アゼルバイジャン軍が勝利したことで黒海周辺の「地域大国」として存在感を増すトルコ

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ジャーナリストの須田慎一郎が9月22日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。アゼルバイジャンが勝利宣言したナゴルノカラバフでの軍事行動について解説した。

アゼルバイジャン軍が勝利したことで黒海周辺の「地域大国」として存在感を増すトルコ

2022年7月19日、イラン首都テヘランで会談し、握手するロシアのプーチン大統領(右)とトルコのエルドアン大統領(タス=共同) 写真提供:共同通信社

アゼルバイジャン軍が勝利宣言

アゼルバイジャン軍が9月19日に隣国アルメニアとの係争地「ナゴルノカラバフ」で開始した軍事行動について、アルメニア側は翌日の20日、現地での完全な武装解除などを受け入れて停戦に合意し、事実上、敗北した形となった。一方、アゼルバイジャンのアリエフ大統領は20日夜、「対テロ作戦が成功に終わり、主権が回復された」と勝利宣言した。

トルコとロシアの代理戦争でもあるアゼルバイジャンとアルメニアの争い ~黒海周辺での地域大国を目指すトルコは一定の成果を上げ、発言力が増す

飯田)トルコはアゼルバイジャンと近く、アルメニアとロシアの間には安全保障条約的なものがあるとも言われています。

須田)そういった意味では、代理戦争的な形ですね。この地域の覇権をめぐって、トルコとロシアがつばぜり合いを行っていました。とは言っても、ロシアには盟主という立場がありますから、平和維持軍を送り込み、今回もロシアの面子を立てる形で停戦、武装解除に乗り出したのでしょう。

飯田)なるほど。

須田)その一方で、世界全体の大国ではなく、近隣諸国を含めて黒海周辺での「地域大国」を目指していくというトルコの戦略があります。これに関して一定の成果を得たので、発言力が増していくのではないかと思います。

アルメニアはてのひらを返してアメリカと軍事演習を始め、ロシア離れに ~今後、この地域でのアメリカとトルコの関係がどうなるのか

須田)それに対抗するためにアルメニアはロシアと接近したのです。ただ、ロシアはウクライナ問題で手いっぱいで、アルメニアまで手が回る状況にはない。アルメニアの方も手のひらを返して、先だってアメリカ軍との合同軍事演習まで始めてしまいました。

飯田)そうなのですね。

須田)「ロシア離れ」が加速していくのではないでしょうか。アルメニアがアメリカとの接近を果たすとなると、この地域でアメリカとトルコの関係がどうなっていくのか、注目だと思います。

飯田)トルコは北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているので、軍事的にはアメリカと緊密であるはずですよね。

独自の路線を歩むトルコ

須田)緊密なはずですが、北欧のNATO加盟をめぐってもいろいろあり、トルコの思いは複雑なのです。

飯田)複雑なようですね。

須田)トルコはNATOに加盟して、「次は欧州連合(EU)」という状況にあった。トルコとしては、腹のなかではEUに加盟したかったのです。ところがEU加盟国にしてみれば、トルコは農業大国なので歓迎できない。

飯田)EU加盟国としては。

須田)トルコは農政改革を進める、あるいは道路もEU規格に合わせるなどして、かなり譲歩しました。しかし、このまま交渉しても「EU加盟は不可能だろう」と受け止めて、トルコはトルコ独自の路線を歩み始め、その遠心力が働いている状況です。その上、エルドアン大統領は非常にキャラが立った大統領ですから、地域大国化へ進むなかで、波乱要因になっているのではないかと思います。

地政学上、大きな影響力を持つ「アルメニアをどこが引き込むのか」がポイント

飯田)一方でアルメニア側は、海外に移民などで出ている人が多く、アメリカの政治にも影響力がある。アメリカを引き込むこともパイプとしてあったわけですか?

須田)キリスト教国ですから、シンパシーもあるでしょう。今後のアルメニアの戦略はどういう方向に向かっていくのか。今回、アゼルバイジャンとの紛争で敗れたとは言え、地政学上は大きな影響力を持っているのです。

飯田)位置的にも。

須田)だから、「アルメニアをどこが引き込むのか」がポイントになると思います。ロシアもただ黙って指をくわえているばかりではないと思いますから。

豊富な天然資源があり、地理的に資源が運ばれる経由地にもなるアゼルバイジャン

飯田)いろいろな工作を仕掛けてくるでしょう。しかも、アゼルバイジャンの辺りには天然ガスなどの資源がたくさんありますよね。

須田)資源がたくさんあるのと同時に、地理的に資源の経由地でもあるのです。今回の件を含め、アゼルバイジャンはトルコとの関係を緊密化させていくのではないでしょうか。

飯田)アゼルバイジャンとトルコの関係が。

須田)トルコを牽制するという意味でも、アルメニアにいろいろな国が触手を伸ばしてくるような状況になると思います。

飯田)トルコにとっても、アゼルバイジャンからパイプラインが通ってくると、資源の確保、あるいは資源が通過することでお金が取れるなど、いろいろな恩恵があります。

須田)また、そこを提供しているとなると、相当な発言力も生まれます。カスピ海を含めて天然資源が豊富なところがあり、それがヨーロッパへ運ばれるにあたって、ロシアを回避するという動きになりますから、必ずその地域を通るのです。

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