フィラリア症で死んでしまう犬は今でも少なくないと、先日、フィラリアの予防薬を処方してもらいに行った動物病院で聞きました。犬と暮らすならば、予防が必要な時期や投薬開始前の血液検査の重要性など、フィラリア症についての正しい知識は必ず頭に入れておきたいものです。
フィラリア症は命を脅かす病気
フィラリアは、犬糸状虫という学名を持つ寄生虫の名前です。成虫はオスが全長20~25cm、メスは全長25~30cmほどで白色をしています。
蚊に刺されることによって、ミクロフィラリアと呼ばれる小さな幼虫が犬の体内に入ると、およそ3カ月間かけて発育を続けながら体内を移動します。最終的には心臓や肺動脈にたどり着き、さらに3カ月間ほどかけて成虫になると、幼虫を産みます。一度フィラリアに感染すると、犬の体内でフィラリアがどんどん増えていくのが恐ろしいところ。
フィラリアが増殖すると、血液循環が悪くなり、呼吸器や循環器や泌尿器に障害をもたらします。もし治療が手遅れだった場合は、肺やお腹に水が溜まったり、呼吸困難になったりします。
30年以上前の話ですが、筆者の祖父母宅の外飼いの犬もフィラリア症が原因で心不全になり、命を落としました。
末期は、呼吸が苦しそうで、ゼーゼーと咳をしていました。腹水のせいでお腹が大きく膨らんで見えましたが、体重は減ってガリガリになってしまった姿も脳裏に焼きついています。まさに、手遅れの状態だったのでしょう。
軽症ならば治療も可能
フィラリアに感染しても、初期にはほとんど症状が見られません。飼い主さんが気づけるとすれば、愛犬が軽く咳き込む様子を発見したり、食欲が減っていると感じるくらいだと言われています。
フィラリア症は、軽症であれば駆虫薬で治療が可能です。フィラリアが心臓に達する前に、幼虫の段階で駆除するのです。
もしすでに心臓にフィラリアの成虫が寄生していた場合、駆虫薬によって死んだ成虫の死骸が原因で血流が悪くなり、犬が死亡する危険性も。しっかり検査してから、内科的な治療が可能かどうかを判断して治療を開始することになります。
なお、治療法は、愛犬の年齢や症状やフィラリアの感染数によって異なります。
ちなみに、人間もごくまれにフィラリア症になります。国内でも過去100例ほどは感染例があるそうですが、人間や猫の体内ではフィラリアは犬の体内ほどは育ったり増殖したりはせず、感染しても無症状のケースや、重症化することはあまりないそうです。
血液検査をしてから予防薬を開始しないと危険!
フィラリア症は予防ができる病気なので、必ず愛犬には予防策を講じてあげたいものです。
予防法としては、毎月投与する口から飲ませるタイプや皮膚に直接つけるスポットタイプ、数カ月間効果が持続する注射約など様々な方法があるので、獣医師と相談の上行ってください。
予防薬とも呼ばれていますが、薬は、犬が蚊に刺されるのを予防するわけではなく、蚊に刺された際に皮膚に入ってきたミクロフィラリアが、心臓に到達する前に駆除する役割を果たすもの。
先述したとおり、すでにフィラリアに感染しているのに駆虫薬を飲ませると命に危険が及ぶ可能性があるため、シーズン最初の投薬前には、フィラリア感染の有無のチェックは必須です。
動物病院で犬の血液を少量採取したら、その場でチェッカーを使ってフィラリアの抗原検査が行えます。結果が陰性ならば、安心して投薬が開始できます。
ときどき、前年に使用していて余った駆虫薬を、フィラリアの抗原検査をせずに春になって飲ませ始めたりする飼い主さんもいますが、万が一フィラリアの成虫に感染していたら危険なので絶対にやめましょう。
蚊を年中見かけるような温暖な地域では、1年中フィラリアの予防を続けている飼い主さんも少なくありません。
冬には蚊を見ない地域の場合、フィラリアの予防は、蚊をシーズン最初に見て1カ月以内から、蚊を見なくなって1カ月後までの時期に行います。体内に入ったフィラリアを殺すという性質の薬を使用するからです。
ノミやマダニの予防薬をノミやマダニの活動開始と同時かその前にスタートしなければならないのとは異なるので、ご注意を。
ただし、ノミとマダニに加えてフィラリアも予防できる混合タイプの薬は、ノミとダニの予防シーズンに合わせて投薬を開始します。
フィラリアを媒介する蚊は何種類もいるとか。地球温暖化の影響や、エアコンの普及、年中暖かい地下施設の充実化で、蚊が活動する時期が全国的に長くなっているかもしれません。
愛犬の命を守るためにも、正確な知識を持って対策は万全に。
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。