株式会社フジクラ(以下、フジクラ)は、4 月 18 日(金)、東京都千代田区にある大手町三井カンファレンスにて、株式会社 Helical Fusion(以下、Helical Fusion 社)が開催する記者会見に同席。フュージョンエネルギーの実用化に向けた、両社の取り組みについて解説した。
Helical Fusion 社は、ヘリカル型核融合炉の開発を進める日本のスタートアップ企業で、フジクラの高温超電導線材を調達しながら、核融合炉の中でも最重要機能を担う「高温超伝導コイル」の開発を進めている。会見では、まず初めにHelical Fusion 社の代表取締役CEO・田口昂哉氏が、自社でおこなっている開発の一部について説明した。

株式会社 Helical Fusion 代表取締役CEO 田口昂哉氏
同社では、「人類は核融合で進化する」をテーマに、「2034年にフュージョンエネルギーを社会実装する」という目標のもとに活動。「エネルギー需要の増加」や「脱炭素の必要性」といった課題をクリアするために必要なのが、核融合による持続可能なエネルギー源であり、「燃料を海水から取ることができるため、実質無尽蔵である点」や、「原子力発電所とは全く違う原理を使っているため、暴走や高レベル放射性廃棄物などのリスクがない点」など利点が多く、現在非常に期待されている技術であると田口氏は語った。

Helical Fusion 社は、核融合科学研究所が有する世界最大級の実験装置『大型ヘリカル装置(LHD)』の知見を受け継ぐ
Helical Fusion 社の創業は2021年だが、ヘリカル型核融合炉研究の歴史は70年以上も続いており、研究に費やされた費用は数千億円から1兆円にも及ぶ。同社の出身母体である国立の研究機関「核融合科学研究所」が保有する『大型ヘリカル装置(LHD)』は世界最大級のプラズマ実験装置で、「核融合反応に必要なプラズマ温度1億度」「プラズマ保持時間3,000秒以上」という2つの重要なポイントをそれぞれ達成しており、世界でもっとも商用炉に適した技術であるという。現在は2030年以降の発電所建設に向けて動いており、「商用化」という目標の達成は射程圏内のところまできている。

目標実現の鍵となる「高温超伝導テープ線材」
目標を達成する上で大きな鍵を握るのがフジクラの提供する「高温超電導線材」で、Helical Fusion 社が作るヘリカルコイルの重要な素材となっている。2社が力を合わせることにより、「日本が持つトップレベルの“ものづくりの力”で、次世代のエネルギー大国となることができる」と田口氏は自信を持ってアピールした。

株式会社フジクラ 超電導事業部長 大保雅載氏
次に、フジクラの超電導事業部長・大保雅載氏が、自社の取り組みや製品などについて解説。フジクラは今年で140周年を迎える会社で、光ファイバケーブルほか光製品を中心とする情報通信事業、高精細,高密度,多機能な電子部品を扱うエレクトロニクス事業、ワイヤハーネスを主力とする自動車事業などの分野で革新的技術を生み出し、社会課題の解消に貢献するグローバル企業だ。

フジクラのレアアース系高温超電導線材 見た目は金属テープのよう
高温超電導線材は銅線と違い、電気抵抗がゼロで損失なくエネルギーを運べる点や、高い電流密度によりコンパクトで強い電磁石ができる点などが優れている。フジクラのレアアース系高温超電導線材は金属テープのような見た目をしており、上記のような構造で、上記黒色部分の超電導層に電流が流れる。各層が非常に薄型だが、強固な金属基板の上に設置することで、引っ張ったり曲げたりが可能となっている。
このほかにもフジクラの製品は、同社が独自開発したIBAD法(イオンビームアシスト蒸着法)など様々な工夫によって高いクオリティを誇っており、業界トップランナーとして、30年以上、高温超電導線材の開発を牽引している。

フジクラの高温超電導を用いた磁場閉じ込め型フュージョンエネルギー炉 2010年代後半から開発が活発に
また、フュージョンエネルギーの実現に向けた取り組みについても紹介。フュージョンエネルギーは、発電時に二酸化炭素が発生せず、地球温暖化や環境問題の解決策として注目されており、現在同社では、国内外の様々な企業に協力している。同社の高温超電導線材は、カーボンニュートラル社会の実現に向けて重要な役割を果たすものとして期待されており、大保氏は、「今後も環境負荷の低減と持続可能なエネルギー供給の実現に向け、社会の発展に貢献していきたい」と述べた。

高温超伝導ケーブルやヘリカルコイル模型、レアアース系高温超電導線材などの展示
会見終了後には、会場に置かれた展示品をもとに、核融合炉の仕組みについての説明がおこなわれた。

高温超伝導ケーブルのサンプル 記者に促され2人で手に持ち笑顔を浮かべる場面も
上記の細長い物体は、Helical Fusion社が独自開発する高温超伝導ケーブルのサンプル。従来型の超伝導(低温超伝導)に比べて高温域での運転が可能で、高磁場を生み出せる次世代型の素材(高温超電導テープ線材)を活用するマグネットを製作でき、より小型で効率的な核融合炉づくりを可能にし、商用化へ大きく近づける技術である。
この内部には、フジクラ製のレアアース系高温超電導線材が使用されており、よく曲がるため、コイル状に巻きやすい仕様となっている。

使用する際には、専用のケースに入れてコイル状に巻いていく

ヘリカルコイル模型(左)とレアアース系高温超電導線材(右)
そして巻き終えたものが上記左図のヘリカルコイルとなる。青色の部分はプラズマをイメージした模型となっており、上記のようにコイルの間にプラズマが発生する。Helical Fusion 社では、今後ヘリカルコイルを用いた核融合炉の実証実験をおこなっていき、商用化を目指していく方針だ。

カーボンニュートラル社会の実現に向けて手を取り合う2人
Helical Fusion 社の核融合炉に欠かせない存在となっているのが、フジクラのレアアース系高温超電導線材だが、数あるメーカーの中からフジクラを選んだ理由について、田口氏は、「品質に信頼を寄せていた」と語った。今回の追加調達では20kmという長さの高温超電導線材を発注したそうだが、商用化までには40,000kmもの長さが必要になるといい、大保氏は、今後も協力関係を続けていきたい姿勢を見せていた。
需要と供給の好循環によってお互いを高め合い、未来に向かってともに歩んでいく2社。カーボンニュートラル社会の実現を目指して進む、Helical Fusion 社とフジクラの今後に期待が高まる。
■株式会社 Helical Fusion
https://www.helicalfusion.com/
■株式会社フジクラ
https://www.fujikura.co.jp/