パリ・オペラ座の歴史に、若き異端児が挑む!『ミルピエ 〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』【しゃベルシネマ by 八雲ふみね・第127回】

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さぁ、開演のベルが鳴りました。
支配人の八雲ふみねです。
シネマアナリストの八雲ふみねが、観ると誰かにしゃベリたくなるような映画たちをご紹介する「しゃベルシネマ」。

今回は『ミルピエ 〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』を掘り起こします。

名門に革新をもたらした男のバレエ・ドキュメンタリー

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長年に渡り世界最高峰の芸術を提供し続けてきたバレエの殿堂、パリ・オペラ座。
20年近く芸術監督を務めたブリジット・ルフェーヴルの退任後、錚々たる有力候補を押しのけ、史上最年少でパリ・オペラ座の芸術監督に大抜擢されたのは、バンジャマン・ミルピエだった…。

映画『ブラック・スワン』の振付師であり、女優ナタリー・ポートマンの夫として知られる、パリ・オペラ座バレエ団の元芸術監督バンジャマン・ミルピエを追ったドキュメンタリー『ミルピエ〜パリ・オペラ座に挑んだ男〜』。
彼にとって芸術監督としての初仕事となった「クリア、ラウド、ブライト、フォワード」完成までの道のりを通じて、350年以上の歴史と伝統に対峙しながら次々と革新をもたらしていく様子が、圧巻の映像美で描き出されています。

ミルピエ02

バレエ団における厳しい階級制度を否定し、エトワールではなく“コール・ド・バレエ”(簡単に言うと“その他大勢”の群舞メンバー)の若手ダンサーたちからメンバーを選抜したり、長い歴史の中で初めて黒人ハーフダンサーを主役に抜擢したり。
そして選ばれたダンサーには、個々にソリスト的な見せ場を与えたり…。
アメリカで積んだ経験、若さ、評判を武器に、ミルピエは伝統ある名門バレエ団に大胆な改革をもたらしていきます。
そんな斬新なアイデアが浮かぶ瞬間や、厳しいリハーサル風景、華やかなガラ・プレミアへと、カメラは余すところなく潜入。
それらは通常ならごく限られた人しか立ち会うころが出来ない貴重なシーンばかりで、その創作の工程を我々観客もその場に居合わせるような臨場感を持って体感することが出来ます。

ミルピエ03

さて、バンジャマン・ミルピエについて、冒頭で“元”芸術監督…と、紹介しました。
そう、彼はニコラ・ル・リッシュ、マニュエル・ルグリといった名だたる有力候補を押しのけて、史上最年少で芸術監督に就任したにもかかわらず、わずか1年半で辞任することになります。
その理由は「アーティスト活動に専念するため」とのことでしたが、本作でもその片鱗が見えるように、彼の異端とも呼べる挑戦は周囲との軋轢を生むこともありました。
しかし、それ以上に若いダンサーたちに素晴らしい経験と思い出をもたらしたことも事実。
オペラ座の舞台でソリストとして踊ることを夢見て日々鍛錬している彼らにとって、ミルピエと創作活動に励んだ日々は喜びに溢れていたことでしょう。

ミルピエ04

伝統と革新がぶつかることで、ミルピエがパリ・オペラ座にもたらしたものは何だったのか。
バレエに精通していなくても、創作活動に興味がある人ならば誰しも興味をそそられる一作です。

POSTER C
ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~
2016年12月23日からBunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
監督:ティエリー・デメジエール、アルバン・トゥルレー
出演:バンジャマン・ミルピエ、レオノール・ボーラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アクセル・イーボ ほか
©FALABRACKS,OPERA NATIONAL DE PARIS,UPSIDE DISTRIBUTION,BLUEMIND,2016
公式サイト http://www.transformer.co.jp/m/millepied/

連載情報

Tokyo cinema cloud X

シネマアナリストの八雲ふみねが、いま、観るべき映画を発信。

著者:八雲ふみね
映画コメンテーター・DJ・エッセイストとして、TV・ラジオ・雑誌など各種メディアで活躍中。機転の利いた分かりやすいトークで、アーティスト、俳優、タレントまでジャンルを問わず相手の魅力を最大限に引き出す話術が好評で、絶大な信頼を得ている。初日舞台挨拶・完成披露試写会・来日プレミア・トークショーなどの映画関連イベントの他にも、企業系イベントにて司会を務めることも多数。トークと執筆の両方をこなせる映画コメンテーター・パーソナリティ。
八雲ふみね 公式サイト http://yakumox.com/

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