さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
今月から始まりました「しゃベルシネマ」。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介していきます。
今回は、明日のレディスデイにオススメの映画をご紹介。
美しい旅の風景と夫婦愛が印象的な映画『君がくれたグッドライフ』を掘り起こします。
世界中の映画祭で好評を博したヒューマンドラマ、いよいよ日本公開
持ち回りで行き先を決めて、年に1度、自転車の旅に繰り出している6人の男女。
今年はハンネスとキキ夫婦が行き先を決める番で、彼らはベルギーを選択した。
ベルギーと聞いてもチョコレートくらいしか頭に浮かばない仲間たちだが、その地を選んだのには深い理由があった。
ALS(=筋萎縮性側索硬化症)の宣告を受けたハンネスは、尊厳死が認められているベルギーを訪れ、これを人生最後の旅にするつもりだったのだ。
真相を知った仲間たちは大きなショックを受けるが、ハンネスの願いを叶えるべくベルギーを目指す。
いつものように、旅行中に実行しなければならないムチャな課題を出し合い、クリアする度に笑いがはじける旅路。
それは、このままずっと続くように思えたが…。
『君がくれたグッドライフ』は、不治の病を宣告された男性が妻や仲間との旅を通じて命と向き合う姿を描いたヒューマンドラマ。
トロント、ロカルノなど権威ある映画祭をはじめ、ヨーロッパからアメリカまで世界各国のフィルム・フェスティバルで上映され、大絶賛を受けた本作。
ヴァラエティなどの全米メディアでも高く評価され、本国ドイツでもドイツ映画批評家協会賞やジュピター賞をはじめとする数々の名誉に輝いた感動作が、いよいよ日本でも公開となりました。
メガホンを取るのは世界各国の映画祭への出品経験を多数持つ、クリスティア ン・チューベルト監督。
脚本は本作が脚本家デビューとなる、アリアーネ・シュレーダー。
チューベルト監督は1973年生まれ、シュレーダーは1985年生まれと、若い才能が開花しました。
不治の病におそわれた主人公・ハンネスを演じるのは、『ヴィンセントは海へ行きたい』でドイツ映画賞主演男優賞を獲得した国民的俳優、フロリアン・ダーヴィト・フィッツ。
ハンネスの妻キキにはTV・舞台・映画と幅広く活躍する、ユリア・コーシッツ。
観る者に「もし自分だったらどうするか?自分の愛する人だったらどうするか?」と問いかけずにはいられない、胸に迫るリアルな心情を見事に演じてきっています。
あなたにとって、“グッドライフ”とは何ですか?
特筆すべきは、俳優たちの見事なアンサンブル。
日本ではあまり馴染みのない顔ぶれかもしれませんが、それぞれドイツの映画・TV・演劇界においては実績のある実力派俳優ばかり。
演技スキルも高く、シーンごとに息の合ったコンビネーションを見せています。
しかしこの6人の俳優たち、ハンネスとキキの夫婦を演じるフロリアン・ダービト・フィッツとユリア・コーシッツは以前からの知り合いでしたが、ほかのメンバーはこの作品で共演するまで一緒に仕事をしたこともなければ、お互いの存在も知らなかったとか。
撮影の2日前に初めて顔合わせをして、果たして劇中のように仲の良いグループになれるものだろうか…。
製作スタッフも当初は心配していたのですが、彼らは撮影中はもちろん撮影後も自主的に行動を共にすることで、「古くからの親友同士」というストーリー上の設定に偽りを感じさせないほどのホンモノの絆を築いていったとのこと。
そんな彼らの陰ならぬ“役作り”があったからこそ、旅の中で流す涙、そしてあふれる笑顔が、観る者に強い影響を与えるのでしょう。
歴史ある街並みから広大な田園地帯、緑豊かな山道から海沿いへと続くヨーロッパの美しい風景を自転車で走り抜ける仲間たち。
そして、どんなにつらい状況にあっても笑顔を絶やさず、真摯に命と向き合おうとする夫婦の姿。
この映画のテーマは「尊厳死」という、とても重く、シリアスなテーマではありまが、その重苦しいテーマを重く切実に捉えるのではなく、あくまでも明るく爽やかに展開していくことで、映画はより一層の輝きを放っています。
そういった意味では、本作で描いているものは「どのように死ぬか」ということではなく「いかに生きるか」ということなのではないでしょうか。
たとえ死を目の前にしても、私たちは決して一人ではない。
あなたにとっての、そしてあなたの大切な人にとっての “グッドライフ” とは何か…。
観終わった後、心の中にあたたかなメッセージが残る感動作です。
『君がくれたグッドライフ』は、2016年5月21日からヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開中です。
2016年5月21日からヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー。
監督:クリスティアン・チューベルト
出演:フロリアン・ダービト・フィッツ、ユリア・コーシッツ、ユルゲン・フォーゲル、ミリアム・シュタイン、フォルカー・ブルッフ ほか
©2014 Majestic Filmproduktion GmbH / ZDF
公式サイト http://goodlife-movie.com/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/