の一般討論に参加し、演説も行う予定です。そこから外交となります。
宮家)ウクライナ戦争が非常に重要な時期にきているのだと思います。
西側はウクライナを見捨てるのか? ~終わりが見えず、NATO内で「本当に支援を続けるのか?」という議論が出てくる可能性も
宮家)先日、アメリカの外交専門誌『Foreign Affairs』が、「西側はウクライナを見捨てるのか?」というタイトルの記事を掲載しました。すぐにそうなるわけではありませんが、いくつか「危機的な状況もあり得る」という題なのです。
飯田)見捨てることもあり得る。
宮家)戦争が始まる2022年2月24日の前、NATOはウクライナに対して、どちらかと言うと冷たかったのです。しかし2月24日に戦争が始まって、ゼレンスキーさんが頑張った。そこから状況が転じ、いまでは支援に変わっています。
飯田)そうですね。
宮家)そして第3段階として、2023年夏の反転攻勢に向け、最新武器も次々と入れていった。しかしながら、それほど簡単ではなかった。
飯田)反転攻勢に向けて。
宮家)いまは第4段階として、消耗戦が始まっています。ウクライナ国内でのロシア軍との消耗戦の他に、もう1つの消耗戦がNATO内にあると思います。NATO内では、「本当にウクライナ支援を続けるのか」という話が出ている。一部の国は疲れてきているのです。
飯田)「支援疲れ」とも言いますよね。
宮家)1年経ってしまって、終わりが見えないですよね。特にドイツなどはロシアからエネルギーを入れていたので、それがストップしてしまい困っています。それによって相当なインフレになる、もしくは生活に悪影響が出てしまうので、「本当に支援を続けるのか?」という議論が出てくるだろうという論文なのです。私の見立てだと、それは我々にとっても重要な意味を持つだろうと思います。
ドイツが本気でウクライナ支援を疑問視するときがくるのかどうか
宮家)これをどう考えるべきなのか。フランスはいつも立場が揺れているので仕方ありませんが、「ドイツが本気でウクライナ支援を疑問視するときがくるのかどうか」がポイントです。NATO諸国のなかで最も対露姿勢が厳しいのは当然、ロシアに近いバルト三国や、ポーランドなど東側の国々です。
飯田)明日は我が身ということですね。
宮家)そのなかで例外として、ハンガリーのような国もあります。それはさておき、西に行けば行くほど、何百年も昔から、ロシア・ドイツ・フランスなどの列強がいたとき、遠い国同士がくっ付くのはよくあることでした。その意味で、ヨーロッパ諸国は必ずしも一枚岩ではありません。
飯田)ヨーロッパ諸国も。
宮家)「そうは言っても、いまはまだ一枚岩だ」と論文では言っています。
米共和党のなかで「中国の方を重視しなければいけないので、ロシアと戦争をやっている暇はないだろう」という見方も
宮家)では何が欧州諸国にとって最も大きな問題なのかと言うと、実はアメリカではないかと思います。いまのところ、バイデンさんはゼレンスキーさんと会い、おそらく今後も支援を継続しますし、新たな軍事援助もするでしょう。
飯田)バイデン大統領は。
宮家)それはそれでいいのですが、なぜヨーロッパ諸国がアメリカのことを心配するのかと言うと、やはりトランプ現象ですよ。現状、民主党のバイデンさんは一生懸命支援しようとしています。これは当然のことで、もともとはトランプさんが「アメリカファーストだ」と言い始め、アメリカとアメリカの同盟国の間を切っていったわけです。その結果、同盟がガタガタになってしまった。
飯田)そうでしたね。
宮家)それを喜ぶのはロシアや中国、北朝鮮、イランです。そしてトランプさんがようやく大統領選で負けて、バイデンさんが戻ってきた。「これからは同盟国との関係をまた強化する」と言い、やっとここまで来たのです。
飯田)バイデンさんが大統領になって。
宮家)そしてウクライナ戦争が始まった。しかし、アメリカがウクライナを支援するのはいいのですが、「いつまで続けるのか?」という声が特に共和党内から出ています。トランプさんはもちろん例外的にそうなのですが、共和党内でも、「本当にゼレンスキー大統領をずっと支援し続けるのか?」という声がないわけではない。
大統領選が近くなり、「だからこそ、ロシアに好き勝手やらせてはいけないのだ」という議論にならないアメリカ
宮家)良識的な人たちのなかには「ゼレンスキー大統領が嫌いなのではなく、ロシアも問題だけれど、中国の方が問題だから、まず中国を重視しなければいけない。ロシアと戦争をやっている暇はないだろう」という見方もあるのです。
飯田)中国の方が問題だと。
宮家)しかし、私はそれは間違っていると思います。中国の方が大事なのはその通りですし、日本にとっても同じです。「だからこそ、ロシアに好き勝手やらせてはいけないのだ」というような議論に、アメリカではなりません。理由は大統領選挙が近付いているからです。
飯田)なるほど。
宮家)そこで駆け引きがあり、共和党側が民主党のバイデンさんの評価を下げるような動きをするのは、国内政治なので当然です。それがいま起きているのです。
バイデン大統領とゼレンスキー大統領の会談をヨーロッパがどのように見るのか、また、アメリカ国内で共和党系の人たち、一般国民はどのように見るのか
宮家)日本にとっては中国が最も大事ですが、ロシアがウクライナで上手くやってしまったら、その成功体験は必ず中国に受け継がれることになります。
飯田)ロシアの成功体験が。
宮家)もしトランプさんが再び出てきて、アメリカが支援する気をなくしてしまったら、ヨーロッパ戦線もインド太平洋戦線も両方やられてしまいます。その意味では、我々はいま分岐点にいるのではないでしょうか。バイデンさんとゼレンスキーさんの会談を各国、特にヨーロッパがどのように見るのか。また、アメリカ国内で共和党系の人たちがどのように見るのか、一般アメリカ国民はどのように見るのか。ここに注目しなければいけないと思います。
飯田)岸田さんもゼレンスキーさんと会うかどうかはわかりませんが、国連総会には行きますよね?
宮家)そうですね。新しい外務大臣も向かうということなので、やることはたくさんあります。
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