退職後のシニア世代でも、犬や猫と暮らしたいと望む人が増えています。それに対して、途中でペットの世話ができなくなるリスクが高いと反対する意見が、世間では少なくありません。
今回は、筆者の個人的な意見を述べつつ、シニア世代のペットとの幸せな暮らし方を考えてみたいと思います。
「この子がいる限り、私は元気でいないと」
先日、愛犬雑誌の取材で90代のブリーダーのもとを訪れました。正確にはブリーダーとしては「元」なのですが、今でも現役の審査員として全国のドッグショーで活躍しています。
その方のひとことが印象に残っています。
「今12歳のこの子がいる限り、私は元気でいないとね」。
筆者の祖父母宅にも、中型犬から小型犬まで、いつも複数頭の犬がいました。ふたりとも実際の歳より若く見え、健脚で、あまり風邪をひくこともなかったのは、犬たちのおかげのかもしれないと思っています。
祖父母も「犬の散歩に行かないといけないから、ボケても弱ってもいられない」と言っていました。
祖母と犬の散歩に行くと、「わぁ、もうここの桜は咲き始めたよ」とか「今日は風が冷たいねぇ」とか、季節の移ろいを楽しみながら感じたものです。
途中、「あら? お孫さんとお散歩なんていいわねー」などと声をかけられれば、しばしの立ち話。さらに、同じ犬種を見かけたり、今で言う「犬友」に出会えば再び立ち話。30分の予定の散歩が1時間を超えることはざらです。
昔のドラマのように、「おい」、「はい」、「あれを」、「はいはい」位しかやりとりがなかった祖父と祖母ですが、散歩に出かけたときは知人や初対面の人とよく話をしていました。
祖父の言葉をそのまま使うと「犬に芸を教える」のが好きだった祖父が、愛犬と接しているときは「おおお! よしよし」と大きな声を挙げてよく笑っている姿も思い出します。
犬の存在が高齢者の健康維持に
冒頭の元ブリーダーさんや筆者の祖父母のエピソードからも想像できるかと思いますが、犬と暮らせば、生活にハリが出て気力が生まれます。
いくつかの調査の結果でも、犬と暮らす高齢者は、うつ病や心臓病になるリスクが少ないことがわかっています。うつ病の発症率低下に関係する日光を浴びる時間が、犬の散歩によって増えること、人と話す機会が増えること、犬と心を通わせあうことで孤独感を感じにくくなることなどがその理由だそうです。
高血圧や心臓病の減少に関しては、犬(や猫)をなでることで血圧が安定する効果が得られるからだとも考えられています。
犬や猫を飼っていると食事やトイレの世話も必要になるので、そもそも寝たきりになってもいられません。
筆者も、高齢になってからも犬と暮らし続けたいと願っています。
「もし自分が病気になって愛犬の世話ができなくなったら?」、「介護施設に入居することになって犬が飼えなくなったら?」、「先立ってしまったら?」と、心配にはなります。
けれども、これまで愛犬がどれだけ、人と人との関係を深め、社会とのかかわりをつないでくれたか、そして人生を豊かにしてくれたかを振り返っても、犬のいない生活はもはや想像がつきません。
では、シニアはどんな犬と暮らす?
最近は、保護犬や保護猫を新しい家族に迎える人が増えてきました。
筆者もシニアになったら、同じシニアの保護犬と暮らしたいと考えています。
子犬はエネルギッシュなので、日々のケアやしつけの大変さはもちろん、一緒にたくさん遊んだりと、どうしてもアクティブに過ごさなければなりません。シニア世代には、お互い落ち着いて過ごせるシニアドッグが最適でしょう。
いざ保護犬を選ぼうと思ったとき、成犬以降ならば個性がはっきりわかっているし、数週間のトライアル期間のうちに、性格が自分にマッチするかどうかの判断がつけやすいのも利点です。
さらには、日本の犬の平均寿命が14歳であることを考えると、7歳以降のシニアドッグとの暮らしは長すぎないと思う点でも少し安心できます。
筆者は一度は大型犬と暮らしたいという夢を持っているのですが、さすがに自分が老いてからは体力面でむずかしいと言えます。大型犬しか飼ったことのない欧米人には、最後まで大型犬と暮らしている方も多いですが……。
小型で、豊富な運動量を必要としない犬種がシニア世代には最適と言えるでしょう。
もし筆者の足腰が衰えて散歩がままならなくなったら、ペットシッターさんにお散歩代行をお願いしようと思います。愛犬の介護が必要になったときも、今の時代は老犬介護のプロなどの手を借りることもできるので安心です。
もし自分に万が一のことがあったときのため、筆者の祖父母がそうしていたように、愛犬を託す相手を早くから決めておくつもりです。それは身内かもしれませんし、友人関係かもしれませんが、複数の候補はリストアップしておく予定です。
老齢の愛犬は、再び飼い主さんが変わってしまうと戸惑うかもしれません。なので、筆者が元気なうちから何度も会わせたり、ときには預かってもらったりして、託す相手と愛犬が親交を深められるようにもしなくては……。
と、考え始めればきりがないのですが、とにかく、自分がシニアになって愛犬を迎えるならば、我が家にやってくる新しい犬になるべく負担をかけないですむように、準備は周到にしたいものです。
実は、保護団体や動物愛護センターに犬や猫が持ち込まれる理由として多いのが、飼い主の入院や老人ホームなどへの入所、死別など。これこそが、シニア世代がペットを迎えることに対する反対意見の根源となっているわけですが、筆者自身が老後に犬と暮らすために練った策を講じていけば、愛犬や愛猫も、そして飼い主さんも豊かで潤いのある生活を送ることができるのではないでしょうか? お互い、穏やかな幸福感に包まれつつ……。
連載情報
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著者:臼井京音
ドッグライターとして20年以上、日本や世界の犬事情を取材。小学生時代からの愛読誌『愛犬の友』をはじめ、新聞、週刊誌、書籍、ペット専門誌、Web媒体等で執筆活動を行う。30歳を過ぎてオーストラリアで犬の行動カウンセリングを学び、2007~2017年まで東京都中央区で「犬の幼稚園Urban Paws」も運営。主な著書は『室内犬の気持ちがわかる本』、タイの小島の犬のモノクロ写真集『うみいぬ』。かつてはヨークシャー・テリア、現在はノーリッチ・テリア2頭と暮らす。東京都中央区の動物との共生推進員。