さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。
没後20年以上の時を経て、再評価されている作家・佐藤泰志。
彼が手がけた小説を映画化した“函館三部作”から、ついに最終章が劇場公開となります。
そこで今回の「しゃベルシネマ」では、『オーバー・フェンス』を掘り起こします。
生きることに不器用な男女が共鳴していく人間ドラマ
家庭を顧みなかったために、妻に見捨てられ離婚した白岩。
東京から故郷の函館に戻り、職業訓練校に通いながら失業保険で生計を立て、訓練校とアパートを往復するだけの淡々とした日々を送っていた。
楽しみなんて何もない、ただ働いて死ぬだけ。そう思っていた。ある日、同じ職業訓練校に通う代島に連れられて、キャバクラへ行くことに。
そこで出会ったのが、鳥の求愛ダンスを踊る風変りな若いホステス、聡(さとし)だった。
美しくもどこか危うさを抱える彼女に、白岩は惹かれていく…。
『海炭市叙景』(熊切和嘉監督)と『そこのみにて光輝く』(呉美保監督)と合わせて“函館三部作”と呼ばれている本作。
前二作は国際的にも評価が高かったため、いやがうえにも本作の出来についても期待が高まるトコロです。
その“トリ”となる作品でメガホンを取るのは、『苦役列車』『味園ユニバース』などのヒット作を手掛けた山下敦弘監督。
いま、この瞬間を生きる人間の躍動を活写し、山下監督の最高傑作とも呼べる一作に仕上がっています。
キャストには、確かな演技力と存在感を持った実力派俳優が集結。
主人公・白岩役のオダギリジョーを筆頭に、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介…。
苦悩を抱え孤独な人間たちがそれでも不器用に真っすぐに生きていく姿を、それぞれに泥臭いまでに体現。
鬱屈とした空気感の中にもどこか清々しさが残る、三部作最終章にふさわしい作品となっています。
芥川賞候補に5度もノミネートされながらも選に漏れ、1990年に41歳という若さで自ら命を絶った不遇の作家・佐藤泰志。
没後20年以上の時を経たいま、彼の作品が改めて多くの人の心を掴む所以は、社会的弱者に向ける温かな眼差しが感じられるからではないでしょうか。
ちなみに本作は、佐藤氏が作家活動に挫折しかけて職業訓練校に通っていた頃の体験がもとになっており、この原作が彼にとって最後の芥川賞候補作品になりました。
佐藤氏が生前 “超えたくても越えられなかったフェンス”は、これまで“函館三部作”に関わったすべての人のエネルギーの結集で乗り越えられたのではないか…。
観終わった後、そんな思いに耽ってしまう映画でした。
オーバー・フェンス
2016年9月17日からテアトル新宿ほか全国ロードショー
監督:山下敦弘
原作:佐藤泰志(「黄金の服」小学館文庫より)
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、北村有起哉、満島真之介、松澤匠、鈴木常吉、優香 ほか
©2016「オーバー・フェンス」製作委員会
公式サイトURL:http://overfence-movie.jp/
連載情報
Tokyo cinema cloud X
シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。
著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/