日銀「マイナス金利政策解除決定」もすぐに「インフレ」が進むことはない 専門家が言及

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エコノミストの崔真淑氏が3月19日、ニッポン放送「飯田浩司のOK! Cozy up!」に出演。日銀によるマイナス金利政策の解除について語った。

日銀「マイナス金利政策解除決定」もすぐに「インフレ」が進むことはない 専門家が言及

※画像はイメージです

日銀の金融政策変更を市場が織り込み、「恐れることはない」と買い戻されただけのこと

日銀は3月19日の金融政策決定会合で、マイナス金利政策の解除を決定した。短期金利はマイナス0.1%から0~0.1%程度に引き上げる。日銀による利上げは2007年以来17年ぶり。

飯田)日銀が政策決定会合を行うなか、18日の日経平均は1000円を超えました。崔さんはよく株式市場を「経済の鏡」とおっしゃっていますが、ここ数日の上げ方について、どうお考えでしょうか?

崔)まず、きょう(19日)日本銀行がマイナス金利政策を解除するかも知れないという報道を受け、お金のコスト、つまり「金利が上がるかも知れない」と予想された。株式市場に入るお金が減る可能性があるので、先週から急激に株価が下がっていたのです。

飯田)各社の報道を受けて。

崔)株式市場のなかでは少し不思議な現象がありまして、「材料出尽くし」という言葉があります。悪材料であっても「実現がほぼ見えてしまったら、それほど恐れることはない」という形で買われることがあるのです。先週末から今週にかけ、「やはり日銀はマイナス金利政策を解除するに違いない」という強いメッセージの報道が増え、「間違いない」と予想して買い戻された。それが日経平均の上昇に影響したのだと思います。景気に対して強い自信があるというより、「日銀は金融政策を変更するだろう」と市場が織り込み、「恐れずに買い戻してもいいのではないか」と考えただけかなと思います。

飯田)ここまで下がったら、「ちょっと安くなったしいいか」というような感じでしょうか。

崔)そうです。

大手企業は春闘「満額回答」でも、中小や地方企業の賃上げは進んでいない

飯田)春闘では「賃上げ5%以上」など景気のいい話が出ていますが、どう分析されますか?

崔)春闘は、基本給を底上げするというベースアップを求めた労働組合と、大企業側の折衝なのですが、今回は33年ぶりの高水準となる結果でした。ただ、あくまでも大企業を中心とした回答であり、地方企業や地方の労働組合の動向などを見ると、昨年(2023年)同様に賃上げがそこまで進んでいないという報道も増えています。確かにいい結果でしたが、中小企業と地方に関してはどうなのかなと、私はまだ懐疑的に見ています。

すぐにインフレが進むことは考えにくい

外交評論家・宮家邦彦)金利がずっとゼロ以下で、日銀は国債を買い、株を買い、どこか潜在的な「過剰流動性」が今の市場にはあるのかなと思います。要するに流動性があまり高くないから良かったけれど、これでゼロ金利を止め、生産性が上がると、どこかでインフレになる恐れはないのでしょうか? 既に賃金も上がりそうな状況ですが、どうご覧になっていますか?

崔)いま、なぜマイナス金利、ゼロ金利を解除しなくてはいけないかと言うと、ご指摘の通り、インフレの懸念があるかも知れないからです。物価高だけでなく賃上げも進むなかで、「物価上昇率が2%に留まらないのではないか」という懸念もありますが、現状、その懸念を考えるにはまだ早いタイミングだと思っています。理由としては、大企業が強い部分が現実としてあり、社会保険料の値上げなどもある。給料が増えたとしても、国民の実際の手取りは大きく増えるわけでもないし、一方で社会保険料のコストと企業経営に関連する論文を見ると、企業経営の生産性や設備投資を圧迫するという研究もあります。現状の日本だと、いますぐインフレが進むという可能性は、まだ考えにくいと思います。

マネーサプライの回収は「いますぐ」でなくてもいい

宮家)私もそれはそうだと思っているのですが、最終的に日銀は異常な量のマネーサプライを、どこかで回収する必要があるのではないでしょうか?

崔)それはあると思います。例えば、国債を買い取っているという話もそうですし、私自身も株式、ETF(上場投資信託)を日本銀行が購入した影響について研究していますが、市場に対しての間接的な影響はやはりあると思います。回収する日はいつか来ると思いますし、副作用についても検証しています。ただ、国債を買い取ることについての副作用はまだ明言できませんが、株式、ETFだけを考えると、企業ガバナンスへの影響があるなど、さまざまなことが言われています。私の検証ですと、「むしろプラスの影響の方が強いのではないか」という研究結果も出てきているため、「いますぐ」ではなくてもいいのかも知れません。

増税や社会保険料の引き上げはもう少し待つべき

飯田)タイミング論のような部分で、もう少し温めたあとでも十分なのでしょうか?

崔)もう少し温めてもいいと思いますし、既に与党議員からは出ていますが、同時進行で税金や社会保険料をどうするのかという話も出てきます。やはり、景気の重石になるような国民負担の話も同時に出てくると思うのです。そこでの折衝やタイミングも合わせなくてはならず、「いますぐでなくてもいいのではないか。やっと回復し始めたのだから、もう少し待って欲しい」と思います。アベノミクスのとき、「消費増税がもう少しあとだったら」という思いが私にはあり、いまの状況はそれに近いのではないかと思います。

高齢化が重石になり、小売業、サービス業が弱い

飯田)賃上げの波が中小企業にまで及ぶのかどうか。公正取引委員会は「下請け企業と適切な価格交渉をせよ」と示しています。その辺りは政府もわかっているのでしょうか?

崔)それはあると思います。大企業が受託企業に対し、受注金額を公正に引き上げるべきだとして介入する動きはありますし、下請け企業に対して「一緒に原価生産の努力をしようではないか」と前向きに取り組んでいる企業もあります。ただ、日本経済は製造業だけで回っているわけではありません。むしろ非製造業や小売業、サービス業が弱いのです。高齢化が重石になり、値上げどころではない。「値上げしたら需要が減ってしまう」という状態が目立っています。

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