東京大学先端科学技術研究センター特任講師の井形彬が2月6日、ニッポン放送「新行市佳のOK! Cozy up!」に出演。セキュリティ・クリアランス創設法案について解説した。
セキュリティ・クリアランス創設法案、2月下旬に国会提出へ
安全保障上の機密情報を取り扱う人を認定するセキュリティ・クリアランス制度を創設する法案が、2月下旬にいまの通常国会に提出される予定。
セキュリティ・クリアランス制度
新行)「セキュリティ・クリアランス制度」において、具体的にはどんな人が対象になるのでしょうか?
井形)政府にとって重要な機密情報、例えば防衛やテロなどのハードな安全保障の情報については、以前から「きちんと信頼できる人にしか情報を共有しないようにする」という制度がありました。基本的に「情報が必要な人」というのは、政府のなかでも防衛省や外務省の人たちだけであって、「経産省や財務省の人がこの情報を知る必要があるか」と言えば、そうではない。そのため、政府内でも「この人になら情報を渡してもいい」と認定されるような人は比較的少なかったのです。
新行)そうなのですね。
井形)さらに、民間でも防衛産業に関わるような人に関しては、「信頼できる人でないといけない」ということで、情報を共有していた人もいました。しかし、それだけではダメだろうと。まさに経済安全保障に関わるような情報、先端科学技術で軍事転用が可能になってしまうような情報や、サプライチェーン上の情報がグローバルでどうなっているのかなど、外部に漏れると「脆弱性がどこにあるのか」も見えてしまいます。政府内でそのような経済安全保障に関する情報を扱う人々は、経産省や財務省でも増えていくでしょう。また、関連するような研究開発を行う民間企業に対し、そこに所属する人にも付与する。そういう制度になっています。
「バックグラウンドチェック」によって認定するかどうかを決める ~各国で方法が異なる
新行)この制度を使うとなると、「この人は信頼できる人です」と認定する必要があると思いますが、認定基準はどうなるのでしょうか?
井形)国によってやり方が違うので、日本がどこまで踏み込むのかがポイントになると思います。基本的には、その人が本当に信頼できるか調査することを「バックグラウンドチェック」と言うのですが、それを行う必要が出てきます。アメリカだと、例えば嘘発見器のようなものにつなげた状態で、「いまあなたに借金はありますか?」「実は酒癖が悪いのではないですか?」「麻薬をやっていたことはありますか?」など、かなりプライバシーに関わるような情報を聞きます。嘘発見器が鳴れば「この人は信頼できないから情報共有できない」となり、クリアランスが付与されないこともあります。
新行)嘘発見器で。
井形)オーストラリアなどでは流石に嘘発見器は使わず、心理学を専攻するような専門家が同席して、「いま目が動いたからこの人は嘘を言っている」、「これは本当だな」ということを判断します。日本がどんな形で背景調査を行うのかは、今後も見ていく必要があると思います。
新行)その国に合ったやり方があるのですね。
井形)もし日本で「嘘発見器を用いて行う」と言った場合、「だったらクリアランスを取らなくてもいい」と思う人が増えてしまうかも知れません。
セキュリティ・クリアランス創設法案については野党からも賛成意見が出る可能性が高い
新行)セキュリティ・クリアランス創設法案は今回の通常国会に提出される予定ですが、いままで難しかった背景には何があるのでしょうか?
井形)やはり人々のプライバシーの問題が最も大きいと思います。ただし、この法案は政府が出したことになってはいますが、おそらく野党からも賛成が出るのではないでしょうか。「保守かリベラルか」で言うと、リベラルの人たちが反対しそうな雰囲気はありますが、1年半前には「経済安全保障推進法」という包括的な法律が通りました。このときに附帯決議として、野党がコメントを付けているのです。それを見ると、「経済安全保障推進法には重要なものが足りていない。セキュリティ・クリアランス制度が入っていないのが問題だ」と表明しているのです。
新行)そうなのですね。
井形)そうなると、法案をそのまま「これでいい」と言うかどうかはわからないにせよ、基本的には自民党も立民も保守もリベラルも、「このような制度は最低限必要だ」というところに関して、共通の理解があるはずです。その意味では、「何かしらの法案は2024年中に通るのではないか」と言っていいと思います。
日本のクリアランス制度に穴があれば国際的な情報共有は進まない
新行)「何かしら」とおっしゃいましたが、「とりあえず」と見切り発車的に進めてしまった場合、支障はないのでしょうか?
井形)このような制度が必要な理由として、「日本国内の政府と民間でより信頼できる人同士、情報を共有しよう」という側面がある一方、他国との情報共有をより緊密にできるようにすることが1つの目的としてあります。他国から「日本のクリアランス制度は穴だらけだ」と思われれば、国際的な情報共有が進まなくなってしまいます。ですので、見切り発車は危ないですね。
新行)きちんと中身を議論する必要があるのですね。
厳しい罰則を設けなければ他国に信頼されない
井形)もう1つの論点は、罰則のところだと思います。
新行)情報を漏らした場合の罰則ですか?
井形)「情報を漏らしても罰金30万円で終わり」となると、海外から信頼してもらえるのかどうか。
新行)他の国だと、どんな罰則があるのでしょうか?
井形)かなり重い罰則になっています。今回の法案でも一応、懲役5年以下などの罰則になっていますが、韓国では政府が重要だと示した先端科学技術の情報を漏洩した場合、最高で懲役18年の罰則になります。アメリカでも、リークする情報の重要性によっても変わりますが、かなり長い懲役刑が当たり前になってきています。ただ、日本人では罰則が重すぎると「自分は怖いからクリアランスを取りたくない」と考えてしまう可能性があるので、このバランスも争点になると思います。
国際会議ではクリアランスを持っている人でないと参加できない場合が少なくない
新行)セキュリティ・クリアランスに関しては、「G7のなかで制度がないのは日本だけ」ともよく言われます。例えば井形さんが国際会議に出るなかで、クリアランスがないために困ったことはありますか?
井形)あります。会議に初日にしか参加できないこともありました。
新行)初日だけは出られても、「以降は参加できない」と言われるのですか?
井形)2日目からはクリアランスを持っている人でないと参加できない、というようなことは海外だとよくあります。
新行)それは日本の国益にも関わってきますよね。
井形)そうですね。
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