日本で初めて動物関連限定のオンライン寄付サイト「アニマル・ドネーション」を立ち上げた、西平 衣里さん(公益社団法人アニマル・ドネーション代表者)。子どものころから大の動物好きで、中でも特に猫が大好きだったという西平さん。11年前に家業を手伝うために出版社を退職、少し時間に余裕ができたので、念願の猫を飼おうと思ったそうですが、ご主人が猫アレルギーだったために断念。代わりに犬を飼おうということになって、探していたときに出会ったのが、現在も一緒に暮らす愛犬のトゥルー君(11歳、トイプードル)でした。
トゥルー君との出会いは、その後、西平さんの人生を大きく変えていくことになります。
■「知ってしまった以上、見過ごすわけにはいかない」
犬を飼うのはトゥルー君が初めてだった西平さん。「犬を飼い始めると、自然と犬関係の話題や情報が目につくようになりますよね。私もトゥルーのために…と思って本や雑誌を読んだり、イベントに参加したりするようになりました」。
そんなとき、西平さんは偶然、ある衝撃的な現実を知ってしまいました。
それは、犬や猫の殺処分の数。
「それまでも、殺処分のことはなんとなく知っていましたが、無意識のうちに詳しく知ることを避けてしまっていたのです。それだけに、年間28万頭、1日あたり800頭もの動物が殺処分されていることを知ったときの衝撃は大きかったですね。そして、その現実を知ってしまった以上、私にはそれを黙って見過ごすことはできませんでした」。
世界有数の経済大国であり、2兆円規模ものペット産業が成り立っている日本で、なぜこんなに多くのペットが「処分」されているんだろう?ドイツやイギリスのような、いわゆる「ペット先進国」とは何が違うんだろう?そして、自分は何をすべきなんだろう…?
いてもたってもいられなくなった西平さんは、さっそく情報収集のために動き始めました。
■「もう少しお金があれば、もう1頭助けられるのに…」
その頃、西平さんが参加したのは保護犬に関する情報を積極的に発信している出版社ONE BRANDが主催するセミナー。このセミナーでさらに詳しく保護犬や殺処分の現状を学んだ西平さん。ある日、セミナーの課外授業で見学に訪れた東京都内のある保健所で、忘れられない光景を目にしました。
「私たちが見学しているまさにそのとき、1匹の猫が保健所に引き取られてきたのです。驚いて事情を聞くと、飼い主の方が高齢で病気になり猫を手放さざるをえなくなったのだとのこと。なぜ大切な家族であるペットと最後まで一緒に暮らせないのか。そしてなぜ人間側の勝手で動物を不幸な運命に陥れることがまかりとおっているのか…。さまざまな疑問や怒りがこみ上げてきました」。
このあと、さらに情報収集を続けた西平さん。最初にたどり着いた結論は動物関係の情報サイトを立ち上げることでした。
「かつての私と同じように、動物たちが置かれている状況を正しく知らない人がたくさんいると思います。そんな方たちのために正しい情報を発信しようと思い、投稿型のサイトを作ろうと思いました」。
しかし、動物保護団体の方々に会って話を聞くうち、本当にすべきことは、情報の発信だけではないことに気づくようになったという西平さん。
「お話を伺った保護団体はどこも、経済的に厳しい状況の中、大変な苦労を重ねてレスキュー活動をしていました。多くの団体が『もう少しお金があれば、もう1頭、助けられたのに…』という状況に置かれているのです。動物たちの命を救うには、情報だけでなくお金も必要なのだということを痛感しました」。
そして西平さんは個人的に、保護団体への寄付をするようになりました。
「実際に寄付をしてみてわかったのは、寄付って動物を助けたいという気持ちをカタチにする方法だということ。もっと気軽に寄付ができる仕組みがあれば、『動物のために何かしたいけど、どうすればいいかわからない』という人たちの想いを、動物たちに届けられるのではないかと思うようになりました」。
そして紆余曲折を経て西平さんがたどり着いた結論こそ、日本初の動物関連限定のオンライン寄付サイト「アニマル・ドネーション」でした。
「まずは現実を知ってもらうための情報発信をし、現実を知った愛犬・愛猫家の皆さんが抱くであろう『動物たちのために何かをしたい』という気持ちを、何かしらのアクションに繋げる仕組みを提供する。そのためのツールとして、オンライン寄付サイトを作ったのです」。
■5年間で約5,670万円の寄付を保護団体へ
もちろん、実際にサイトをオープンさせるまでの道のりは決して平たんではありませんでした。「特に厳しかったのが金融機関の審査がすごく厳しかったこと。海外のように寄付文化が定着していない日本では、寄付をオンラインでカード決済することに難色を示す金融機関が多かったのです。でも、熱意あるメンバーが活動に加わってくれたり、助けてくれる方が現れたりして、なんとか壁を突破できました。このほかにも、次々に降りかかってくる問題を苦しみながらも乗り越えられたのは、自分たちのためにやっているんじゃなく、動物たちのためにやっているんだという意識が心の支えになってくれたのだと思います」。
そして2011年7月27日、日本初の動物関連限定オンライン寄付サイト「アニマル・ドネーション」がオープン。少しずつ活動の輪が広がり、これまでの約5年間で約2,000人の個人、約500の企業から総計約5,670万円もの寄付を集め、提携している保護団体に届けることができました。平成27年4月には公益社団法人に認定され、個人・法人に関わらずアニマル・ドネーションを経由して行った寄附について、寄付控除等の税制優遇措置を受けることができるようになりました。
■「トゥルー以外の犬も幸せにするために、行ってくるよ」
この間に、西平さんは妊娠・出産を経験。今は4歳の長男を育てながら、家業の経営者として、そしてアニマル・ドネーションの代表者として、奔走する日々を送っています。分刻みのスケジュールをこなしつつも、一愛犬家としてトゥルーと過ごす時間も大切にしているそうです。
「自分の持っている力を活かして社会に貢献したいという夢をずっと持っていました。その夢に向かって1歩を踏み出せたのは、トゥルーのおかげ。トゥルーがいたからこそ、動物たちのために頑張る気持ちを失わずに頑張り続けることができました。自分でも自分の人生が思いがけない方向に展開してるな~って思うこともありますが、その一方で、トゥルーとの出会いも含めて、これが運命だったのかな、とも思うんですよ。いずれにせよ、以前より幸福な気持ちで毎日を過ごせるようになったことは確か。だから仕事に出かける前には必ずトゥルーに『トゥルー、ありがとう。トゥルー以外の犬も幸せにするために行ってくるよ』って話しかけるようにしています」。
サイト立ち上げ、公益社団法人認定と1つずつステップを上がってきた西平さんですが、決して今がゴールではないといいます。
「次に挑戦したいのは、動物への遺産贈与や信託のシステムの構築です。おそらく日本ではあまり前例がないので、超えなくてはいけないハードルも多そうですが、人と動物がより幸せに共生できる社会を目指して、信念と情熱をもって取り組んでいきたいと思います」。