全人代で中国首相の記者会見を実施しないのは「時代の逆行」

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東大先端科学技術研究センター准教授で軍事評論家の小泉悠が3月5日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。3月5日に開幕する中国の全人代について解説した。

中国の習近平国家主席=2022年10月、北京の人民大会堂(共同) 写真提供:共同通信社

中国の習近平国家主席=2022年10月、北京の人民大会堂(共同) 写真提供:共同通信社

中国の全人代、恒例の首相会見は実施せず

中国の全国人民代表大会(全人代)の報道官は3月4日、李強首相が5日に開幕する全人代で記者会見を行う予定はないと明らかにした。全人代の閉幕後に首相が記者会見を行うことが長年の恒例となっていたが、首相会見に代わって閣僚の記者会見などを増やすと説明した。

飯田)報道によると、1991年から首相会見を行っていましたが、特別な事情がない限り来年(2025年)以降も実施しないということです。やはり権力構造の変化があったのでしょうか?

小泉)冷戦が終わる前後から、社会主義の国もさすがに「最低限は国民とのコミュニケーションをとろう」という傾向があったと思います。冷戦時代の共産圏の人たちは、基本的に紙しか読まなかったのです。記者会見でも自由な応答はしません。しかしこの30年間ほどで、記者に問われたらアドリブで答えるような、ある程度人間らしい顔をするようになってきた。それがなくなってしまうのは時代の逆行ですよね。ただ、その他の閣僚には答えさせると言っているので、国民や世界との対話を閉ざすわけではないと思いますが、実態はどうなっていくのか……。

飯田)今後。

小泉)もう1つ、プーチン大統領などは人前に出て、何時間でも延々と話すのです。だから、単に表へ出て話せばいいというものでもない。「公正な情報空間のなかでなされているかどうか」が、もう1つの問題です。

ロシアに対して「好意的中立」という立場を続ける中国

飯田)今回の全人代は、「全国政治協商会議」と合わせて「両会(2つの会議)」と言われています。経済をどうするかという話と、王毅氏がずっと外相との兼務を続けていますので、後任がどうなるのかも注目されています。露中関係も変わってきていますか?

小泉)「この状況にしては変わっていない」と言うべきでしょうね。ロシアが2年も侵略戦争をしているなかで、中国はロシアとの関係を切ろうとはしていません。他方、武器を送るわけでもなく、ペイしないと思えば、ロシアからの新しいパイプラインも引きません。「好意的中立」のような立場を保ち続けている感じがします。

身銭を切って助けはしないが「背中から刺すのは止めよう」という「よくわからないけれど安定性がある」関係

小泉)この関係性を中露はお互いに「戦略的パートナーシップ」と呼び合っています。身銭を切って相手を助けるわけではないけれど、お互いに「背中から刺すのは止めよう」というような関係です。その辺りは変わっていないと思います。

飯田)映画『仁義なき戦い』の世界のように。

小泉)そういう意味でも、中露はきちんと筋を通し合う関係です。我々はさまざまな中露の仲違いの種を見出したくなるのですが、通すべき筋はお互いに通し合っていますし、筋が通らなくなった場合は破滅的な抗争になることが目に見えているので、彼らは絶対にそこから踏み出そうとはしない。「よくわからないけれど安定性がある」という表現を私は使っています。

ウクライナとの関係は切らないが、「ロシアに反対する形でウクライナと組む」こともしない

飯田)中国は、外務次官や外相クラスをウクライナに送って話をさせるなどしていますが、それもある程度の線まで、「筋ギリギリまで」という感じなのでしょうか?

小泉)一応、今回の件に関して中国は中立ではあるのです。ロシア非難決議には棄権していますし、ウクライナはこれまで旧ソ連製の軍事技術の供給国でもあり、ウクライナ製の安い鉄鋼が中国の建設ラッシュを支えてきた部分もあります。さまざまな面で意外と関係が深かったので、ウクライナをまったく切ってしまうこともしないのですが、この戦争ではロシア側に反対する形でウクライナと組むこともしない。そういう意味でも、好意的中立なのだと思います。

飯田)「わしらにはわしらの事情があるけ……」ということですね。

小泉)「島のなかのことは任せてつかあさい」という話です。

従来から言われていたことが書かれているフィナンシャル・タイムズが入手した「ロシア軍の機密文書漏洩」

飯田)いろいろな情報が乱れ飛ぶなかで、「実は違うのではないか」という報道もありました。イギリスの「フィナンシャル・タイムズ」が書いていましたが、2008~2014年くらいに、中露でもし何かあった場合「ロシアは戦術核を使う」という内容の文書が出てきたようです。なぜこのタイミングなのかも含めて不思議ですが、いかがですか?

小泉)不思議なのはタイミングだけです。書いてある中身については、世界中のロシア軍事専門家が「そうでしょうね」と言うようなことが書いてあります。「地上戦で不利になったら敵の第2梯団を止めるために戦術核を使う」と。それは冷戦期からずっと言われていたわけです。最近では2014年の東部軍管区大演習のときに、中国軍の進撃を止めるため、核地雷を使用する想定の訓練を行ったということです。

飯田)核地雷ですか?

小泉)核地雷はなくなったはずですが、まだ持っていたらしいのです。あるいは生産を再開する前提で、そのような演習を行ったらしいとも言われており、不思議ではありません。また、軍の方も「いまは政治的に仲がいいけれど、いつか中国が敵になるかも知れない」という前提で物事を考えていることは、ロシア軍の部内誌を読めばわかるのです。

飯田)なるほど。

小泉)考えるべきはタイミングについてです。記事を読むと、西側の当局者が機密資料を手に入れて「フィナンシャル・タイムズ」に流したようなので、それを信じるならば、西側が何らかの意図でそれを流したということです。中露の離間を図りたいのか、それとも西側に早期停戦を求める人がいて、「ロシアを怒らせると戦術核を使うかも知れない」というようなメッセージを発しているのか。そこはわかりませんが、中身自体は「やっぱりね」という感じです。

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