「安楽死」制度化が進むカナダで「死者数の3.3%が安楽死」はいいことなのか ALS嘱託殺人で医師に懲役18年

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ジャーナリストの佐々木俊尚が3月6日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。被告に懲役18年の判決が下されたALS嘱託殺人について解説した。

「安楽死」制度化が進むカナダで「死者数の3.3%が安楽死」はいいことなのか ALS嘱託殺人で医師に懲役18年

※画像はイメージです

ALS嘱託殺人、大久保被告に懲役18年の判決

難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の林優里さん(当時51歳)への嘱託殺人罪などに問われた医師、大久保愉一被告の裁判員裁判の判決公判が、3月5日に京都地裁で開かれた。裁判長は懲役18年を言い渡した。

飯田)求刑は懲役23年でした。判決のなかでは「短時間で軽々しく犯行に及び、生命軽視の姿勢は顕著で強い非難に値する」と述べられています。

佐々木)事件そのものは許されない話であり、当然の判決だと思います。一方で、これを「けしからん医師がいる」という結論だけで終わらせてしまうのは、少し残念な気がします。日本にはいまのところ、安楽死や尊厳死についての法制度はなく、認められていません。せいぜい延命治療を止めて緩やかに過ごしましょうという程度です。

安楽死の制度化が進むカナダでは、死者数の3.3%が安楽死に

佐々木)ただ、ヨーロッパやアメリカ、カナダなどでは、安楽死の法制度化が進んでいます。ただ、これには世界的に「是か非か」という議論が巻き起こっています。カナダでは2016年に安楽死が合法化され、2021年には安楽死の要件がかなり緩くなりました。死期が差し迫っていない場合や、精神的な病でも認められるようになったのです。その結果、安楽死で死ぬ人が増え、2021年の段階で、カナダ全体の死者数の3.3%が安楽死になりました。

飯田)なるほど。

佐々木)それが果たしてよいことなのかどうか。日本ではよく「生きていても辛いだけなので、本人が死にたいと言うなら安楽死を認めよう」という議論になり、それを期待する人は多いと思うのです。

安楽死を望む人がいる一方で、生きていたいのに周囲からの圧力で「仕方ないから安楽死するしかない」と追い込まれる可能性も

佐々木)一方で、本人は生きていたいのに、周りの人たちから「おばあちゃんはまだ死なないつもりらしいよ」などと言われるような、世間や親族からの無言の圧力があるかも知れない。「生きていても文句を言われるだけだから、安楽死するしかない」と追い込まれる可能性があります。日本は他国に比べて世間からの抑圧が強い国なので、「そういうことが起き得るのであれば、安楽死を認めない方がいいのでは」という意見も少なくありません。

飯田)ヨーロッパのなかでも、より人間の意志を重視するプロテスタントの国々は積極的ですが、カトリックの国々だと「命は与えられたものだから、自分たちで判断するものではない」という価値観もあり、共同体の意識とも密接に関係しますよね。

お金のない人たちが安楽死に追い込まれる可能性も

佐々木)ヨーロッパやカナダで議論としてもう1つあるのは、お金の問題です。お金持ちは莫大な資産で健康を維持するけれど、たいした医療を受けられない、お金のない人たちがみんな安楽死に追い込まれてしまう可能性があり、「もう少し慎重になるべきだ」という議論もあります。個人の自由と社会的な抑圧、または貧困に追い込まれた人々の安楽死に対する判断。そのバランスをどこまで取るのかは難しい。だからと言って、死にたい人に対して「死なせるな」と言うのも、ある意味、人間の自由を侵している感じがあります。日本でやるなら慎重に、冷静に議論して欲しいです。

飯田)かつて臓器移植法をつくったときは党議拘束を外し、それぞれの議員の良心にかけてしっかり投票するという議論がありました。

佐々木)そのぐらいの意識が必要だと思います。ちなみに、最初に日本で心臓移植を実施したのは北海道の病院でした。結果的に患者さんは亡くなってしまい、医療過誤のような形で医師が刑事告発されてしまった(不起訴処分)。あれで移植が進まなかったという、非常に大きな出来事があったので、そうならないように議論して欲しいと思います。

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