ジャーナリズムの神髄は“お笑い”だ!【やじうま好奇心】

By -  公開:  更新:

今週1週間は高嶋ひでたけさんが休暇ということで、今日は私、ジャーナリストの鈴木哲夫がピンチヒッターパーソナリティを務めています。

私、鈴木哲夫は昔から「お笑い」が大好きで、漫才のテープを山ほど持っているのですが… 実は、昔の名人たちによる漫才と「ジャーナリズム」には、確固たる共通点があったんです。
まず、漫才師ふたりの役どころを思い返してみてください。
普通のヒトよりもバカで非常識な「ボケ」と、普通のヒトの代表で、ごく常識的な「ツッコミ」で成り立っているでしょう。
ところが、実は「ボケ」は、「非常識」なだけに、王様をハダカと言える鋭さをも持ち合わせているんです。
具体例を挙げます。
関西お笑い界の雄、「夢路いとし喜味こいし」さんの名作漫才、「僕はお巡りさん」の一幕です。
この漫才では、「やたらと威張る警官」(ツッコミ)と「歩行者」(ボケ)が登場します。

警官「何をしとるんじゃキミ、キミじゃキミじゃ!こっちに来いちゅうねん!… 名前は?」
歩行者「いま ゆうぞう…」
警官「…名前は?」
警官「はよ言えや!」
歩行者「いま ゆうぞう…」
警官「だから名前をはよ言えっちゅうねん!」
歩行者「名前が、いまいゆうぞう…」

資料音源CD『ラーフィン~爆笑マンザイ特撰集~②』

夢路いとし・喜味こいし(1956年ごろ)桂米朝『米朝よもやま噺』朝日新聞社より

夢路いとし・喜味こいし(1956年ごろ)桂米朝『米朝よもやま噺』朝日新聞社より

ここで観客たちは、大爆笑するのみならず大拍手となるのですが… よく考えてみて欲しいんです。
ここには「歩行者が権力者に向かって言いたいことを言ってくれている」という構図があります。
この漫才が生まれた頃は、まだ官憲がやたらと威張る「オイコラ警官」の風潮が残っており、また、高度経済成長期の中、マイカーを持っているほうが偉い… というような空気があったんです。
つまり、歩行者が肩身が狭い存在だったからこそ、観客たちは、快哉を叫んだというわけなんです。
この「僕はお巡りさん」は、性急なクルマ社会へのアンチテーゼであり、旧態依然としていた官憲主導社会を撃った漫才ともいえます。
ここには、権力への問題提起があり、指摘があり、提言がある…。
このように、かつてのお笑い(名作漫才)には、「ふつうなら言えないような権力に対する本音を代わりに言うからこそ観客が笑う」という風刺精神に満ちていたんです。
そして、この精神こそ、ジャーナリストが忘れてはいけないことではないでしょうか。
「普通のヒトは言えない本音を語り、権力者の暗部を白日のもとに晒す」──
この一点で、お笑いとジャーナリズムは通底しているのです。

radiko_time_1124

11月16日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より

Page top