今年のノーベル賞、CEATEC……AIづくし
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ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第389回)
衆議院選挙が10月15日公示され、27日の投開票に向けた選挙戦が展開されています。選挙に先立つ9月から10月にかけても政界は慌ただしい動きが続きましたが、その陰で、科学技術の分野でも様々なニュースがありました。
今年のノーベル賞、科学系の分野では物理学賞と化学賞にAI=人工知能関連が選ばれました。物理学賞はアメリカ・プリンストン大学のジョン・ホップフィールド教授とカナダ・トロント大学のジェフリー・ヒントン教授。授賞理由は「人工ニューラルネットワーク=神経回路による機械学習を可能にする基礎的な発見と発明」とされています。
機械学習の原型となる手法が発表されたのは1982年と40年以上前。いまはニュースで見ない日はないキーワードの一つであるAI も、そのルーツから40年以上をかけて世界的な権威に行き着きました。ちなみに、私事ではありますが、ニューラルネットワークという言葉を初めて知ったのは、気象予報士の資格を勉強していた時。数値予報の予測手法としてカルマンフィルターとともに使われている手法です。これまた、かれこれ30年ほど前になります。
化学賞はデミス・ハサビス氏ら英米の3人に贈られることになりました。たんぱく質の立体構造の予測に活用できるAIを開発した功績によるもので、ハサビス氏はグーグル傘下企業のCEO、AI囲碁ソフト「アルファ碁」の開発者としても知られています。
たんぱく質はアミノ酸が鎖のように連なり、立体的に折りたたまれることで、特有の構造が形成されます。その立体構造を、AIを使って予測することで、医薬品やワクチンの開発に大きく貢献したと言われています。
AIづくしだった今年のノーベル賞、奇しくも15日から18日まで行われた始まった家電・ITの展示会「CEATEC」でもAIに関する出展が大半を占めました。ブースにはいたるところにAIの二文字。消費者が直に感じる技術はもとより、企業間、いわゆる「BtoB」におけるAI技術の活用が目立ちました。
三菱電機では工場の製造現場で発生する梱包などの作業を1台のカメラで読み取り、作業プロセスを細かく分析するシステムが公開されていました。箱を折り曲げて広げ、荷物を隙間なく入れ、テープに梱包し、次のステップに届ける……こういった一連のプロセスの中で、どこに時間がかかっているか、どこを効率化できるか……各々のプロセスが細かくグラフ化されていました。また、TDKではセンサを使って工場で壊れやすい部品をAIで分析し、原因を突き止めるシステムが提案されていました。生産現場の人手不足が常態化する中で、品質管理を徹底し、いかに生産性を向上できるか、「縁の下の力持ち」の分野でのAIの活用が進んでいます。
一方でAIについては、人間を超えるのではないかという懸念がついて回ります。以前、小欄でもお伝えしましたが、千葉工業大学学長でデジタルガレージの伊藤穣一取締役は経済同友会の夏季セミナーで、英米のLLM=大規模言語モデルのトップの話として「10年以内に50%の確率で、インテリジェンス爆発が起きる」という可能性を指摘していました。さらに、英米政府の複数の幹部が、「20~25%の確率でAIによって10年以内に人類は滅びる」として、これを止めるために全力を尽くしているという話も紹介していました。
ノーベル賞はこのほか、平和賞に被団協=日本原水爆被害者団体協議会が選ばれました。「核兵器が二度と使われてはならないことを、証言を通じて示したこと」は授賞の理由です。ノーベル賞はアルフレッド・ノーベルの遺言によって創設されました。ノーベルが発明したダイナマイトは安全な土木工事に大きく貢献しましたが、その破壊力は戦争目的でも乱用されることになります。ノーベルは戦争目的での利用は想定内で、抑止力としての存在を期待したものの、実際には戦火の激化を招き、世間から「死の商人」という異名をいただくことになります。これがノーベル賞創設のきっかけになったと言われています。
AIと核兵器=原子力に共通することは、人智を超えた“暴走”がないかどうか、常に目を配らなくてはいけないということです。今年のノーベル賞はその意味で、原点に立ち返ったものであると同時に、現代の世相を映し出すものになったと言えます。
(了)