監督と衝突、ケンカなどの不祥事、経済的事情、学校になじめない…
様々な理由で高校を中退したために、野球ができなくなってしまった高校球児たち。
そんな彼らに再びプレーする機会を与え、さらに勉強も教える場が愛知県常滑市にあります。
高校中退者を中心メンバーとする野球のクラブチーム、その名も『ルーキーズ』
2010年、NPO法人として「ルーキーズ」を立ち上げたのは理事長 兼 総監督を務める、
山田豪(たけし)さん・47歳。
結成のとき、会見で山田理事長はこう言いました。
「挫折した子に対して、再挑戦の場を与え、目標を持たせることも教育の一環です」
全国で毎年、6万人を超える入部者があるという高校野球部。
一方で毎年、およそ1万人の退部者も出ているのです。
退部と同時に学校もやめ、社会からドロップアウトするケースも多く、彼らを救いたい、という思いもありました。
しかし、立ち上げて間もない頃は赤字経営が続き、山田理事長は家賃滞納でアパートを追い出され、ネットカフェを転々としたことも…。
それでも、挫折してしまった球児たちを救いたい、という熱意が実り、何とか赤字を脱却。
現在「ルーキーズ」は、高校を中退したり、他の高校から編入してきた16歳から20歳までの選手たちを中心に、大卒の選手も交え、およそ30人ほどのメンバーで活動を続けています。
選手たちは、一部を除いて寮で集団生活を送り、午前中は、通信教育総合学園の学習センターで授業を受け、高校卒業資格の取得に励みます。
そして午後からは全員、夕方までみっちり野球の練習をするというスケジュール。
ルーキーズには、全国から随時、入団希望者がやってきます。おととし秋田から入団したのが、橋本健選手・17歳。
本来なら、この春から高校3年生の年齢です。
5歳のときから野球を始め、地元の少年野球チームで才能を発揮しましたが、中学2年生のとき両親が離婚。
母親に引き取られ、姉と一緒にアパートで暮らしました。
家計は苦しく、新しい野球用具を買いたくても買えなかったそうです。
中学の野球部監督に勧められ、地元の高校にスポーツ推薦で進学。
しかしこの学校は、優秀な進学校でもありました。
「朝、教室に入ると、クラスメートの半分が自習していて、誰も話し掛けてくれない。その雰囲気にどうしてもなじめなくて…」
野球部でも他の部員たちと打ち解けることができず、かなり悩んだ末に、わずか3ヵ月で退学。
フリーターになりました。しかし、どうしても野球が続けたかった橋本選手は、ある日、ルーキーズの存在を知ります。
「ネットで検索していたら、偶然たどり着いたんです。野球ができるなら、知らない土地に行くことに抵抗はありませんでした」
高校中退に反対した母親も、橋本選手の純粋な思いを受け止め、入団を許してくれました。
高校退学から3ヵ月後に、ルーキーズ入り。
ケンカなど問題を起こして入ってきた選手たちと果たしてウマが合うのか、ちょっと心配でしたが、
「話してみると、意外と“いい人”ばかりで、すぐに仲良くなれましたよ」
ここでは同じ境遇の仲間と出逢うことができ、のびのびと野球に取り組んでいるそうです。
橋本選手はいま、学費と生活費は家からの仕送りに頼っていますが、目標は野球で結果を出し、学費のかからない特待生として大学野球部に入ること。
ゆくゆくは、社会人野球に進むか、プロ野球選手になって、苦労をかけているお母さんに恩返しをしたい…それが現在の夢です。
ルーキーズは一般の高校野球部と組織形態が異なるので、高校野球連盟に所属していません。
高校球児たちの目標である「甲子園出場」はできませんが、代わりに社会人野球の最大の大会・都市対抗野球にクラブチームとして参加。
ルーキーズの選手たちの目標は、甲子園ではなく「東京ドーム」なのです。
去年の春に行われた、都市対抗野球の1次愛知県予選。橋本選手はその初戦にピッチャーとして先発登板。
実力を発揮する機会がやってきました。
「行けるところまで、思い切って飛ばそうと思いました」
橋本選手は、年上の社会人選手を相手に堂々のピッチングを披露。気付けば最後まで投げ抜き、なんと完封勝利を飾ったのです。
当時、監督も兼任していた山田理事長は、人目もはばからず号泣。
「叱ってばかりだった選手たちが、やってくれた。やればできるというのを見せてくれた」
秋田のお母さんも、とても喜んでくれたそうです。
これで弾みを付けたルーキーズは、次の試合も完封勝ちで、1次予選を突破。
2次予選に進出し、社会人日本一になった強豪・トヨタ自動車と対戦。
大きな話題になりました。
試合はコールド負けを喫しましたが、選手にとっては大きな自信に。
今年もまもなく、都市対抗予選の季節がやって来ます。
ルーキーズの目標は、1次予選を突破、そして2次予選で地元の強豪企業チームを倒し、東京ドームに駒を進めること。
山田理事長は言います。
「高校をやめても、それで人生がゲームセットになるわけではありません。大切なのは夢を持ち続け、目標に向かって努力することなのだから…」
八木亜希子 LOVE & MELODY 2016年3月19日(土) より
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