
10周年の『上柳昌彦 あさぼらけ』ですが、いまから10年前の4月は「熊本地震」がありました。今、街の見た目には、あまり地震の爪痕は感じられませんが、熊本城は復旧工事中です。そんな熊本のある商店街に、去年1軒の小さな本屋さんがオープンしました。

BOOKS あさぼらけ
今回は、この本屋さんを開いた女性の方のお話です。それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
熊本のシンボル・熊本城の北東に、子供の「子」に、動物などを「飼う」と書く「子飼商店街」という商店街があります。狭い通りに八百屋さん、魚屋さん、肉屋さんと、昔ながらのお店が軒を連ねていて、商店街のスピーカーからは、日中、地元のAMラジオの放送がずっと流れています。

子飼商店街
その一角にある「S-STUDIO 朝ごはん研究所」の2階で、こんな看板を見つけました。
「BOOKS あさぼらけ」
じつはここ、1階の食べ物屋さんを間借りした、小さな「本屋さん」なんです。オーナーは有田華奈さん。長崎県ご出身で、「本と本屋さんが大好き」な32歳です。
有田さんは2016年春、就職で初めてふるさと・長崎を離れ、熊本へやってきました。しかし、わずか2週間で熊本地震に見舞われます。県北部の玉名市にいたため、身の回りに大きな被害はありませんでしたが、暮らし始めたばかりの街で、続く余震に、不安でいっぱいになりました。

B-STUDIO 朝ごはん研究所
やがて、街は落ち着きを取り戻しますが、有田さんに親しい熊本のお友達はいません。寂しさを何とか紛らわそうと辿り着いたのが本屋さんでした。実は有田さん、小さい頃、ハリーポッターシリーズに魅かれたことがきっかけで、読書が大好きだったんですね。
新刊を探して大きな書店を巡ったり、昔の本を探して古本屋さんを訪ねたり、カフェが併設された本屋さんでのんびりしたり、本は有田さんの心を癒してくれました。
『いつの日か、本屋さんをやってみたいな』
ふと、そんなことを思った有田さん、色々な方が書かれた本屋さんの開店体験記を書店で買い集めて読んでは、夢に思いを馳せていきました。そして、その日がやってくることになるんです。
熊本に住んで10年目の2025年、有田さんは家庭を持つようになっていました。ある日、食べ物屋さんで修業していたご家族から一つの提案を受けます。
「今度、独立して朝ごはんを提供する店を出したいんだ。2階建ての物件をリフォームしてやろうと思うんだけど、2階で本屋さん、やってみたら?」
本屋をやるなら、もう少し年齢を重ねてからと思っていた有田さん、まさかの提案に驚きましたが、せっかく巡ってきたチャンスと、開店を決意します。とはいえ、新刊の本をどうやって仕入れるのか、売れ残ってしまったらどう返本するのか、本の流通の仕組みなどは、全く分かりません。
そこで有田さんは、家の本棚から、改めて本屋さんの開店体験記を引っ張り出してきて、何度も読み返していきます。さらに、ブログに綴られた開店体験を片っ端からインターネット検索。手探りながらも、どうやら本屋さんを開けそうな道筋が見えてきました。
さあ、大事な大事な、自分のお店の名前です。
『朝ごはんを出すお店の2階、朝の光のようにやわらかい言葉の名前がいいなぁ』
有田さんが手に取ったのは、「知りたいこと図鑑」という本でした。そのなかで「夜明けと夕暮れを表す言葉」という項目のページを開くと、目に一つの言葉が飛び込んできました。
「あさぼらけ」
有田さんは、さっそくインターネットで「あさぼらけ」と検索してみます。よく知らないオジさんのラジオ番組のホームページが一番上に出てきました。

知りたいこと図鑑
「あさぼらけ……朝、ほのぼのと明るくなるころ。そう、イメージはこれだ!番組も長く続いているし、もしかしたら、私のお店も長く続けられるかもしれない」
かくして2025年7 月、「BOOKS あさぼらけ」は、開店の日を迎えました。
有田さんがコレという本だけを集めた本棚には、「B-STUDIO 朝ごはん研究所」の常連のお客様を中心に、地元の本好きの皆さんが集ってきています。開店から間もなく1年、有田さんの夢はまだまだ広がります。
「季節ごとの料理があるように、本も季節によって求められるものが違うと思うんです。その時に合った本を仕入れたり、ディスプレイももっと工夫していきたいと思っています」
熊本の小さな本屋さん「BOOKS あさぼらけ」には、有田さんの本と本屋さんへの温かい気持ちが、いっぱい溢れています。





