フランスの犬は「社会の一員」【ペットと一緒に vol.15】
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世界およそ20カ国の犬と人の暮らしぶりを見てきた筆者。今回は、「日本もこれだけ多くのところに犬と同伴できたらいいのになぁ~」と常々羨望の眼差しを向けている、フランスの犬事情を紹介します。
交通機関は人間同様に乗車…!?
ヨーロッパの人々にとって、犬は家族の一員であることはもちろん、しっかり社会の一員でもあるのだと実感させられることが、しばしばあります。
とくにフランスの社会では、犬はいつも飼い主とともにいてあたり前と言っても過言ではないほど、受け入れられています。
メトロ(地下鉄)やバスに乗れば、リード引きのまま飼い主と乗車している犬たちに出会うことも多々。公共の交通機関に同乗させるときはキャリーバッグに入れる決まりが一応は存在するようですが、そのルールすら知らない交通機関の職員もいて、実際は黙認されているようです。
以前、パリの中心部でタクシーを拾ったことがあります。そのとき、助手席にシェパード風の犬が座っていてびっくり! 運転手さんに聞けば、「え? 愛犬だよ。仕事でも毎日一緒さ」との答え。たぶん個人タクシーだったのでしょう。この状態でも問題なく営業を続けていられるのは、さすがお国柄だなと思いました。
もちろん、犬をキャリーバッグに入れなくても、お客さんがタクシーに愛犬と乗車するのも一般的です。
集合住宅はどこでもペット飼育可
筆者は日本でペットOKの賃貸物件を探すのに大変苦労しています。一方のフランスには「犬と猫の飼育を集合住宅の規約で禁止してはいけない」という決まりがあります。
実際、私も友人が暮らすパリ中心部のマンションを訪れた際、狭いエレベーターで狼ほど大きなグレート・デンと乗り合わせたことがあります。日本では、「エレベーターでは犬は抱くこと」、「体重は10kg以内」などという規約がある集合住宅も多数ありますが、フランスでは大型犬でも、なんの問題もなく一般的な集合住宅で受け入れられているのです。ただし、さすがに吠え続けたり、廊下やエレベーター内でほかの住人や犬を咬んだりするといったトラブルが発生すれば、退去を求められるケースもあるそうですが。
それにしても、この例だけを見ても、いかにフランスでは犬が家族や社会の一員として認められている文化が根付いているかがわかります。
乳幼児はお断りでも、犬はOK!?
フランスのレストランには「犬はOK、子供の入店はお断り」なんて看板が掲げられていることも。確かに、筆者自身が園児の母親でもあるのでよくわかります。楽しく盛り上がってくるとつい大声を出したり、じっと座っていることに飽きたりしてしまうのは、犬よりも子供のほうが高確率。きちんとしつけられた犬のほうが、他人に迷惑をかけにくいというフランス流の考え方にもうなずけます。
いくら犬がフランスで大切にされているからといって、日本のように、犬を椅子にのせて飼い主の横に座らせるようなことはありません。あくまでも、犬は犬、人は人。フランス人はこの区別をはっきりさせていて、食事が終わるまで犬たちは飼い主の足元でリラックスして待っています。
レストランや美容院やブティックなどには、店内を事由に動き回っている看板犬に出会うことも少なくありません。ちなみに筆者は、看板犬たちに出会うことも、フランス旅行の楽しみのひとつ。
デパートでは、飼い主さんはリード引きのまま愛犬とエスカレーターに乗り、洋服の試着中は店員さんがリードを持っているシーンも見られます。
銀行や路面店も散歩ついでに愛犬と訪れる飼い主さんも多いのですが、さすがにチーズ店などの食料品店は愛犬との同伴は不可。フランス人はまず犬に洋服を着せることはないので、抜け毛などが飛ぶことも食品に限っては気になるのかもしれません。
フランス人との犬との暮らしを見ていると、犬が社会の一員として受け入れられるためには、子犬のうちから飼い主と行動をともにしながら、さまざまな人や犬や環境への社会化を適切に行うことや、人間社会のマナーとルールをしっかり犬に教えることの大切さを痛感します。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。