「セキュリティクリアランス制度」は機微技術を扱う国際的連携において不可欠な要件

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慶應義塾大学教授で国際政治学者の細谷雄一が10月26日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。セキュリティクリアランス制度の法案について解説した。

「セキュリティクリアランス制度」は機微技術を扱う国際的連携において不可欠な要件

※画像はイメージです

セキュリティクリアランス制度の法案、来年の通常国会提出へ

岸田総理は10月25日の参議院代表質問で、機密情報の取り扱いを有資格者のみに認めるセキュリティクリアランス制度に関し、2024年の通常国会での法案提出に向けて準備を進める考えを示した。

主要国でセキュリティクリアランス制度が導入されていないのは日本だけ

飯田)機密とされる情報に接する資格を与える。特定秘密保護法というものがあって、公務員の方などは資格がありますが、それをさらに広げるようなイメージですか?

細谷)これは経済安全保障の文脈で出てきた話で、重要なことだと思います。大きな開発を行うときには予算規模が大きくなり、一企業・一国単位ではなく、国際的な連携でつくる場合が多くあります。日本の場合、日本・イギリス・イタリアが共同で次期戦闘機を開発することになりました。

飯田)F2の後継機の開発。

細谷)多くの国では民間企業に対しても、機微技術・重要技術を扱う際は技術流出を防ぐため、「外国のスパイが入っているのではないか」など、セキュリティクリアランスを要件として要求するのです。ところが、主要国で日本だけがセキュリティクリアランスがありません。

機微技術を扱う国際的連携において不可欠な要件

細谷)実は、これまでも日本企業などが最後の段階で、国際的な契約や連携を解消されるケースがたくさんあるのです。日本にセキュリティクリアランスがないので、そこに関与する技術者について「外国のスパイが入っていない」ということが証明できないわけです。

飯田)セキュリティクリアランスがないために。

細谷)それもあって、高市大臣はセキュリティクリアランス制度の在り方に関する有識者会議の議論を再開すると言っています。企業からの要請も強くあって、かなり力を入れて導入する。有識者会議で議論を経た上で導入する方針です。日本経済において今後、機微技術を扱う国際的な連携の上では不可欠な要件になると思います。

飯田)いままではセキュリティクリアランスがないために、門前払いのようになることがあったわけですね。

細谷)そのため、多くの企業が国際的な共同開発に加わることができないケースがありました。それが過去20~30年、日本の技術力が国際的に低下した1つの要因だったと思います。

自由にサプライチェーンをつくる領域と日本の国家の安全が関わる機微技術の領域の「2つの領域」が存在する

飯田)民間の人々も対象になるということですが、「会社内での取り扱いが不当に変わるのではないか」などと言う人もいます。これは「なぜ、いままでやらなかったのか」という話ですか?

細谷)いままで日本は政経分離と言いますか、安全保障の問題と経済の世界は完全に分断されていました。ところが、特にバイデン政権になってから、アメリカは半導体を含めてこの2つを結びつけ、「経済安全保障」に関して敏感に対応してきた。同盟国であるヨーロッパ、日本などの国も対応を強いられ、特に民間企業は「どう対応したらいいのか」と困惑している状態だと思います。

飯田)経済安全保障というところ。

細谷)まず、安全保障の問題は政府・軍だけではなく、民間も含めなければいけない。その境界線ですよね。自由貿易で自由にサプライチェーンをつくる領域と、一方で日本の国家の安全が関わるセンシティブな機微技術の領域。その2つの領域が存在することについて、もう少し社会のなかで認識が広まる必要があるのかも知れません。

人の命を守るための軍事技術への理解がもっと広まってもいい

飯田)機微技術の話となると、民間企業もそうですが、研究する金額の部分も関わってきますよね?

細谷)菅政権では日本学術会議が問題になりましたが、戦後日本の平和主義は、いい面と悪い面の両方があったと思います。悪い面は軍事に対するアレルギーです。「軍事はすべて悪である」と考え、軍事に対する抵抗があった。しかし、外国からのミサイル攻撃、化学兵器を使ったテロに対して防護するためには、防護服が必要なわけです。

飯田)一方では。

細谷)これは軍事に関することですが、人々の命を守るわけです。軍事のなかには、人の命を守るための技術と人を殺すための技術があります。平和国家であっても、人の命を守るための軍事技術への理解がもっと広まってもいいのではないかと思います。

飯田)守るためには、相手が何をやってくるのか研究しなければいけない。

細谷)地下鉄サリン事件の前は、自衛隊では化学兵器を研究することも禁止されていたのです。それでは守ることもできない。ところが、サリン事件のときは、自衛隊のさまざまな知識に頼らざるを得なかった。それがその後の大きな変化につながったと思います。

飯田)その後、対特殊武器衛生隊などができていった。あれももう30年ぐらい前の話になります。

細谷)この30年間で随分、進歩したのではないでしょうか。

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