あけの語りびと

後継者に悩む東京の理容店を活用 父との約束を果たすため理容師になった男性

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年末、ラジオが流れる理容店や美容院でサッパリして、新年を迎える方もいますね。ただ、お店の今後について、不安のあるご主人や女将さんも多いと聞きます。今回は、後継者に悩む東京の理容店を何とかしたいと立ち上がった福井出身の男性のお話です。

赤星慎利さん

赤星慎利さん

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

北陸新幹線、現在の終着駅・敦賀のお隣にある、福井県南越前町。まちを走るハピラインふくい線、昔の北陸本線・南条駅の目の前にある、飲食店の2階に、去年の夏、1軒の理容店がオープンしました。お店の名前は「ヘアサロンRADI」といいます。

店主の赤星慎利さんは、2001年生まれの24歳。お父様は美容院を営んでいて、赤星さんも自然とその後ろ姿に憧れました。「ボクも父さんみたいになりたい!」と話すと、お父様はこう言いました。

「いいか慎利、資格取るなら理容師がいいぞ。理容師なら顔剃りも出来るし、いつかは俺が美容師、お前が理容師で、両方できるお店にしようじゃないか!」

しかし、そう笑顔で話してくれたお父様は、中学2年生のとき、病でこの世を去ります。赤星さんは、涙を拭いながら天国のお父様に誓いました。

『見ていてお父さん、絶対に理容師になってみせるから!』

福井・南越前町の南条駅前にある「ヘアサロンRADI」

福井・南越前町の南条駅前にある「ヘアサロンRADI」

高校を卒業して、大阪へ修業に出た赤星さんは、昼はお店へ、夜は専門学校へ通い、練習用のかつらを何体も買い込んで、来る日も来る日もカットの練習をしました。見習いの頃には、お店で顔剃りのお客様のお顔をうっかりカミソリで切ってしまうと、師匠からはキツくカミナリを落とされました。

5年の修業を経た2024年夏、縁あってふるさとに良い物件が見つかった赤星さんは、クラウドファンディングで協力してくれた皆さんの資金を元手に開店にこぎ着けます。お店の名前は、お父様のお店を受け継いで「RADI」と命名。地元の方からは、お店を開いたことが大いに喜ばれました。

「もう閉まるお店ばかりだったでしょ。新しいお店が出来たことが嬉しい!」「若い人に髪を切ってもらうなんて、すごく新鮮な気持ちだよ!」

そんな地元の方の声を励みに、赤星さんの夢はさらに大きく膨らんでいくのです。ふるさと・福井の南越前町に、念願のお店を構えた赤星さんですが、今年初め、さらに大きな目標を掲げました。

『海外に自分のお店を出す!』

さっそく、海外展開をしている会社に話を聞いてみたり、自分の足でアジアやヨーロッパを巡ってみると、まずは日本のベースをしっかり持つこと、そして、東京に拠点を持つことが一番の近道ではないかと気付きます。しかし、赤星さんは、東京に全くツテがありませんでした。

そんな時、福井でご高齢のご主人がやっていた理容店が、後継者がいないことを理由に、惜しまれながらお店を閉めたと聞いて、赤星さんはひらめきます。

『後継者不足は福井だけの問題ではない。きっと東京にも同じようなお店があるはずだ。そのお店の事業継承を請け負えば、店のご主人にとっても、地域の常連さんにとっても、お店が失われずに済んで、自分の夢の実現にもつながるのではないか?』

さっそく赤星さんは、東京23区のインターネット地図に映し出された画像から、ご高齢の方が経営していると思しき、古めの理容店を見つけて、およそ600軒の住所をメモしていきました。そして、110円切手を600枚買ってきて、1軒1軒にお店の後継者としての自分の思いを綴った手紙を送ったんです! すると、なんと4軒のお店から、返事のお手紙が届きました。

赤星さんのコンテスト受賞トロフィーの数々。お父様もお店によく飾っていたそう

赤星さんのコンテスト受賞トロフィーの数々。お父様もお店によく飾っていたそう

今年9月、そのうちの1軒、練馬区桜台の89歳、87歳、86歳の方が経営する理容店で、赤星さんは、毎月1週間、お店に住み込みで働かせてもらうことになりました。お店の人たちは、自身を育ててくれたお祖父さまより年齢が上で、いまも現役バリバリ。お元気な諸先輩の皆さんが繰り出す技に、赤星さんも学びがいっぱいありました。

その3か月あまりの住み込みを経て、赤星さんはこの冬、新たな一歩を踏み出します。返事を下さったもう1軒、世田谷区桜上水にある美容院を営む90歳の女将さんが、体力の限界から引退を決意して、お店を受け継ぐことで話がまとまったのです。来年春、桜の咲く季節の少し前に、新たな理容店としてオープンを予定しています。

「ご高齢の方を考えて、人生で初めてこんなにたくさん手紙を書いたんですが、道を拓くためには、自分から動いて見つけていくことが大事なんだと気づかされました」と話す赤星さん。

福井から東京、そしていつかは世界へ。お父様から受け継いだ志を胸に、24歳の挑戦は、さらなる高みを目指します。

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