
28歳と100歳のタッグ プラネタリウムに蘇る手巻き蓄音器の音
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今回はプラネタリウムで開かれる「蓄音器コンサート」のお話です。それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。

今年100歳の蓄音器「ビクトローラ・クレデンザ」(山端さん所蔵)
東武東上線「上板橋駅」北口から歩いて5分のところに、板橋区立教育科学館があります。子どもたちが遊びながら身近な科学を学べるので、館内は賑やかな声があふれています。展示コーナーには、蝶やカブトムシなどの昆虫標本、岩石や琥珀、それから、3本の角と大きなヒダが特徴の「トリケラトプス」の頭の実物化石が展示されていて、その大きさに目を見張ります。

板橋区立教育科学館
こちらの教育科学館にはプラネタリウムもあり、プログラムの一つでは、その日の星座が見られ、後半は天文・宇宙に関するテーマを天文スタッフが生解説してくれます。そのほか、小学生から大人まで楽しめるイベントも定期的に開催されていて、その一つが『ちゃんとした蓄音器コンサート』です。
「何が「ちゃんとした」なの?」と、思うかもしれませんが、隔週土曜日に、姉妹企画「ちょっとした蓄音器コンサート」が開催されていて、こちらは2階の教材制作室で行われ、先着25名で料金は800円、2歳未満は無料です。

隔週土曜日に開催される「ちょっとした蓄音器コンサート」(写真提供:板橋区立教育科学館)
それに対して『ちゃんとした蓄音器コンサート』は、プラネタリウムで1年に1日だけの開催で、昼と夜の2回公演、各160名、料金2000円。小学生以上が対象です。プラネタリウムで星空を見上げながら、蓄音器でSPレコードを聴くコンサートは、毎回人気を呼んでいます。
このコンサートで使われるのが、アメリカのビクター社が1926年ごろに製造した手巻き蓄音器『ビクトローラ・クレデンザ』。今年でちょうど100歳を迎えた名品です。
100年前の蓄音器を使ってコンサートを開くのは、板橋区立教育科学館の研究員・山端健志さん、28歳です。山端さんは兵庫県神戸市の出身。幼稚園のころからビデオカメラに親しみ、粘土を少しずつ
動かしながら一コマずつ撮影して作る「クレイアニメ」を楽しむ子どもでした。小学校から高校までは放送部に所属し、将来、映画監督を夢見て武蔵野美術大学映像学科に進学。在学中に、リヤカーを改造した移動式の、『人力移動映画館』と出会います。
「手回しの映写機とポータブルの蓄音器を使い、電気は一切使いません。太陽の光を利用して、3分ほどの短いフィルム映画を上映します。紙芝居のような人力の映画館で、幕で覆ったリヤカーの中は、子どもが6人も入ればいっぱいで、戦後、GHQの目を盗んで、チャンバラ映画の一場面を楽しんでいたようですね」
デジタル世代の山端さんですが、電気を使わず、手回しでゼンマイを巻いて音を出す蓄音器に興味を持ち、骨董市などを回ってSPレコードを増やしていきました。

5月17日(日)開催『ちゃんとした蓄音器コンサート』リハーサルの様子(写真提供:板橋区立教育科学館)
教育科学館で研究員になったばかりのころ、担当する教材制作室で「人力移動映画館」のイベントを開催しました。しかし、人力移動映画館の中は狭くて暗く、小さな子どもを連れた家族にとっては、少しハードルの高いものでした。
「明るい場所で、何かできないものか……」そう考えていた山端さんは、「そうだ、蓄音器でSPレコードを聴くだけの企画はどうだろう」と思いつきます。これが利用者に好評を得たんです。
特に人気だったのが、「前畑ガンバレ!」のSPレコード。1936年、ベルリンオリンピック、女子200メートル平泳ぎの実況中継です。「何回、“ガンバレ”と言うでしょうか。聞こえたら手を上げて数えてみましょう」
そう山端さんが言って、針を落とします。みんな、シーンと耳をそばだてます。アナウンサーが次第に興奮し、「ガンバレ」を連呼すると、まるで漁港の競りのように子どもも大人も、真剣に手を挙げました。また、お年寄りにも好評で、満州の大連で蓄音器店の娘さんだったという高齢の方が、「懐かしいわ」と言って、開催のたびに足を運んでくれたそうです。
デジタルの時代に、昔懐かしい蓄音器コンサート。その魅力を山端さんに伺うと、
「特にプラネタリウムというドーム空間で聴くと、SP盤に封じ込められた空気が、蘇るんですよ。電気を使わず、モノラルでありながら、ステレオとも違う。それでいて確かにそこに“空間”があるんです。たとえば、美空ひばりさんのレコードをかけると、まるで本人が蓄音器の中で歌っているように感じられるほどなんです」
100歳を迎えた手巻き蓄音器「ビクトローラ・クレデンザ」は、人間と同じで、どこか調子が悪いと、いくらゼンマイを巻いても回らない。針が合わないとレコードを削ってしまい、聴けたものではありません。
とにかく、手をかけてあげることが大事です。28歳の若き研究員と、100歳の蓄音器がタッグを組んだプラネタリウムコンサート。100年の時を超えて、懐かしい歌声や名演奏が蘇ります。
*プラネタリウムで開かれる、年に一回の『ちゃんとした蓄音器コンサート』。今年は5月17日(日)に開催されます。
昼と夜の2回公演で、午後2時からの「昼の部」は、初めての方にオススメ。午後6時からの「夜の部」は、ジャズの名曲がいっぱいです。
どちらも全10曲、星空を見上げながらのコンサート。音響監督に菊田鉄男さんを迎えて、山端さんも出演し楽しいトークも交えてお送りします。
※橋区立教育科学館
https://www.itbs-sem.jp





