基準地価 2年連続上昇も全国で見れば「まだら模様」

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ジャーナリストの佐々木俊尚が9月20日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。全国平均で2022年より1%上昇した基準地価について解説した。

基準地価 2年連続上昇も全国で見れば「まだら模様」

台東区浅草の商業地地価上昇率1位地点。オレンジ通りに面し、観光客や人力車が行き来する=2023年9月15日 写真提供:産経新聞社

基準地価が2年連続で上昇

国土交通省は土地取引の目安となる7月1日時点の全国の基準地価を発表した。住宅地、商業地、工業地を合わせた全国平均は2022年より1%上昇した。上昇は2年連続で、新型コロナの影響で落ち込んでいた経済活動などが回復し、住宅や商店の需要が増えたことが要因とされる。

飯田)東京・浅草や、岐阜・高山市など、インバウンドでの地価上昇も見られました。

佐々木)東京・大阪・名古屋の三大都市圏を除く地方が上昇に転じたのは、バブル崩壊の影響を受ける前の1992年以来、31年ぶりだそうです。

飯田)31年ぶり。

佐々木)要因はいろいろありますが、最も大きいのは、コロナで落ち込んでいた経済が復活してきたことでしょう。あとはインバウンドの復活で、地方の観光地も盛り上がるのではないかと期待されています。また低金利で、なおかつインフレが進行しているため、現預金で持っていると資産価値が落ちてくるから、不動産投資する人が増えているのではないでしょうか。

半導体バブルで地価が高騰する千歳市や、TSMCが工場建設を進めて経済が盛り上がる熊本の例も ~すべての地価が上がっているのではなく、全体で見るとまだら模様

佐々木)しかし、よく見るとまだら模様であり、V字ではなくK字回復なのです。Kというのは、すべてが上がっているわけではなく、右側が上るのと下がるのと両方あります。

飯田)下がっている部分もある。

佐々木)実際、地方で地価が上がっているところの1つに、千歳市があります。「ラピダス」という新しい半導体先端企業が、北海道の千歳に工場をつくるため、地価が高騰していて半導体バブルとも言われています。

飯田)千歳市の地価が上がっている。

佐々木)いちばん大きいのは熊本ですよね。世界最先端の半導体ファウンドリである台湾のTSMCが、熊本で工場建設を進めており、盛り上がっています。

飯田)住宅地や商業地、さらには教育施設なども建っているという。

佐々木)TSMCはアルバイトの時給が3000円らしいですからね。

飯田)時給3000円なら普通の会社の正社員と同じか、それ以上です。

コロナ禍でリモートワークが進み、軽井沢への移住者が増えた ~「軽井沢風越学園」が開園・開校し、家族で移住することが可能に

佐々木)軽井沢も地価が上がっていて、長野県の地価上昇率の1位・2位が軽井沢なのです。コロナ禍でリモートワークが進み、東京から近いので移住する人が増えた。また、2020年には「軽井沢風越学園」という幼小中一貫の優秀な学校もできました。

飯田)軽井沢風越学園。

佐々木)東京のお金のある起業家などで、引っ越したくても子どもがいるので引っ越せなかった人たちが、「風越学園があるなら行くか」と最近、続々と東京のお金持ちが軽井沢に土地を買っています。「あの人もこの人も」という感じですよ。

飯田)そうなのですね。

佐々木)そのようにピンポイントで盛り上がっていますね。

北陸新幹線の開業で盛り上がる福井・敦賀

佐々木)敦賀・福井の周辺も地価が上がっています。

飯田)北陸新幹線の影響で。

佐々木)来年(2024年)3月に新幹線が敦賀まで延伸して開業するので、それに引っ張られて盛り上がっているのです。

全国各地に広がる廃屋 ~更地にしても売れない

佐々木)ただ、これが全国に波及するかと言うと、まだら模様の状態です。一方ではまったく土地が売れる見込みがなく、空き家が増えている。売れないから更地にして土地を売ろうにも、用途がないので売れません。

飯田)更地にしても。

佐々木)また、一戸建てを壊すと約200万円掛かると言われます。なおかつ、住宅地から更地に変えると、固定資産税が増えてしまうのです。

飯田)税金が増えてしまう。

佐々木)だから放置して廃屋になっていくと、近所の人は火事になるのではないか、泥棒が入るのではないかと心配になり、「どうしようもない」というような場所が全国各地の至るところに広がっているのです。

今後、地方では強制的なコンパクトシティ化が進む

佐々木)しばらく前に、ある不動産関係の人と話したとき、「これからは強制的なコンパクトシティ化が進みますよ」と言われました。

飯田)強制的なコンパクトシティ化。

佐々木)一時、青森などで行われていました。郊外のインフラ整備が大変なので、郊外の住宅地を減らしていき、「駅前や町の中心部にみんなで移り住みましょう」というものです。

飯田)みんなで移り住む。

佐々木)アメリカのオレゴン州ポートランドなどが実践しています。中心地から円をコンパスで描き、「そこから外側はインフラ整備しません」と宣言するのです。

飯田)宣言してしまう。

佐々木)日本では、そこまでやるとみんなが怒るので、やれないわけです。ですので、自然と集まるように「中心部に移り住みましょう」と行政が誘導しようとしたけれど、あまりうまくいかなかった。

飯田)そうなのですね。

佐々木)現状、水道などのインフラが限界集落で維持できなくなり、今年(2023年)、厚生労働省が「水道が難しいので、給水車で対応する」というガイドラインをまとめました。インフラもそこまで切羽詰まっているのです。

飯田)管路敷設工事はせず。

佐々木)または橋が崩落しても、その先に数件しか家がない限界集落であれば、橋を復旧させてもお金が掛かるだけでコストも見合わないため、「放棄しましょう」という流れになってしまう。過疎化した集落には人が住めなくなり、仕方ないので街の中心部に集まります。

移住者で盛り上がる町と過疎化する町でまだら模様に

佐々木)なかには、若者や移住者が来て盛り上がる町もあり、反対に盛り上がらない町もあります。「盛り上がる町に人が集まり、盛り上がらない町から人が減っていく」というまだら模様がある。

飯田)まだら模様に。

佐々木)そのなかで、過疎化する地域では「強制的にコンパクトシティ化が進むのではないか」と指摘する方もいます。基準地価のまだら模様を見ると、いままさにそれが起きているのではないかと思います。

札幌・仙台・広島・福岡では8%上昇 ~九州でも新幹線の通らない大分は置いていかれてしまった

飯田)全国平均で基準地価が1.0%上昇していますが、地方4市の札幌・仙台・広島・福岡の全用途平均は、8%も上昇しているのですね。

佐々木)8%はすごいですね。九州でも福岡と熊本は巨大都市だから盛り上がるのですが、それ以外の大分や鹿児島はどうなのかと言うと、まだらに人が減っているところがたくさんある。

飯田)新幹線が通っている地域に吸い寄せられるような。

佐々木)新幹線は西寄りを通っているので、東側の大分などが置いていかれてしまった。本当に悲喜こもごもな感じになっています。

飯田)その辺りをこの先、どうデザインしていくのか。

佐々木)気が付いたら、全国いたるところが「草ぼうぼうの廃墟だらけ」になってしまったら困りますね。

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