あの「スノーデン事件」を基にした映画『スノーデン』が、実に怖いと話題を呼んでいます。
2013年6月、イギリスのガーディアン紙が報じたスクープが、世界中を震撼させました。
その内容とは… アメリカ国家安全保障局(NSA)が、世界中で、あらゆる電話を盗聴している上に、メールやSNSなどの通信も傍受している… というものだったのです。
映画『スノーデン』 予告編
日本を含むアメリカの同盟国も、例外ではありません。
ドイツのメルケル首相の電話、日本の官房長官秘書官の電話、財務省の電話、経産省の電話、日本銀行の電話、エトセトラ、エトセトラ… もう、枚挙に暇がないんです。じゃあ、この映画を撮った監督は、いったい、どこの国の人間なのか?
アメリカにとっては「知られたくない秘密」「どうにもこうにもマズイ部分」を描いているワケですから、「アメリカ以外の国の監督」だと思いがちじゃないですか。
ところが… この『スノーデン』のメガホンを取ったのは、バリバリのアメリカ人にして、名監督、大監督!そう… 『プラトーン』の大ヒットで知られる、かの有名な、オリバー・ストーン監督だったんです!
超大国・アメリカに、真っ向から弓を引く、反骨のアメリカ人監督、オリバー・ストーン。
彼はいったい、何者なのか。そして、どういう考え方の持ち主なのか。
このあたりを知ると、“もうひとつのアメリカの姿”が浮かび上がってくるんです。
反骨のアメリカ人監督、オリバー・ストーン──現在、70歳。
映画界の一部では、このヒトのことを、ハリウッドきっての“変人監督”と呼ぶヒトもいます。
なぜならば、みなが目をそむけたがるアメリカの暗部を、告発し続けているからです。
これまでの作品を振り返ってみても、この姿勢は火を見るよりも明らかでして、まったくブレていません。
たとえば…
『プラトーン』(※ベトナム戦争の悲惨さを浮き彫りに)
『JFK』(※ケネディ暗殺は国家が関与した謀殺の可能性が高い…という陰謀論がテーマ)
『ニクソン』(※ウォーターゲート事件で失脚したニクソン大統領の哀れな姿を描く)
『ブッシュ』(※公開当時は“子ブッシュ”がまだ現職の大統領時代。完全に「ダメ男」扱い)
では、なぜ、アメリカ人なのにもかかわらず、こんな重いテーマの社会派作品ばかりを撮るのでしょうか?
その根っこは、ベトナム戦争にあったのだそうです。
若き日のオリバー・ストーンは、アメリカ有数の名門大学、「イエール大学」に入学したのですが、わずか1年で自主退学しまして、ベトナム戦争に志願。空挺部隊の偵察要員としてベトナムに渡りました。彼が所属していた部隊は、数ある中でも、もっとも死傷率が高かった部隊だったのだそうです。
で、ベトナムで、精神的にかなり追い込まれまして、薬物依存症に見舞われた…。
で、心身共にボロボロになってアメリカに帰ってきたときには、誰も、優しくしてくれませんでした。ベトナム帰還兵には、よくあることです。このまま廃人のようになってしまった帰還兵も、沢山いたそうですよ。
ところが、彼の場合は、ちと、違いました。
オリバー・ストーンは、自分を受け入れてくれなかったアメリカ社会への復讐を誓うようになりました。その「手段」として、大好きだった「映画」を選んだ… というわけなんです。
(※尊敬するのは黒澤明監督。親日家としても有名で、何度も来日しています。)
~さて、そんなオリバー・ストーン監督が、比較的最近つくった映像作品で、世界中で大評判をとった、「テレビ・ドキュメンタリー」があります。
その名も… 『オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史』。
(※原題『The Untold History of the United States』。)
日本では、2012年に、衛星放送で放送されたのですが… コレが大変な労作で、見ごたえ十分!
オリバー・ストーンが描くのは、徹底して、アメリカ現代史の「負の部分」、「ダークサイド」です。
アメリカの国家の誕生から二度の世界大戦、同時多発テロ、オバマ大統領の誕生まで、さまざまな政策の問題点を、膨大な資料や関係者への取材でもって、浮かび上がらせる…というもの。これまでの「アメリカ英雄史観」に、正面から挑む内容となっているんです。
このドキュメンタリー番組が世界的な反響を呼びまして、本にもなりました。
日本語版も、2013年に、早川書房から出版されています。(※3冊完結の実に分厚い本です。)
テレビのドキュメンタリーのほうでも、詳しく描かれていましたが…
この本の中で、もっとも「衝撃的」と言われているのが、「原爆投下」にまつわる記述です。
この「原爆投下」の部分こそが、まさに、『オリバー・ストーンが語るもうひとつのアメリカ史』のハイライトシーンと言われているんです。
いったいどんな内容なのか…? 一部ではありますが、ご紹介いたしましょう。
まず、オリバー・ストーンは、こう断言します。
「『原爆投下は正しかった』というのは、アメリカが創作した神話に過ぎない。」
「原爆投下は、トルーマンという『凡人』によって引き起こされた悲劇なのだ。」
トルーマンとは、原爆が広島と長崎に投下されたときのアメリカ大統領、ハリー・トルーマン。第二次大戦末期に急死したルーズベルトに代わり、急遽、副大統領から大統領に「成り上がった」人物です。
オリバー・ストーンは、本来であれば、大統領どころか副大統領にさえなりえなかったトルーマンを、徹底的にコキおろします。
「1944年7月20日発表のギャロップ世論調査では、副大統領に誰を望むか尋ねられると、民主党選挙人候補の65%がヘンリー・ウォレスと答えている。(中略)
トルーマンは、候補者8人中8位という有様で、調査によると、支持率は2%だった。」「(民主党)大会は、民主党幹部によって牛耳られた。一度目の投票では、ウォレスが他を大きく離して首位にあった。
しかし、党幹部は、会場への入場を制限し、必要な裏取引を行なった。(中略)金も飛び交った。三度目の投票で、ようやくトルーマンが勝利した。」「(本来の正義が行われていたならば)ウォレスは1945年に大統領になり、歴史は劇的に変わっていただろう。
もしそうなっていれば、原爆投下も、核武装競争も、冷戦も、なかったかもしれない。」
(※ハードカバー版/304ページ~305ページ)
そして、この本の『原子爆弾──凡人の悲劇』と題する章で、トルーマン大統領が持っていた、「差別意識」に迫っていきます。
「アジア人に対するトルーマン大統領の狭量な考えの根は(※中略)はるかにさかのぼる、昔にあった。」
「若き日の彼は、こう書いている。(※中略)『僕の叔父は、中国人と日本人を、毛嫌いしている。僕だってそうだ。』」(※同318ページ)
要するに、原爆投下の背景には、トルーマンの人種差別的な考えがあった… というのです。
さらに、軍部から原爆投下を勧められた際に、なぜ諌めることができなかったのか… という点については、原爆開発計画を指揮したレズリー・グローブスの証言を引いて、考察しています。
「私が知るかぎり、(※中略)彼の“決定”は、すでに決まったことには異を唱えないというものであり、トルーマンは『ノー』はおろか『イエス』とさえ言えないような男だった」。(※同346ページ)
そして、さらにグローブスは、トルーマンのことを、一度すべりはじめたら止まらない、「そりに乗った子ども」に例えていた… というんです。
つまり、軍部が「大統領、原爆を落とすべきです」と進言すれば、思いの通りに、意のままに動く人物だった… ということなんです!
さらに、この本には、原爆投下直後のトルーマンの様子がつぶさに描かれています。
広島への原爆投下を知ったとき、トルーマンは、(※中略)アメリカの重巡洋艦オーガスタで食事中だった。
彼は飛び上がって叫んだ。
「これは、(人類)史上最大の出来事だ!」
しばらくして彼は、広島への原爆投下は自分がした中で「最も心躍る」仕事だったと語った。
トルーマンが快哉を叫んだと聞いて、渋面を作った人々もいた。
ある民主党員は、二日後に電報を打って大統領に讒言した。
「無辜の人を死に至らしめる兵器に歓呼するなど、かりそめにもアメリカ合衆国の大統領たるもののなすべきことではない。」(※同355ページ)
…いかがでしょうか。
コレは私が言っていることではなくて、あくまで「オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史」の一幕なのですが…
このドキュメンタリー作品が、世界的な評判を呼んでいるのは、紛れもない事実。
そして、これをきっかけに、栄光の連続であったかのように思えるアメリカの過去を、いま一度照らし出そうという動きが出ているのも、また事実なんです。
反骨の映画監督、オリバー・ストーンという男の生き方、考え方。
あなたは、どう思いますか?
4月5日(水) 高嶋ひでたけのあさラジ!「三菱電機プレゼンツ・ひでたけのやじうま好奇心」より