眠りの達人!チンパンジーに学ぶベッド作り?!【やじうま好奇心】
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サル年ももう残り1か月を切りましたが、サル年の今年、画期的なベッドが開発されたことをご存知でしょうか?!
その名を「人類進化ベッド」と言いまして…
なんと、“チンパンジーのベッド”から大いに発想を得て出来上がりました。
ヒト(人類)の祖先が、チンパンジーの祖先と別れたのは700万年前くらい。
ヒトの祖先も木の上のベッドに寝ていたと考えられ、そのベッドを現代に再現、といいますか、アレンジしたという意味で「人類進化ベッド」なのです。
では、なぜチンパンジーのベッドなのか?
実は、チンパンジーはエサを探し求めてアフリカの森の中を移動するため、家が決まっていません。よって、毎晩夕方になると「今夜はここらで寝るとするか・・・」と、寝心地のよさそうな木を決め、外敵から身を守る5メートルくらいの高さのところで、枝を折って土台を作り、そこに葉を敷き詰めて、数分でサササッとベッドをこしらえる。
これが毎晩、365日!一生に1万個以上!チンパンジーはベッド作りの名人なのです。
そして一度寝ると、排せつで1回起きる以外は、10時間も12時間もグーグー寝ている。
なぜ、そんなに気持ちよさそうに寝ているのか?
そこを疑問に思った研究者がいました。
京都大学のアフリカ地域研究資料センターでチンパンジーの研究をしている座馬耕一郎(ざんま こういちろう 44歳)先生です。
座馬先生はそもそも、「チンパンジーとシラミの関係」が研究テーマでした。
霊長類は“毛づくろい”という行動でシラミを取りますが、一体どのくらい毛の中にシラミがいるのか?
もしかしたらシラミなんか取ってなくて、ただ仲良く触れ合っているだけなのか?
こうした疑問を検証する方法として、チンパンジーの毛の中のシラミを採取する必要がありますが、野生の彼らがそうそう触らせてくれるわけもない。
そこで、さきほどチンパンジーが365日ベッドを作ると言いましたが、彼らが移動して去ったあとのベッドに忍び込み、そこで落ちている毛を採取して、シラミの数を数えるという地味な作業を続けていました。
そしてある日、いつものように、高さ5メートルほどの木の中腹に作られたチンパンジーのベッドに、毛を採取に行った際、先生にちょっといたずら心が芽生えました。「このベットにちょっと寝てみよう」。
そして横になり、目を閉じたところ・・・
“なんなんだ、この味わったことのない、えもいわれぬ心地よさは!”
そして気が付くと、深い深い眠りに落ち、グースカ寝ていたのです。
こうして座馬先生は、研究テーマを「チンパンジーのベッド」に変更して10年。
そのベッドの心地よさが科学的にいろいろと判明してきました。
まず、大きな特徴として「形は楕円形」。
そして、楕円形の周りをぐるっと1周少し高く盛り上げて葉っぱが敷き詰めてあるので、「360度枕」。つまり、どう寝返りを打っても枕、なのです!
さらに、「真ん中がくぼんでいてやわらかい」ので、包まれている感覚が“ハンパない”。
最後に、枝と葉っぱでつくってありますから、「揺れる」。ロッキングチェアーのようなものです。
つまり、体がすっぽり包まれ、いつでも枕があり、揺れて心底リラックスする。
先生は、これをなんとかヒト用のベッドに取り入れられないものかと画策します。
そして、手を組むことになったのが、京都で180年以上続く老舗寝具メーカーのIWATA(イワタ)です。
イワタの岩田有史(ありちか)社長が、座馬(ざんま)先生からこの話を聞いたとき、
「ホンマかいな?」と思ったそうです。
岩田社長が言う間でもなく、人間の常識のベッドは、“四角くて、枕は頭のところだけに置いて、全体は平たん”。ところが、チンパンジーのベッドは・・・“楕円形で、周りが全部枕のように盛り上がっていて、真ん中がへこんでいる”。
しかし、社長はふと思ったそうです。「ベッドは四角くなくて楕円形でも、別にいいのかもしれないじゃないか?」。この社長の決断で試作に取り掛かりました。
一番最初は、布団を丸めたものを。
2番目には、段ボールで。
3番目には、木を使ってお椀型のものを。
そして、4度目についに完成!
ベッドの土台の部分を特注の木の枠で、揺れるように設計。
その上に、楕円形の宅配ピザを想像してもらえる分かりますが・・・
ピザの周りがちょっと膨らんでいて、真ん中がへこんでいるあの生地。
この形の特注の布団を作り上げた、2つのパーツからなる「人類進化ベッド」の試作品が完成したのです。
大きさは普通のベッドよりかなり小さいと思ってください。大人の男性だと足がはみ出ます。
しかし、この足を投げすことで、思わぬリラックス感が得られるそうです。さらに寝てみた人からは「寝心地最高!」「発想がスゴイ!」「やわらかすぎず、固すぎず、絶妙!」「初めてベッドに包み込まれた」などの様々な感想が!
この試作品は、今年春、京都大学総合博物館で発表され、イギリスの「ガーディアン」紙や「デイリーメール」紙でも紹介されるほど、世界も高い関心を持っているようです。
座馬先生も学会に行くと、世界中のチンパンジー研究者から「ベッドをゆずってくれ」と声をかけられるとか。
さて今後ですが・・・
サル年の今年、「人類進化ベッド」の試作品が完成した段階。一般に売り出すには、材料や製造方法など、まだ課題がありますが、来年を目標に”市販化”することになっています。
気になる値段ですが、まだ特殊なモノであるがゆえに、30万円くらいはしてしまうのではないか?とのこと。ただ、人類進化ベッドをホテルが購入するといった引き合いがありますので、一般の人が寝られるチャンスはいくつかありそうです。
ただ、座馬先生いわく、“チンパンジーのベッドの工夫は、今晩からでもできますよ“、とのこと。
たとえば、ベッドの周りをグルッと枕のように高くしてみる、とか、自分の脚の部分だけでもクッションなどで高く上げてみる、など。
考えてみれば、「ベッドは四角い」と誰が決めたのか?
ヒトが進化する上で忘れてしまった形が、アフリカの木の上には残っていると言えるのかもしれません。
12月6日(火) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より