
先週、東京・千代田区の千鳥ヶ淵と、世田谷区の砧公園で、桜の木が倒れる被害が相次ぎました。春の嵐が原因と見られています。桜に目を奪われる、この季節…その足元でいま、ある異変が起きています。今回は、美しい桜の裏側で起きている、見過ごせない問題に目を向けます。

クビアカツヤカミキリの成虫
それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
毎年、桜の花見を楽しみにしている人は多いと思いますが、その桜が、いまピンチだということをご存じでしょうか。特定外来生物の「クビアカツヤカミキリ」による食害が、関東地方や近畿地方を中心に広がっています。
クビアカツヤカミキリ。ツヤのある黒い体で、首のあたりが赤いことから、この名前がついています。大きさは、2.5センチから4センチほど。長い触角を持ち、特にオスは体よりも長いのが特徴です。中国、モンゴル、朝鮮半島、ベトナムなどに分布していて、日本では、2012年に愛知県で初めて被害が確認されました。

幼虫に心材まで摂食された樹体断片
輸入木材や輸送用パレットなどに幼虫が潜み、それが国内で成虫に羽化して繁殖したと考えられています。成虫は、桜、桃、梅といったバラ科の樹木に産卵し、孵化した幼虫は、木の中を食べながら成長します。2~3年かけて成長し、蛹となり、6月中旬から8月上旬に成虫となって、外に出てきます。成虫の寿命は、およそ一ヶ月。交尾したあと、メスは、桜の幹や枝の樹皮の割れ目などに産卵。1匹で、1000個近くの卵を産むこともあるそうです。
日本でクビアカツヤカミキリの被害が確認されてから、今年で14年……。その被害は、発生している地域の隣接地へと広がっています。
埼玉県加須市にある「埼玉県環境科学国際センター」では、毎年『クビアカツヤカミキリ発見大調査』が行われています。県内の公園や川岸、学校などに植えられた桜を中心に、梅や桃、スモモなどの被害も、県民が参加することで調査しています。同センターの研究推進室・副室長の三輪誠さんは、こう話します。
「実は、愛知県より1年早い2011年に、深谷市でオスの成虫1匹が捕獲されています。その時点では被害は確認されませんでしたが、2年後の2013年、草加市と八潮市を流れる葛西用水沿いの桜で初めて食害が見つかりました。クビアカツヤカミキリは非常に繁殖力が強く、いまでは埼玉県内の市町村のおよそ3分の2で被害が確認されています。調査を進める中で、クビアカツヤカミキリによる被害拡大の早さを思い知らされました」
愛知、埼玉に続き、群馬、東京、大阪、徳島、栃木、奈良、三重、茨城、和歌山、神奈川、兵庫、京都、千葉、滋賀、岐阜でも被害が見つかり、その拡大は、目を見張る速さです。
放っておくと、幼虫が樹木の内部を食い荒らし、やがて枯らしてしまいます。梅や桃を生産する農家にとっても、深刻な問題となっています。さらに、公園や街路樹では倒木の危険もあり、注意が必要です。被害を防ぐためには「早期発見、早期防除」が欠かせないと三輪さんは言います。

フラス排出孔(黄色の矢印)
「幼虫が樹木の内部を食べたとき、『フラス』といって、幼虫の糞と木くずが混ざったものを外に排出します。このフラスは4月から11月にかけてよく見られます。こうした場合、ドリルで木に穴を開け、薬剤を注入することで内部にいる幼虫を駆除します。手遅れの場合は伐採し、幼虫が潜んでいる可能性があるため焼却処分します」
これから夏に向けて、成虫になったクビアカツヤカミキリと出会う機会が増えてきます。もし見つけた場合、どうしたらいいか。三輪さんは、きっぱりとこう言います。
「特定外来生物に指定されているので、見つけたらすぐに踏みつぶしてください。生きたまま移動させたり、飼育したりすることは、法律で禁止されています」
ソメイヨシノの寿命は、60年から80年。適切な管理が行われれば、100年を超える長寿の木もあります。ただし、ソメイヨシノは病害虫に弱く、クビアカツヤカミキリは、若い木よりも樹皮に割れ目が多い年老いた木を狙って産卵します。

サクラの樹体に生じた成虫脱出孔(黄色の矢印)と枯死
花の命は短いものです。それでも、毎年、私たちの目を楽しませてくれる桜。その姿を来年も、その先も見られるように、花が散ったあとも、桜の木に目を向けていきたいものです。
写真提供:埼玉県環境科学国際センター
*埼玉県環境科学国際センター ホームページhttps://www.pref.saitama.lg.jp/cess/center/kubiaka.html





