あけの語りびと

「熊鈴って、ナニ?」から始まった――金型職人が作る、こだわりの熊鈴

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本格的な夏山シーズンを前に、全国各地で続く、クマの出没が気がかりです。今や登山者・ハイカーだけでなく、山間部の学校に通う児童・生徒や山あいにお住まいのお年寄りを訪ねる介護職の方なども、クマよけの鈴が欠かせないといいます。今回は、こだわりのクマよけの鈴・熊鈴を作っている、ある町工場のお話です。

ダイキ精工株式会社 斎藤宏和社長、斎藤早苗副社長

ダイキ精工株式会社 斎藤宏和社長、斎藤早苗副社長

それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

東名、名神、中央道が交わる交通の要衝・愛知県小牧市。トラックが行き交う上を、県営名古屋空港に離着陸する飛行機が轟音を立てて飛び、戦国時代の古戦場跡を縫うように通っている幹線道路沿いには、自動車をはじめとした日本のものづくりを支える工場が建ち並びます。

その一角にあるダイキ精工株式会社は、1973年の創業。アルミを使った自動車や飛行機の部品の金型の製造に始まり、現在は、火力発電所のタービンに使う羽根の金型をメインに作っている、全員で8名の小さな会社です。

会社のかじ取りを担うのは、2代目の斎藤宏和社長と斎藤早苗副社長のご夫妻。早苗副社長のお父様が創業した工場を受け継ぎました。

順風満帆だった会社が一転、危機に陥ったのは、2020年のコロナ禍です。人や物の流れが止まり、飛行機は欠航が続き、クルマも部品が消耗するほど動きません。フル稼働していた工場の機械も、パタリと止まってしまいました。そんな静かな夏の日、テレビから聞こえてきた風鈴の音に、斎藤社長は心奪われました。

『なんて癒されるいい音なんだ……。そういえば、アルミの風鈴って聞いたことが無いなぁ。今はほかにやることも無いのだから、自分たちで作ってみよう』

熊鈴の「ダイフィール」(左)、「クマフィール・プラス」(右)

熊鈴の「ダイフィール」(左)、「クマフィール・プラス」(右)

斎藤社長と従業員の皆さんは、タービンの羽根づくりなどで培われた技術を惜しみなく注いで、アルミの風鈴づくりに没頭。心癒される音を目指して、職人さん同士で競い合いながら作り上げていきました。その出来栄えに手応えを感じた斎藤社長は、アルミ製の風鈴を展示会に出品しますが、今度は、お客さんから思いもしなかった提案を受けることになるのです。

「俺、山へよく行くんだけど、この音の熊鈴が欲しいなぁ」

そう提案してくれたお客さんを前に、斎藤さんご夫妻は固まってしまいました。実はご夫妻は、山歩きをしたことが無くて、熊鈴のことは知らなかったんですね。鈴を鳴らすことで、野生動物に人がいることを知らせて、動物に先に逃げてもらう熊鈴。専門家の中には高い音で遠くまで長く響く鈴なら一定の効果はあると話す方もいます。

斎藤さんご夫妻は、登山用品やアウトドアのお店を訪ね、熊鈴について調べていきました。熊鈴は既に数多の業者が作っていて、行き帰りの途中で鈴が鳴らない消音機能も一般的。ただ、利用者からは、山に行かない時に熊鈴をしまい込んだ場所を忘れてしまったり、カバーなどの消音機能は、摩耗して取れやすいといった声が聞こえてきました。

熊鈴をもつ上柳昌彦アナウンサー

熊鈴をもつ上柳昌彦アナウンサー

『まずは、音が消せる機能が本体と一緒になった壊れにくい熊鈴で差別化しよう。そして、熊鈴と風鈴を兼ね備えたものにすれば、山歩きだけでなくキャンプだったり、普段から家で吊るして使ってもらえるのではないだろうか?』

こう考えた斎藤社長は2023年秋、クラウドファンディングで開発資金を集め始めます。偶然にもこの年は、クマの出没が相次いだことも相まって、およそ2カ月で目標を達成。ついに熊鈴の開発に乗り出しました。

斎藤社長がこだわったのは、4000ヘルツの「高くて心地よい音」です。山歩きの間、ずっと耳にしていても、苦にならない鈴の音を目指しました。そのために、斎藤社長と職人さんたちは、アルミを0.1mm単位で薄く薄く削って、金属の厚さを変えながら、試行錯誤を繰り返していったんですね。

ダイキ精工株式会社

ダイキ精工株式会社

出来上がった熊鈴兼風鈴は、従来の熊鈴のおよそ3分の1の重さ、35グラム。アルミの軽くて丈夫で錆びにくいという特性を存分に活かしました。そして、新しい熊鈴には、職人さんが1つ1つ丁寧に作り上げた自信作ということで、ダイキ精工にちなんで「ダイフィール」と名付けて送り出すと、大きな反響がありました。

「山ですれ違ったほかの登山者さんから、『熊鈴、いい音だね』って言われたよ!」「知り合いが日本百名山の登頂を果たしたので、記念に熊鈴をプレゼントしたいんです」

そんな感想が会社に寄せられたり、プレゼントとしての注文が入るたびに、斎藤さんご夫妻は、とても嬉しい気持ちになるといいます。

「最初は、『熊鈴って、ナニ?』から始まったんですが、熊鈴を作り始めたことで、お使いになる方、お1人お1人の人生のドラマに立ち会えているような気がします。まさか、こんな展開が待っているとは思いませんでした」

今年も夏のアウトドアシーズンを前に、熊鈴が生産の最盛期を迎えているダイキ精工。きょうも工場からは、職人さんたちのアルミを削り出す音が響いています。

ダイキ精工株式会社ホームぺージ
https://www.daiki-seiko.co.jp/

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