さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
今月からスタートしました、「しゃベルシネマ」。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介していきます。
今回の「しゃベルシネマ」では、このゴールデンウィークに開催された映画イベントの模様をお届け。
4月29日に横浜南公会堂で開催された『はなちゃんのみそ汁』上映会の舞台挨拶を掘り下げます。
食べることは、生きること。命をつなぐ物語。
33歳でこの世を去った安武千恵さんのがん闘病記と、娘のはなちゃん、夫の信吾さんとの日々をつづった同名エッセイを映画化した『はなちゃんのみそ汁』。
余命わずかな生活の中で、幼い娘にみそ汁作りを通して愛情と生きる力を伝えていく本作は、がん闘病に焦点を絞るのではなく、病と向き合う家族が、それぞれの生き方や家族のあり方を見つめながら成長していく様子を描いています。
メガホンを取ったのは、認知症の母との交流を描いた映画『ペコロスの母に会いに行く』で脚本を手掛けた阿久根知昭監督。
余命わずかと宣告されながらも、残された数少ない時間をかけて幼い娘に“食の大切さ”を教えようとする主人公・千恵役は、みずみずしい演技が光る広末涼子さん。
妻を全霊で支える夫・信吾役に、大ブレイク中のカメレオン俳優、滝藤賢一さん。
今年1月から全国の映画館でロードショー公開された時は多くの人々の涙を誘った本作。
現在は、全国で上映会が開催されています。
ゴールデンウィーク初日に横浜南公会堂で開催された、ピンクリボンかながわ『はなちゃんのみそ汁』上映会には、主演の広末涼子さん、はな役の赤松えりなさん、阿久根知昭監督が会場に駆けつけ、映画にまつわる様々なエピソードを披露して下さいました。
わが街に映画がやって来た!
人気女優、広末涼子がやって来た!!
…というコトで、会場に詰めかけたお客様の表情もさまざま。
広末さんの可愛らしさに、思わず笑みがこぼれる男性。
ゲストの方々の言葉を聞き漏らすまいと、固唾を呑んで見入るご婦人。
さっきまでスクリーンの中にいた人が目の前にその姿を目の当たりして、ポカンとした表情の子供たち。
個々のお客様の反応に、司会を務める私も新鮮さを覚えてしまいます。
本作のように、すでに興行が終了した作品で、キャストの方々がお客様の面前に登場するのは、とてもレアなこと。
広末さんも「恐らく初めてだと思います。映画館での上映が終わっても、このように足を運んで下さる方がいらっしゃることが嬉しい」と、満面の笑顔。
「(広末さん演じる主人公のモデルとなった)千恵さんの明るさと前向きな精神性を体現する覚悟で撮影に挑みました。もちろん、病気と向き合っていくことは容易いことではないということは充分承知しています。が、“命と向き合う”、“病気と闘う”といった辛く悲しい闘病記のような映画ではなく、どこかに希望を感じられる映画になれば…と。千恵さんが残した言葉や考え方は同じ女性として、そして母として共感出来る部分がとても多かったです」と、本作のオファーを受けた当時を振り返って下さいました。
「はなちゃん役の赤松えみなです!5歳です!好きな食べ物は、りんごです!嫌いな食べ物はアボカドです!!」
…と自己紹介してから、えみなちゃんが言葉を発するたびに、その愛らしさに溢れる発言と仕草に会場からは笑いと感嘆の溜息が。
彼女の一挙手一投足に、誰もが心を鷲掴みされてしまったのが伝わってきます。
阿久根監督に「驚異の破壊力の持ち主」と言わしめる天才子役えみなちゃんに、撮影中のエピソードを聞いてみると…。
「おみそ汁を作るのが楽しかったです!おみそ汁作りは…。う〜〜ん、まぁまぁ難しかった。おみそを溶くのが、アチチッってなるの」と、屈託のない表情で答えてくれます。
“小さな大女優、赤松えみな”に、誰もがメロメロ!
そんなえみなちゃんについて、阿久根監督は…。
「オーディションの時から、ずっとこんな感じ。彼女が一言しゃべると、周りの大人はみんなメロメロになるんですよ。それで、はな役は彼女に決めました。」
と、目尻が下がりっぱなし?!
えみなちゃんが楽しかったという調理シーンについて、広末さんと阿久根監督に伺ってみると…。
広末さん「料理を作るシーンは、ほとんどアドリブでしたね。」
阿久根監督「そうですね。(えみなちゃんは)一所懸命作ってましたよ。撮影そっちのけで(笑)。」
広末さん「最低限度の段取りが決まったら、いちばん最後に“小さな大女優(えみなちゃん)”をお迎えして…(笑)。」
阿久根監督「えみなのシーンは、ほとんど一発撮りなんです。」
広末さん「何度もやると飽きちゃうんですよ。撮影中、セットの横には“えみなちゃんスペース”があって、おままごとをしたり一緒に遊んでました。えみなちゃんの生き生きした姿こそ、この映画の力だと思います。」
“小さな大女優”の才能に、お二人ともすっかり惚れ込んでいる様子ですね。
最後に阿久根監督が「この映画のテーマは、自分の人生を肯定すること。人生が長かろうと短かろうと、自分の人生はこれで良かったんだと思える。そういう生き方を目指した女性の物語です。」
広末さんが「人間にとって永遠のテーマである“生きること”、“食べること”、“家族の絆”というテーマが込められている映画だと思います。」と、本作の魅力を伝えて下さいました。
社会に、地域に根ざした映画上映の意義とは?
この日、会場となった横浜南公会堂のロビーには、ピンクりぼんかながわのブースが設置され、乳房模型を使ってしこり触診体験や正しい自己触診の説明、チャリティ販売などが行われました。
写真は、舞台挨拶終了後のロビーの様子。
映画を観終わって監督・キャストの皆さんのお話を聞いた直後ということもあってか、お客様たちも興味ひとしおという感じでした。
今回ご紹介したような上映会は、行政や企業の文化事業、人権・平和問題などを考える学校教育、また地域活性や町おこしの一環として、様々な立場や角度から企画・開催されています。
このような上映会で映画を観ると、映画館で鑑賞する時とは捉え方に変化が出ることも多々あるようです。
実際に、司会を務めさせていただくにあたり本作を再見した時、「いま命があることの有難さ」をしみじみと感じました。
監督さんや俳優さんたちがよくおっしゃってますが、映画は人に観てもらって初めて「映画」。
『はなちゃんのみそ汁』の上映会は、今後も全国で開催される予定です。
あなたの街にこの映画が訪れたならば、是非、足を運んでみて下さい。
はなちゃんのみそ汁
監督・脚本:阿久根知昭
原作:安武信吾、安武千恵、安武はな
出演:広末涼子、滝藤賢一、一青窈、紺野まひる、原田貴和子、春風ひとみ、遼河はるひ、赤松えみな ほか
©2015「はなちゃんのみそ汁」フィルムパートナーズ
公式サイト http://hanamiso.com/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/