二松学舎大学国際政治経済学部・准教授の合六強が3月1日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。2月29日に行われたプーチン大統領の「年次教書演説」について解説した。
ロシアのプーチン大統領が年次教書演説、戦闘継続を表明
ロシアのプーチン大統領は2月29日、上下両院に対し内政や外交の基本方針を示す「年次教書演説」で、ウクライナでの「特別軍事作戦」を続ける考えを強調した。
飯田)ウクライナ侵略の継続を示し、戦略核兵器についても「完全な戦闘準備態勢にある」と威嚇するような言葉が出てきました。プーチン大統領の演説をどうご覧になりましたか?
トランプ大統領が当選すればアメリカの支援が滞るかも知れない ~わざわざ手を止める必要はない
合六)引き続き、彼らの言うところの「特別軍事作戦」を続ける方針で、代わり映えはないと思います。最近、日本だけではなく、欧米でも即時停戦論が少しずつ増えています。支援する側もいよいよ疲れてきたなかで、いまのうちにやめた方が「より被害が少なくて済むのではないか」という観点から、即時停戦論を言う人が多い。しかし、こういう状況を見ていると、たとえ無理矢理にでもウクライナ側に「停戦交渉を受け入れなさい」と言ったところで、プーチン側が認めるかどうかという問題があるわけです。プーチン大統領からすれば、現状もしかしたらトランプ氏が大統領になるかも知れない。そうなればアメリカの支援が滞る可能性があるので、いま「わざわざ手を止める必要があるのか」と考えると思います。
西側地上部隊の派遣も「排除しない」マクロン大統領の発言に敏感に反応したプーチン大統領
合六)現実的にも停戦は考えにくいので、しっかりと支援することが重要です。先日、フランスが主催する形で「もう1回ギアを入れ直そう」というような、ウクライナへの支援会議が開かれました。その記者会見でマクロン大統領は、西側の地上部隊をウクライナに派遣する可能性について「排除しない」と答えたのです。それに対してプーチン大統領がやや敏感になったところがあり、今回、久しぶりに核の脅威を持ち出したのだと思います。
マクロン大統領の発言への牽制か ~プーチン大統領が「戦略核」を誇示
飯田)2年前にロシアがウクライナへの全面侵略を始めたときも、小型の戦術核を使うのではないかと言われました。
合六)これまでのプーチン大統領の核に関する発言や行動を分析した研究があるのですが、一定ではなく、言葉のエスカレーションを上げる瞬間もあれば、一気にトーンダウンするような瞬間もあるのです。上げる瞬間には、あの手この手を使います。例えば開戦当時だと、自分たちには強力な兵器があることをほのめかしました。また、隣国の友好国であるベラルーシに核を配備すると言ったり、あるいは核関連条約からの離脱を示唆した。西側に「いざというときは核を使える体制にある」と思い起こさせ、支援を止めようとしたり、直接的な介入を停止しようとしてきました。
飯田)そうでしたね。
合六)ただ、アメリカ側も内々に「もしそうなった場合はわかっているだろうな」と逆の脅しを行うことで、プーチン氏としても「危ない」と感じたのか、最近はトーンダウンしていて、核に関する言及は少なかったのです。しかし、マクロン大統領から「直接的な介入も排除しない」という言葉が出てきたので、牽制する意味もあるのだと思います。
NATO諸国に波紋を呼んだマクロン大統領の派兵発言 ~最前線にいるエストニアやリトアニアは歓迎の意を示す
飯田)さすがに地上軍を派兵するとなると、いろいろな反応が出ていて、ドイツのショルツ首相などは否定しています。一方、バルト三国のエストニアの首相は前向きに発言するなど、グラデーションがありますね。
合六)マクロン大統領の「排除しない」という言い方は、「どんな可能性もある」という形で曖昧にしているのです。それによってプーチン大統領の計算をややこしくする意図があるのだと思います。この発言に対してドイツやアメリカ、あるいは北大西洋条約機構(NATO)の事務総長も、現時点では直接的な派兵はないと明確にしています。結果的に「同盟内でまとまっていないではないか」、あるいは「またマクロン大統領のスタンドプレーではないか」と、亀裂の部分が露呈することに対して批判が出ているのです。
飯田)西側のなかでも。
合六)ただアメリカは今後、トランプ氏再選の可能性を含め、どうなるかわかりません。マクロン大統領としては、ヨーロッパ自身が「自分たちの力で自分たちの問題を解決しなくてはならない」という、ギアアップのために言っているのでしょう。その点に関して、最前線にいるエストニアやリトアニアの首相などは、フランスの姿勢の変化に歓迎の意を示しています。
アメリカが動かない限り、ウクライナにとって厳しい状況が続く
飯田)ウクライナ側は軍の司令官が交代し、一部の都市から撤退せざるを得なくなるなど、反転攻勢というよりは防戦の方にフェーズが変わってきました。
合六)最近はずっとそうだと思います。去年(2023年)の6月以降、反転攻勢がうまくいかないなかで司令官が交代するなど、ウクライナの政治と軍の関係もギクシャクしています。今後は支援の滞りが見通されるなかで、「積極的防御」と言われますが、守勢に回りつつ、穴があるところに対して攻撃をかける。「少しずつでも占領地を回復できるかどうか」が鍵になります。現時点では、アメリカが負担していた分を全部ヨーロッパが負えるような状況にはないので、アメリカが動かない限り、ウクライナにとって厳しい状況が続くのではないでしょうか。
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