番組スタッフが取材した「聴いて思わずグッとくるGOODな話」を毎週お届けしている【10時のグッとストーリー】
きょうは、映画音楽・映画主題歌スペシャルにちなんで、東京・下北沢の街に小さな映画館を造り、新しい才能を紹介。
『君の名は。』の新海誠(しんかい・まこと)監督が世に知られるきっかけを作った、ミニシアター代表のグッとストーリーです。
小田急線・下北沢駅の南口を出て5分ほど。ビルの2階にある、席数47の小さな映画館「下北沢トリウッド」。
東京の「ト」と「ハリウッド」を合わせた劇場名には、東京発の、世界で通用する映画を創っていこうという意味も込められています。
1999年の暮れに開場して以来、短編映画や自主制作映画、一般の劇場では上映しにくい映画などを中心に、様々な作品を紹介。
トリウッドでの上映をきっかけに世間に認知された映画監督も大勢います。
「ここでしか観られない映画を上映しようと、この映画館を作ったんです」
と語るのが、トリウッドのオーナーで、代表を務める 大槻貴宏(おおつき・たかひろ)さん・50歳。
大槻さんは高校時代、8ミリカメラを片手に自主映画を撮っていました。
将来は映画の道に進もうと、大学卒業後、アメリカの大学に2年間留学。
映画に関する様々な知識を得た大槻さんは、帰国後、映画専門学校の講師になり、そこで面白い短編作品を撮る若手監督たちと出逢います。
「でも、彼らの作品を上映するところがなかったんです。なら自分で作ろうと思って」。
自分で映画を撮るより、陰でアシストする方が向いていると思った大槻さんは、短編映画専門の映画館を造ろうと決意。とはいえ、経営者の経験もない若者に融資してくれる銀行はなく、大槻さんは妻の由佳里(ゆかり)さんと資金を出し合い、ベンチャービジネスを支援する経産省の助成金制度も利用して、99年12月、下北沢にトリウッドをオープンしました。
「妻は『資金が尽きたら、また二人で出直せばいいじゃない』と言ってくれて、とりあえず、やれるところまでやってみようと」
しかし現実は甘くなく、開場したばかりの頃は、数人しかお客さんが来ない回もありました。
もちろん、収支は大赤字。一時は資金が尽きかけたこともありましたが
「この日までに来場者が目標に達しなければ、閉館します」
と正直に告知すると、必ずお客さんが駆け付けてくれました。
映画ファンにとって、トリウッドは「なくてはならない映画館」になっていたのです。
そんな中、大きな転機になったのが、新海誠監督との出逢いでした。
「妻がCGアニメの上映会に行って『面白い作品があったよ』と教えてくれたのがきっかけです。こんなキレイな映像のアニメを個人で作ったのかと、驚きました」
という大槻さん。
さっそく新海監督と連絡を取り、2001年、まず『彼女と彼女の猫』ほか3つの短編作品をトリウッドで上映することになりました。
「でも、その時はそんなにお客さんが来たわけじゃないんです。反応を見ようと、新海監督もこっそり観に来てたんですが、お客さんが監督だけのときもありました」
と当時を振り返る大槻さん。落ち込む新海監督と、お客さんを呼ぶためには何が足りなかったのかを、一緒に話し合ったこともあります。
そして翌2002年、新海監督の新作映画『ほしのこえ』をトリウッドで最初に上映することになりました。
「予告編がとにかく素晴らしくて、他の作品を観に来たお客さんからも『あれは何?』という問い合わせが、上映前からたくさんあったんです。そんなことはオープン以来初めてのことでした」
本編の製作はギリギリまでかかり、ようやく完成したのは、上映初日の朝でした。
予想を上回る出来に、思わず涙が出たという大槻さん。
映画ファンの間にも口コミで評判が広がり、土日だけでなく、平日も毎回満席に。
休館日にも上映しましたが、それでも満席が続きました。
すると、リピーターの人が
「私は3回目ですから、どうぞ」
と席を譲る光景も見られるように。
「自分が素晴らしいと思った作品を広めたい、というお客さんたちの熱意を感じました。
ああ、いいなあって思いましたね」という大槻さん。
客足は最後まで途切れず、最終日は全員が観られるまで、追加上映を5回も繰り返し、最後の上映が終わったときは深夜0時を過ぎていました。
エンドロールが流れた後、会場には自然と拍手が沸き起こったそうです。
『ほしのこえ』で注目された新海監督は、その後も数々の優れた作品を発表。
去年公開された『君の名は。』は社会現象とでもいうべき大ヒットを記録しました。
普段アニメを観ない層が何度も映画館に通い、口コミで観客を増やしていったのは、『ほしのこえ』をトリウッドで上映したときとまったく同じです。大槻さんは言います。
「この夏、新海監督のように、高校生の頃から一人で映画を創ってきた若手監督の作品をトリウッドで上映する予定です。これからも、新しい才能が商業的に成功するためのアシストをしていきたいですね」
【10時のグッとストーリー】
八木亜希子 LOVE&MELODY 2017年5月6日(土) より
番組情報
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