デジタル化をめぐる永田町の認識
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「報道部畑中デスクの独り言」(第363回)
ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム。今回は、国会のデジタル化に向けた検討会について---
国会は「政治とカネ」の話題で持ちきりですが、そんななかで「国会のデジタル化に向けた検討会」なる会合が粛々と開かれています。
昨年(2023年)11月の参議院予算委員会で、河野太郎デジタル相が審議中にスマートフォンを使用して予算委員長から注意を受けたことを機に、国会議員の中堅・若手が“超党派”で声を挙げ、デジタル化の機運が高まりました。
「政治が世の中にDXを求めているのに、国会は進んでいないという現状に風穴を開けていきたい」(自民党・小泉進次郎議員)
「一度議論してルールを見直し、国会自らがDXを推進している姿を示すべき」(国民民主党・玉木雄一郎代表)
今年(2024年)に入り、国会審議の進め方などを協議する衆議院議院運営委員会で上記の検討会が始まり、今月(3月)5日、2回目の会合が開かれました。そこで衆議院に関しては以下の事項で合意をみました。
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(1)請願内容を知らせる文書、各委員会の議事経過報告書のペーパーレス化
(2)委員会の海外視察について、安全保障に支障がない範囲で、場所やメンバー、目的などを衆議院のwebサイトで公開する
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請願文書、委員会報告書のペーパーレス化については、年間約1200万円の経費削減につながるということです。委員会の海外視察については、実際はスケジュールがタイトななか、活動が国民に伝わらないことが課題で、政治活動の透明化につながります。以前、自民党女性局の視察(国会の視察ではない)で女性議員がパリのエッフェル塔の前でポーズをとる画像が問題になりましたが、これは論外としても、しっかりした活動は正当に伝えられるべきでしょう。
一方、会合では本会議場でのタブレット端末やスマートフォンの使用、参考人質疑でのオンライン出席も検討されましたが、結論は出ませんでした。タブレット使用に関しては、自民党が「品位」を理由に難色を示したとか。
「タブレットを持っていることが品が悪いのか? よくわからない」
会合終了後、日本維新の会の遠藤敬国会対策委員長はこのように語ります。確かにこの論法では、タブレットを持っている人はみんな“下品”ということになります。インターネット環境をつなぐことも「ゲームをする」などの懸念があるのだとか。まさに「性悪説」の主張ですが、「政治とカネの問題」で法の網の目をくぐることに長けた人たちのことを考えると、なるほど「性善説」でものを考えてはいけないのかも知れません。
また、参考人質疑におけるオンライン出席に関して、現状は「海外にいる方は旅費を払ってわざわざ国会に来てもらわないとできないという状態」(維新・遠藤国対委員長)ですが、共産党が慎重な姿勢を示しました。
以前、小欄でもお伝えした小泉進次郎議員のインタビューで、こんな話がありました。憲法56条1項には「両議院は、各々その総議員の三分の一以上の出席がなければ、議事を開き議決することができない」とあります。ここで言う「出席」については、先の衆議院憲法審査会でオンラインでも可とされ、少なくとも憲法違反ではないという合意ができたそうです。
一方、参考人招致については衆議院規則の45条3項で出席ではなく「出頭」となっているため、これまた別に議論の余地があるということでした。
さらに、国会改革について小泉議員は「カギを握るのは野党」とも話していました。
「与党の立場からすると、国会のあり方を変えるということは、野党にとって納得できるものでなかったら動かせない。自分たちから提案すると、そのことが取引の材料になって、国会運営上マイナスになるのではないかという頭が働く」
物事を変えることが「政争の具」になってしまうこともあるわけです。ともあれ、デジタル化に関するこの日の議論は1時間を超えました。これを「民主主義のコスト」と言うかどうかはわかりませんが、国会内には世間とは違う時間が流れているのは間違いありません。
民間の世界でもままありますが、いまさらながら永田町には、前例踏襲・慣例主義・事なかれ主義の空気が漂っていると感じます。何かの許可を得るにも相変わらず紙と印鑑が幅を利かせる世界がまだまだあります。伝統と言えばそうかも知れませんし、「郷に入らば郷に従え」ではあるのですが、一方で「永田町の常識は世間の非常識」とも言われます。取材する側としては、少なくともそうした空気に慣れてしまい、自分も同じような発想に染まることがないよう、気を付けなくてはいけません。自戒を込めて……。(了)
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