筆者が園長を務める「犬の幼稚園」で、園児の飼い主さんから「なるほど!」と思うエピソードを聞きました。愛犬の自立心を養い、留守番上手にさせるにはどうすれば良いのか? ぜひみなさんの愛犬にも試してみてください。
愛犬のストレスを減らそう!
犬の幼稚園に通園している生後7カ月齢のワンちゃんが、登園10回目の先日、ようやくトレーニングルームから人の姿が消えても「キューン」と鳴かなくなりました。
人の姿が消えるとさびしい気持ちになってしまうワンちゃんには、クレート(またはサークル)の中に、おいしいおやつを仕込んだ知育トイを一緒に入れておくので、たいがいはそれに夢中になって鳴かないものですが、さびしさが勝ってしまうコもたまにはいます。
鳴かなくなったことをお迎えに来た飼い主さんに報告すると、「あ! 私がこの1~2週間は多忙すぎて、自宅で仕事しているときに愛犬からアピールされても『ちょっと待って』とか言って相手にしなかったからですかね? それまでは、『遊ぼう』と誘われれば『はいはい』と仕事を中断したり、『抱っこして』と脚をガリガリされれば『よいしょ』と膝に載せていたんですが……」とのこと。
それだ! と、筆者とそのワンちゃんの担当ドッグトレーナーは大きくうなずきました。
簡単に言えば、犬は「アピールしても通じない」と学習し「飼い主さんに頼ってばかりじゃなくて、ひとりでなにかしようっと」と思えるようになったのと、「あきらめる」という選択肢を会得したのです。
この「あきらめる」は、決してネガティブなものではありません。犬が「自分自身の高まる気持ちを鎮めることを、自分の力でできるようになった」と言い換えたいと思います。
自制心を養うのは、人間の子供への成長過程においてはもちろん、犬たちにとっても大切なこと。
落ち着くことを知っている犬は、万病のもととも言われるストレスも少なくなります。
分離不安症をご存じですか?
先述の飼い主さんが、いつも愛犬の要求に応じ続けていたら、もしかすると愛犬が自立心を養う機会を奪ってしまったかもしれません。
分離不安症という病気があります。飼い主さんの姿が見えないと、吠え続けたり、あちこちで排泄してしまったり、家具や手近な物などを破壊してしまったり、自身の尾や足を噛み続けるといった自傷行為をしたり……。強い不安感からストレス行動が起こるのです。
その症状が重くなると、留守番用に獣医師から抗不安薬が処方されることも。行動治療専門獣医師、ドッグトレーナーなどと症状の改善に取り組んでいる分離不安症の犬も少なくありません。
深刻でない症状では、「分離不満症」などと造語的に称されたりしますが、いずれにしても、愛犬がひとりでいることにストレスを感じすぎてしまわないようにしてあげたいものです。
愛犬の自立心を養うには?
では、どうやったら愛犬の自立心を養えるでしょうか? 先述の飼い主さんのような対応も良いかと思いますが、ほかにも方法はあります。
子犬を迎えてすぐに、愛犬のために1日数時間は飼い主さんが無理に用事を作ってでも留守をするのがひとつ。イタズラ盛りの子犬期は、安全基地ともいえるクレートを設置したサークル内に入っていてもらえば安心です。サークル内には、飼い主さんの匂いのついたタオルや、破壊行動の恐れがない愛犬には大きなぬいぐるみを一緒に入れてあげると、さびしさが紛れるでしょう。
子犬期は飼い主さんと一緒のベッドで寝ずに、夜間もサークルでひとり寝をさせるのも、自立させるためには重要なポイント。
愛犬がひとりでいる状況にも慣れたら、目安として1歳以降は同じベッドで寝ても、急に分離不安症になる危険性はないと思います。
ほとんどの犬は留守番中は眠っているようですが、愛犬が少々神経質な性格ならば、ラジオをつけておくのもおすすめです。そうすれば、屋外の音が気になって落ち着かないという状況から救ってあげられるはず。
当然のことながら、放置プレイを推奨しているわけではありません。愛犬とは日頃からたっぷりとコミュニケーションをとっているというのが前提です。
留守番前には遊びや散歩を一緒に楽しみ、心身ともに満ち足りた気持ちに愛犬になってもらえれば「ひとりの時間はゆったり休もうっと」と、愛犬も自然と感じてくれるはずです。
自立心を育むという観点からも、「かわいい子には旅をさせろ」などと昔から言いますが、愛犬が安定した心を育めるためには「かわいいコのためにはひとりにさせろ」ということではないでしょうか?
留守番のみならず、病気での入院時やペットホテル、そして万が一の避難所生活などで、飼い主さんとずっと一緒にいられるとは限らないのですから。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。